4:モラルを殺そう!
――邪悪なる領主を討伐する依頼を解決してから一週間後。俺は領主邸から奪い取ってきた金銀財宝を使い、『コキュートス』の街に孤児院を設立していた!
さぁ、今日も集めてきた子供たちを相手に楽しい授業だ! 俺は壇上に立ち、目をキラキラとさせているキッズたちに真実の歴史認識を叩きこむ!
「いいか諸君ッ! 隣国の『エリシオン』は邪悪なる魔王が支配する罪人の巣窟だッ! かの魔王は民衆たちに歪んだ教育を施し、この国に攻め込むための先兵に仕立て上げているのだッ!
ならばどうする? 決まっているッ! 戦うんだッ! 戦うんだッ! 戦うんだッ! 攻められる前に攻め落とし、諸君らこそが救国の英雄となるのだッ!!!」
「「「わかりましたレイン先生! お国のために敵国エリシオンを滅ぼしますッ!!!」」」
よーし良い返事だッ! エリシオンの国旗を踏んだらおかわり自由の食べ放題ルールを設けてるおかげで、みんな元気モリモリだねッ!
まぁ実際エリシオンがこの国に攻め込もうとしてるのかはよくわからんけど、でも平和を愛する我が『ブラッドフォール家』に冤罪をかけて潰しに来たからには、きっと戦争を起こすつもりなんだろうッ!
うん、そうに違いない! 戦争なんて悲しみを生むだけなのにどうして愚かなエリシオンの魔王はそれが理解できないのだろうか!? 許せないから戦争起こしてぶっ殺してやるッ!
あと前に殺したA級冒険者によると、ブラッドフォール家ってみんなから何故か嫌われてたみたいなんだよね~。
うーんやっぱり魔王のヤツが裏でヘイトスピーチして民衆たちの意識を歪めてるに違いないッ! 一度全員殺しちゃって民族浄化しなきゃッ!
「よし、では今日の授業はこれまでとする。みんな仲良く過ごすように!」
「「「はーいっ!」」」
授業が終わるや元気に教室を飛び出していく子供たち。きっと俺がゲットしてきたモンスター、ベヒーモスの背中に乗せてもらいに行ったのだろう。
最初にアイツを連れ帰った時にはちょっとした騒ぎになったが、俺に一回叩きのめされてることや意思の疎通が出来ることがわかると、みんな安心して接するようになっていったな。ベヒーモスも子供たちに慕われている現状に満更でもない様子だった。
ついでにベヒーモスと一緒に連れてきたゴブリンどもにも道の清掃など簡単な仕事を教えてみたら意外と上手くこなしてるみたいだし、街の一員として上手く溶け込んでいけそうだ。
よーし! この調子で色んな魔物も俺の手下に加えて、エリシオンの魔王をぶっ殺すぞー!
と、そんなことを思いながら帰り支度をしていた時だった。突如として教室の入り口から受付嬢ことクズ子が飛び込んできて、ガックンガックン震えながら俺へと告げてくる。
「レッ、レレレレインさんッ! この地を治める女領主、ベアトリーチェ様がお呼びですッ! いますぐ屋敷に来いとのことッ!」
えっ、マジで!?
「……ああすまん。今日はゴブリンどもに人間の言葉を教えてやる約束をしてるからいけないわ。適当に断っといてくれ」
「って領主様よりモンスターを優先しちゃうとか不味いですよォオオッ!?」
ンなもん知るかッ! 俺が正義だワッハッハッ!
ていうかアポなしで人を急に呼び出すとかすげー自分勝手じゃん? 俺そういうヤバイ人とは関わらないようにしてるんだよね。
「というわけでクズ子、その女領主にこう伝えておいてくれ。“この俺と顔を合わせたいのであれば人間性というものを身に付けてください”って」
「ってわたし殺されますよぉおおおおッ!?」
「安心しろ、お前のことは俺が守る」
「いや殺されてからじゃ遅いでしょうがッ!?」
グチグチと渋るクズ子だったが、キチンと伝言が出来たら強奪してきた宝石類をいくつかくれてやると言うと喜んで走っていくのだった。
うーん流石は業務上過失傷害罪と強盗殺人罪の暗黒コンボの持ち主だ。
詳しく話を聞いてみれば、トロトロ走ってる初心者の馬車を相手に調子こいて煽り運転してたらうっかり事故ってそのまま犯行に至ったというクズ界のレジェンドみたいな人物らしいし、まぁあの女なら殺されそうになったら逆に領主をブチ殺すこともありえるだろう。
最初に俺が冒険者ギルドで絡まれてたときもクスクス笑ってやがったし、自分よりも弱そうな存在には容赦がなくなる性格、直したほうがいいと思いますよ? 正義の英雄である俺を見習って、もっと優しさってヤツを身に付けようね?
――かくして、そんなことがあってから一週間後。ゴブリンたちとおうちで平和にケーキ作りにチャレンジしてたら、領主のところから数十人のザコ兵士が詰めかけて『貴様を強制連行してやるッ!』とか言ってきたので、ムカついた俺は全員皆殺しにしてゴブリンに食わせた後、領主のところに行ってやることにしたのだった。
何の用じゃ殺すぞ。
・夢は魔王を倒す英雄になること! Aランク冒険者レインくんのこれまでの活動記録:殺した人間488人 手下にした魔物106体
うーん英雄に近づいてますね! ご評価にご感想お待ちしてます!