6:権力者を殺せた!!!(うれしい)
これまでのヒロインまとめ
・クズ子:趣味は初心者の馬車に煽り運転かまして石を投げつけること
・ベアト:趣味はマフィアのパーティーに闇営業しにきた女芸人を脅してキメ●ク。「やらなきゃ意味ないですわよ!」
――邪悪なる権力者たちの宴、『人身売買オークション』。その開催場所に向かって、俺とベアトリーチェは夜道を馬車で走っていった。
ガタガタと揺れる馬車の中、ベアトリーチェ(ヤク中)が必死な表情で俺に訴えかけてくる。
「ねぇレイン様、やっぱりやめましょうよッ! 数百人規模の権力者たちが集まったオークション会場を襲撃するだなんて、正気じゃないですわよ!?」
「なんだベアトリーチェ。奴隷制度が禁じられている国で人間の売り買いがされようとしてるんだぞ? なんという命の軽視ッ! 俺は悲しい! 正義の英雄として、これを裁かずにいられるかッ!」
「いやいやいやッ!? その国の中枢に関わる人もお客さんとして参加してるんですからね!? そんな人を殺めたら、国中から追い回されることになりますわよ!」
「じゃあ通報者が出ないように皆殺しにすればいいだろ。仮に追い回されることになっても、追ってくる奴らも皆殺しにすれば解決だろ」
「ひぇっ、駄目だこの人ッ!?」
“誰かこの人止めてー!”と窓の外に向かって叫ぶベアトリーチェさん。しかし馬車を操っている受付嬢ことクズ子から“無理でーす”という回答を貰うと、涙目で椅子の上に体育座りとなるのだった。
「まぁ元気出せよ。最後にお前も始末してやるから」
「元気出る要素がこれっぽっちもないんですけどッ!? ……はぁ、それでレイン様はどうやって参加者たちを皆殺しにするつもりですの?
外には大金によって掻き集められた最強クラスの護衛たちが大量に配置され、いくら意味のわからない強さのアナタでも突破するのに時間がかかるはずです。その間に権力者たちに逃げられたら、アナタは本当に終わりですわよ? 国中から狙われますわッ!」
「なぁに、問題ない。それなら中から攻めればいいだけだ」
「な、中から? ……言っておきますけど、会場に入るには招待状が必要になりますし、不審者を入れないために厳重な審査がされますのよ? それなのに、中からって……」
困惑気味な表情をするベアトリーチェ。おいおい鈍いな、参加者として入る以外にも手段はあるだろうが。
「お前の言う通り、たしかにオークションの客として潜入するのは面倒だ。だったら……『もう一つの立場』で入り込めばいいだけだろうが」
「えっ――ま、まさかレイン様ッ!?」
言葉の意図に気付いたベアトリーチェ。彼女は勢いよく立ち上がり、見事に馬車の天井に頭をぶつけるのだった。大丈夫か?
◆ ◇ ◆
――薄暗き闇の劇場に、蝶の仮面を被った無数の紳士淑女たちが詰めかけていた。
露出した口元を淫らに歪ませ、情欲の輝きを瞳から放つ仮面の集団。
そんな彼らの視線の先にあるのは、唯一光が差した壇上……そこに代わるがわる並べられていく、哀れな『売り物』たちであった。
「――それではみなさまッ! 今や希少となってしまったコチラの『魔族』の少女は、3000万ゴールドで落札となりますッ!」
「「「オォォォオオオオオオオッ!!!」」」
購買意欲を煽る進行役のトークの下、次々と人間を買い取っていく権力者たち。
特権階級である彼らにとって、法律なんてものは二の次。民衆たちから絞り上げた金を使って自分たちの欲望を満たすことこそが第一なのだ。
そんな傲慢な彼らの心に、暗い顔をして売られていく少女たちの心境を想う気持ちなどあるわけがなかった。
かくして数十人の人間たちが下卑た客の下に引き取られていく中、ついにオークションは佳境となる。
「みなさま、大変お待たせしましたッ! とあるお客様より提供されました、本日一番の目玉商品のご紹介ですッ!!!」
そうして壇上に引き連れられてきた幼い少女に――数百人の権力者たちは息を飲んだ。
ああ、今までの売り物たちとは次元が違う……! 例えるならば、妖精の姫君か。
ふわふわとした白銀の髪に、たっぷりとフリルのあしらわれた純白のドレスが狂おしいほどよく似合っていた。薄く開かれた彼女の青き瞳を見つめた瞬間、魂までもが吸い込まれそうになる。
そして何より、違うのはその雰囲気だ。恐怖に震えた他の売り物たちとは違い、彼女はどこまでも透明だった。
この状況が怖くないのか? どうしてそこまで静かにいられる? ……彼女は本当に、血の通った人間なのだろうか?
輝くような白い肌に奇跡のように整った美貌も相まって、神が創った少女人形だと言われれば誰もが納得してしまいそうになる。
「すばらしい……いや、すばらしすぎる……!」
「うおおおお……うぉおおおおおおおおお……ッ!」
誰もが強く確信した。まさにこの少女こそ、美の完成形であると。
ゆえに――、
「ッッッ、3000万ッ! いや、5000万出すぞォッ!」
「だったら私は7000万だッ! その姫君を手に入れるのは私だァッ!」
「ならばワシは2億出そうッ! 彼女こそワシの花嫁に相応しい!!!」
権力者たちは興奮に顔を紅潮させながら、純白の少女をこぞって買い求めた。
ああ、欲しい欲しい欲しい欲しい! 彼女の全てが欲しくて欲しくて堪らないッ! 薄桃色の艶やかな唇を存分にねぶり、褥の上で枯れ果てるまで情欲を吐き出してやりたいッ!
数百人の権力者たちが男女問わず声を上げ、オークションは史上最高潮の熱気に包まれていく。
かくしてついに、王家の者であると噂される大人物が『30億』の値を掲げ、進行係が落札の宣言をしようとした――その瞬間。
「――ハッ、笑えるな。悪党ごときが俺を買えると思っているのか?」
欲望の熱に包まれた会場に、未曽有の事態が巻き起こる。
今宵のヒロインであった純白の姫君が進行役の頭を掴むと、客席に向かって音速の三倍の速さで投げつけたのである――!
当然ながら進行係と直撃した客は木っ端みじんに砕け散り、さらには飛び散った骨と肉の散弾が数十名の客に襲い掛かった!
突然の事態に呆然とする他の権力者たち。だが、漂ってきた濃厚な血の匂いにハッと状況を理解すると、一拍遅れて悲鳴と絶叫を張り上げる――!
「わっ、わぁあああああああああッ!? 商品がっ、人をっ、我らを襲ってきたぞぉおおお!?」
「なんだこれは!? どういうことなんだぁぁあああッ!?」
必死で逃げようとする権力者たち。だが、もはや全てが遅かった。誰もが出口に詰め掛けた瞬間、そこに向かって秒間10人の人間が超高速で投げつけられてきたのだからッ!
それらは脱出しようとしていた集団を粘土のようにグチャグチャと潰し、肉と内臓で出口を無理やり接着してしまうのだった――!
「ひっ、ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!?」
逃げ遅れたことで逆に助かった他の者らは、震えながら後ろを振り向いた。
そこには……つい先ほどまで必死で手に入れようとしていた少女が、『血の雨』を全身に浴びながら凶悪に微笑んでいた……!
「よぉお前たち……民衆から巻き上げた金でヒトを買ってきて、一度くらいはこう思わなかったのか? 悪いことをすれば、いつか誰かにやり返されるってなァッ!!!」
そう言って純白の姫君は――レイン・ブラッドフォールは死体から抜き出した『腸』を鞭のように振るって逃げ惑う客たちの足を絡め、さらには顔面へと『胃』を投げつけて胃酸で目を潰していき、次々と床にひれ伏せさせていく。
そうして、まるで女王に傅く奴隷たちのようになった権力者らの頭を、スカートから覗いた白い足で虫のように踏み潰していった――ッ!
そのあり得ない身体能力に……そして平気で人を抹殺していく少女の姿に、地に転がされた権力者の一人は思う。
隣国『エリシオン』には、数百年前の戦争によって貴族の位に成り上がった、恐るべき殺戮集団の一族がいると。
その一族は強さこそを絶対の正義とし、貴賎問わず強き者を血統に取り込み続けていったことで、素手で猛獣すら抹殺できる『怪物』の開発に成功したのだとも。
「ま……まさか貴様が、例の化け物の一族・ブラッドフォール家の娘なのかッ!? ここっ、こんなことをしてタダで済むとっ、」
「――正義の一族・ブラッドフォール家の息子だ馬鹿め。じゃあな悪党、地獄から俺を応援していてくれ」
“むす、こ……!?”
理解不能の言葉を最後に、踏み殺される権力者の男。
……こうして数百名のマフィアの幹部、さらには貴族や王族たちが、一夜にして姿を消すことになったのだった。
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