02 ここは、もしかして・・・・・・?
眩しい。
どこからか届く光が瞼を刺激して眠っていた意識が徐々に覚醒し始める。
瞼を開けると、視界に映るのは板張りの天井だった。
「・・・・・知らない天、ゲフン」
冗談はさておき、ここは一体どこだ?
気が付けば俺はベッドに寝かされている。首を巡り辺りを見渡せば、狭い山小屋のような部屋で寝かされている。
ベッドのすぐ横にある木製の鎧戸の隙間から光が僅かに差し込み、俺の顔を照らしてくる。
体を起こしてみると、途端に体全体に鈍い痛みが襲ってくる。
「イテテ・・・・俺、どうして?」
服も着ていたはずのスーツではなく、薄手のシャツにズボンとラフな格好になっている。
どうなってんだ?いまいち記憶が曖昧だ。
よく思い出せ。確か、いきなり森の中で目を覚まして、何かデカい猪に追われて・・・・・
と、その時部屋の扉が開いて男が入ってきた。
「おお、目が覚めたか」
「・・・・・あ」
男の姿を目にして、猪から一緒に逃げていた男だと思い出す。
男は俺に近づいて、顔を覗き込む。
いや、男にそんな近くから顔を覗かれても気持ち悪いだけなんだが・・・・
「うん、顔色も悪くないし、もう大丈夫だな」
男は俺の顔色を窺い、安心したと言う顔した。
「あんたは?てか、ここはどこなんだ?何でこんな格好で寝かされてんだ?」
色々な疑問が浮かんでしまい、ついそのまま疑問を目の前の男に問いただしてしまう。
「まあ落ち着け。いきなりで混乱してるようだし、一つ一つ答えてやるから、落ち着きな。まず自己紹介だ。俺はテムロ。よろしくな」
テムロと名乗った男はニカッと笑って自己紹介してくれた。
その笑みは人の好さそう笑顔であり、少し好感が持てた。
「んで、気絶したお前を俺の家まで運んで寝かせたんだよ。服はボロボロだったから、俺ので悪いが着替えさせたんだよ。お前の服は、ほら、そこにあるよ」
そう言ってテムロはベッドの脇に置いてある籠を指さす。
籠の中には確かに俺のボロボロになったスーツが収められている。
「お前の持ち物も一緒に置いてある。ああ、持ち物は見てもいないし、盗んでもいないから安心しろ。それよりお前、名前何て言うんだ?」
「俺か?俺は天野総司」
俺が名乗るとテムロは首を傾げる。なんだ?そんなに俺の名前って変なのか?
「アマノソウジ?変わった名前だな。それフルネームか?それとも、ファミリーネームも入ってるのか?」
ファミリーネーム?ああ、苗字ね。
そういえばテムロは淡い金髪に目鼻がくっきりとした顔立ちをしている。どうやら外人の様だ。それならば日本人の名前は馴染みがないのかな?
その割には日本語ペラペラなのは疑問だが。
「天野がファミリーネームで総司が俺の名前だよ」
俺が名前の区切りを教えてやると、途端にテムロの顔が驚愕に変わる。
はて?俺、何かおかしなこと言ったかな?
「ファミリーネームがあるってことは、お前、いや、あなたは、貴族様⁉」
「・・・・・は?」
貴族?俺が?いきなり何言ってんだ?いつから俺がワイングラス片手にルネッサンスしたよ。
俺の頭の中が疑問で埋め尽くされているのを他所に、テムロは焦りまっくてオロオロし始める。
「お、俺、御貴族様になんて事をっ!申し訳ありません!田舎者で礼儀を知らず、大変ご無礼なことをっ!どうかお許しください!!」
いきなり理解できないことを捲し立てたと思ったら、深々と頭を下げるテムロ。う~む、意味が分からん。
とにかくだ。
「頭を上げてくれテムロ。俺は貴族なんかじゃないよ」
テムロは恐る恐ると言った感じで、頭を少しだけ上げて俺の顔を見上げる。
「ほ、本当に?貴族様じゃない、と?」
その子供が叱られた様な姿に思わず笑いそうになるが、何とか堪えて頷いた。
「ああ、本当に俺は貴族じゃないよ」
それを聞いたテムロは体を起こし、盛大に安堵の息を吐いた。
「なんだよ、脅かすなよっ!俺はてっきり貴族かと思っちまったじゃないかっ!」
よほど緊張したのか、テムロを八つ当たりの様に喚く。
知るかよ。勝手に勘違いしたのはそっちだろうが。
「しかし、貴族でもないのに何でファミリーネームなんてあるんだ?普通平民なら名前だけだろ?」
こいつの普通って何?つか平民って・・・・・まあ確かにごく普通の一般家庭に生まれたから平民と言えば平民だが。
「知らないよ。天野総司が俺の名前で、それ以上でもそれ以下でもない」
「知らないって、自分の名前だろ?分からないのかよ」
「だから、知らないって」
しつこい奴だな、普通苗字があるのが当たり前だろうが。
「変な奴だな~。そう言えば、お前生まれは何処だ?ここら辺では見ない顔立ちしてるが」
「日本だよ」
「ニホン?」
「そう、日本」
「・・・・・・・ニホンってどこだ?」
「え?」
「え?」
お互いに顔を見合わせてポカーン。
いやいや、日本ですよ?ジャパンですよ?知名度なら世界的に見ても5本、いや3本の指には入る有名国ですよ?そこまで有名か知らんけど。
日本を知らないとか、どんだけ田舎だよ。
てか、ここってもしかして外国?寝てる間に外国にいましたとか、どんなドッキリだよ。
「日本、知らないか?」
「すまん、知らないな。どこの国だ?それとも大陸?」
大陸って。
「え~と、なんて言えばいいんだ?・・・・・そう!中国の隣にある小さな島国だよ」
どうよ。我ながら中々分かりやすい説明ではないか。
そう思っていると、テムロはまとも首を傾げてします。
「チュウゴクってどこだ?」
・・・・・・マジかよ。
中国も知らないのかよっ!マジでどんだけ田舎なんだよっ!
・・・・・・待てよ。先にここがどこかを聞いてから説明した方が早いんじゃね?
「なあテムロ。逆に質問なんだが、ここってどこだ?」
「ここか?ここはシンジアレ国の辺境にある『ノザル村』って言う田舎だよ」
・・・・・・・どこですか?
「わからないか?シンジアレ国。レヴィア大陸の南西にある国なんだが」
レヴィア大陸って何?そんな大陸知らないよ?
「本当に分からないのか?」
テムロに問われるも、さっぱり思い浮かばない。学校の授業でも習った記憶がないぞ。
これじゃあ話が一向に進まない。
テムロの言うレヴィア大陸って言うニュアンスからしてここが外国なのは間違いないはず。ならば。
「なあテムロ。地図はないか?あるなら見せてくれ」
地図を見ればさすがに自分が今現在いる場所ぐらいわかるだろう。
本当はスマホの地図アプリを使いたいところだが圏外で使えないし。
「地図か?分かった、ちょっと待ってろ」
そう言ってテムロは部屋を出て行き、しばらくすると手に地図らしき紙の束を持って戻ってきた。
「ほら、これがこのレヴィア大陸の地図だ」
テムロから地図を受け取り広げてみる。
「こ、これって・・・・・」
そこに描かれていたのは、見たこともない大陸だった。
授業で覚えた世界地図の中には、テムロが持ってきてくれた地図に書かれているレヴィア大陸と同じ形の大陸など存在しない、はず。
流石に世界地図を完璧に覚えているわけではないが、断言できる。
俺の知っている世界地図にはレヴィア大陸言う大陸は存在しない。
なぜなら、ここに書かれているレヴィア大陸には、まるで何かに引き裂かれたかのように、大地に大きな亀裂が書かれていたからだ。
これだけ目立つ印があればいくら何でも記憶に残る。だが実際にはそんなものは俺の知っている世界地図には存在しない。
森で遭遇した巨大猪。
俺の腕から出てきた不可思議な光。
日本を知らないと言うテムロ。
聞いたことも無い大陸の名前。
見たことも無い大地に残された亀裂。
(これは、まさか・・・・いやいや、ありえない。常識的に考えてそれは無い。けど、そうじゃなかったら今この状況は説明がつかない)
「で、どうだ?分かるか?」
うんうん唸りながら地図を見ていた俺を、テムロが心配そうに聞いてくる。
だが、今の俺にはまともに答えてやれる状況ではなかった。
何故なら、この状況に対する答えが一つ、思い浮かんで離れないからだ。
かなり馬鹿馬鹿しい考えだが、もしかしたら俺は・・・・
「『異世界転生』してしまったのではなかろうか?」
今年最後の投稿になります。一年たつの早いなw
PS 最近『仮面ライダービルド』にハマる30代オッサン。
「夜は焼き肉っしょ!」笑わせてもらいましたw