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3:貴族を殺そう!




「――ふっはっはっ、お城ゲットッ!!!」


 初めての依頼でマフィアを皆殺しにしてから三日後。俺は連中のアジトだった古城で最高級の酒を飲みながら高笑いを上げていた!

 いや~こんなに簡単にお城が手に入っちゃうとか冒険者業は最高ですなぁ! みんなも冒険者になってマフィアを殺そうぜッ!


 ちなみに俺がぶっ壊したところは手下の冒険者どもに急ピッチで直させた。最終的にみんなグッタリしていたが、別館もあるようだからそっちに全員住んでよしと言ったら死ぬほど喜んでたな。アイツら金をケチってろくなところに住んでなかったみたいだしよ。


 さぁて、手下に加えて拠点が手に入ったわけなのだが、ここで満足する俺ではない!

 俺の目的は『エリシオン王国』の魔王を倒すことだからな。誇り高き我が家に冤罪をかけてくれた怨み、忘れはしないぞッ!


「さて、そろそろ時間だな。今回こそ行くとしようか、凶悪モンスターの討伐にッ!」


 俺はガックンガックン震えている受付嬢よりとある仕事を貰っていた。

 それはここ数年、誰も解決できなかったAランク級超高難易度依頼『神獣ベヒーモス』の討伐である!

 人語を話せるほどに知能が高いモンスターらしく、皮膚病になったキモい猿のような魔物『ゴブリン』の群れを手下として隣の領地の森を陣取り続けているらしい。それをぶっ殺してこいとのことだ。


 ふふーん、まさに正義の英雄レイン・ブラッドフォールに相応しい仕事と言えよう!

 さぁ邪悪なる獣ベヒーモスよ、俺の冒険譚を彩る花となるがいいッ!



 ◆ ◇ ◆



「――つ、つつつつ、着きましたぁっ!」


「ご苦労」


 ビックンビックン震えている受付嬢の操る馬車に乗り、俺は半日かけて隣の領地の森に辿り着いた。

 ってうわぁーめちゃくちゃ大自然なんですけどー。めちゃくちゃ木々が生い茂っててウザいんですけどー。

 レインくん花粉症だからちょっとこういう場所は勘弁してくれよ……。


「そそっ、それじゃあ目的地に着きましたし、わたしは帰っても……?」


「待て、俺の帰りの足がなくなるだろうが。依頼が解決したらベヒーモスの首をくれてやるから大人しく待ってろ」


「いやいらないんですけどッ!?」


 顔を真っ青にしながら首をブンブン横に振る受付嬢。ちなみにコイツを御者ぎょしゃとしたのは、冒険者ギルドに勤める前は馬車屋で実際に働いていたからだ。

 それなりに腕がよかったそうだが、ある日うっかり横転して乗せていた貴族の客を傷付けてしまい、このままだと処刑されると思ったのでブン殴ってトドメを刺して貴族の死体から金だけ盗んで逃亡したらしい。それで今は名前を変えてギルドでコソコソ働いてるとか。クズじゃねーか。


「じゃあ行って来るぞクズ子」


「ってクズ子ってなんですかッ!?」


 俺にビビりまくってるくせにギャアギャアと喚く受付嬢。業務上過失傷害罪と強盗殺人罪の暗黒コンボの持ち主のくせに生意気にもプライドがあるらしい。平和を愛する俺とは相性最悪ですね。


 うーんコイツちょっとうるさいから昏倒させようかなぁと思った――その時だった。突如として地面に振動が走り、森の奥より巨大な影が姿を現したのは!


『グォオオオオオオオオオッ! 我の森から出ていけぇぇぇえええッ!』


「なんだコイツ、キモ」


「うぎゃぁぁぁあああ出たぁぁあああ!? レレレ、レインさんっ、そいつベヒーモスですよぉッ!?」


 はえー、この筋肉ムキムキのデカくてゴツい四足歩行のサイみたいな生き物が?

 ……なんか思ってたよりも格好良くねぇなぁ。『神獣』っていうからには、もっと神々しくて翼とか生えてると思ったわ。

 俺がそんなことを考えていた時だった。ベヒーモスの野郎は赤い瞳で俺とクズ子を見下ろすと、嘲りの笑みを浮かべてこう言ってきた。


『ンン、なんだぁ貴様らは? いつものように屈強な冒険者が挑みにきたと思いきや、乳の柔らかそうな女と品の良さそうなメスガキしかいないではないかッ!

 もしや領地の連中め、我の機嫌を取るために生贄の情婦でも送ってきたつもりか!? よいぞ、貴様らの見た目は我から見ても合格だ! 散々楽しんだ後で喰い殺してやろうッ!』


 ……ふむふむ、なるほどなるほど? 正義の英雄にして最高に男らしいこのレイン様がメスの生贄にしか見えないと! ふーんなるほどなるほどッ!



 ――よし、殺す。



「オラ死ねパンチッッッ!」


『ってぐぎゃぁッ!?』


 俺は全力で跳び上がり、ヤツの顎へとアッパーを叩きこんだ!

 脳を揺さぶられたことで足元がふらつくサイ野郎。俺はその隙を逃さず、懐から乾燥させた『スライム』の群れを取り出してヤツの口へと放り込むッ!


『ガボッ!? ガボガボガボボッ!?』


 しぼんだ風船のようになっていたスライムどもはベヒーモスの唾液を吸収して一気に膨張し、ヤツの喉を完全に塞ぐのだった!

 さぁ後は簡単だッ! 俺は悶絶しながら倒れ込んだベヒーモスの胸部に降り立ち、全力の正拳を叩きこみまくるッ!


「死ねぇオラァアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


『ギャァアアアアアアアアアアッ!!?』


 呼吸困難に加えて何度も心臓に外的ショックを受け続けたことで、ビクビクと全身を痙攣させるベヒーモス。

 どんな生物も酸欠に追い込み、血流を乱してしまえばこの通りだ。屈強な手足を持っていようが、脳髄が機能不全に陥ってしまえばろくに動かすこともままならなくなる。


 さぁて、だいぶ弱ってきたか。俺は最後にヤツの喉元を力強く踏み付け、喉からスライムの群れを吐き出させてやる。


『ゲホォッ!? ハ、ハァ……ハァッ……! この我を圧倒するとは……何なんだ、その強さは……! き、貴様はいったい……?』


「ほう、流石は知能が高いと言われる魔物だ。格の違いを理解できるくらいの脳みそはあるのか。

 ――俺の名前はレイン・ブラッドフォール。悪を許さぬ正義の英雄だ」


 ゆえに貴様を殺しに来た。そう言って顔面に魔剣を突きつけると、ベヒーモスはぐったりと横たわったまま、力のない笑みを浮かべるのだった。


『ハッ……ハハハ、なるほどな。我は悪として裁かれるわけか。あぁ……本当に人間は勝手なものだ。あの狂った領主こそが、真の邪悪だというのに……ッ!』


「なに? どういう意味だ」


『フンッ、言葉通りの意味に決まっておろう! 数年前、突如として領主のヤツは多くの兵を率い、この森を焼き払おうと攻めてきたのだ!

 なんでも馬車の事故で死んだ息子の霊をとむらうために、土壌豊かなこの地を丸ごと墓に変えようとしているのだとか! まったく、子を失ったことで完全に発狂しておるわ……ッ!』 


「んん? ……数年前……馬車……事故……死んだ貴族の息子……?」

 

 おいおいおい。なーんか耳にしたことがあるぞ、そんな風なワード。


「なぁおいクズ子、今の話どこかで聞き覚えが」


「流石レインさん強くてすごいッ! 早くそいつを殺してくださいッ!!!」


 って誤魔化しやがったこの女! ……はぁ、まぁいいや。原因は何であれ、ベヒーモスを殺すのが領主からの依頼だからな。

 そうして刃を握り直した時だ。最後に、ふと俺は思った。


「って待てよベヒーモス……この森が滅んだら、近隣の住民たちの生活はどうなるんだ……?」


『当然、壊れるであろうな。森が丸ごとなくなってしまえば、付近一帯はろくに動物がいない土地になる。食肉や野草の採取がまったく出来なくなる上、土壌の質も周囲の土地を巻き込んであっという間に落ちてしまうだろうよ……』

 

 だよなぁ~。そうなるよなぁ~。そいつはいけないことだよなぁ~?


 ……なんだ、つまり、どういうことだ? 依頼者である領主は、正義の英雄であるこの俺に、自分勝手な私利私欲のために悪事の片棒を担がせようとしていたってわけか?

 民衆を守るべき貴族の俺に、人々の生活を破壊させようとしていたわけか! ははははっ! ふーんなるほど、なるほどなぁ!



 ――そのことに気付いた瞬間、俺はキレた。



「ってオラァアアアアアアアアアッ!!! 何寝てんだベヒーモスオラァァアアアッ!!!」


『ウギャアアアアアアアッ!?』


 だらしなく寝てる場合かボケェッ!

 弱っていたベヒーモスを蹴り起こし、額から生えた一本角を掴んで言い放つ!


「お前、この森の番人なんだろうッ!? 高い知能でゴブリンの群れを手下にしてんだろう!? だったら引きこもってんじゃねぇぞアホがッ! さっさと行くぞオラァアアアアッ!!!」


『えっ、い、行くってどこに!?』

 

「決まってんだろ、クソ領主の下に攻め込むんだよォッ! それともテメェ、このままずっと領主が派遣してくる兵士や冒険者どもを追い払い続けて、いつか弱り果てて死んでくつもりかぁッ!?

 ちげーだろ馬鹿ッ! 全ての原因である領主の野郎を自分から殺しに行けばいいだろうがッ!!! なぁ殺そうぜ、今すぐ殺そう!!! 嫌なヤツを殺せば問題ごとをだいたい丸っと解決するんだよォオオッ!!!」


 俺の言葉にギョっと目を剥くベヒーモス。ヤツは様々な感情を宿した瞳で、震えながら俺に訴えてくる。


『ッ、それが出来ればとっくにやっておるわッ! だがしかし、いくら我でも敵地に直接攻め込むのは無理が……!』


「――だったら俺が力を貸してやる。邪悪なる領主を討つために、正義の英雄として共に戦ってやろうじゃないか。

 さぁ……選べよ神獣ベヒーモス。いつまでも虐げられる日々を続けてきて、悔しくないのか? 憎くないのかッ!? お前も獣であるならば、胸の殺意に従ってみせろ……ッ!」


 そう言って伸ばした俺の手を前に、息を飲み込むベヒーモス。

 やがてヤツは瞳に憎悪の炎を宿すと、大きな掌で俺の手を握り締めるのだった――!



 ◆ ◇ ◆

 



「――あぁ、我輩の可愛い息子よ……どうしてお前は死んでしまったのだ……!」


 カーテンを閉ざした暗き部屋の中、『トロメア』領の老いた領主は一人寂し気な声を上げた。

 中年になってもなかなか嫁を見つけてこない困った息子であったのだが、嫁に先立たれた彼にとっては大切な家族だったのだ。


 ゆえに、その存在を失ったことで――領主の精神は完全に壊れた。

 もはや彼にとっては民衆の幸せなど二の次である。愛する息子に城のような大墳墓を作ってやるために、民衆たちに重税を強いて金を掻き集め、森を全焼させようとしているほどに、領主は壊れきっていた。


 そのためには森の番人であるベヒーモスが邪魔で邪魔で仕方がない。あぁ、息子を静かに眠らせてやるために、誰かベヒーモスをさっさと殺して森の生命を絶滅させてくれないものか。


 そんなあまりにも勝手すぎることを考えながら、領主が溜め息を吐いた――その時。


『――グォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!! コロスッ、コロスッ、コロスコロスコロスコロスコロスッ!!!』


 殺意に満ち溢れた獣声が、領主邸に向かって響き渡った!


「な、なに!?」


 思わずカーテンを開け、外の様子を確かめる老領主。

 差してきた陽光に目が眩んだのも束の間、そこにあった光景に彼は息を飲んだ――!


「ぉっ、おえええええええええッ!? な、なんだこれはぁ!?」


 窓の外には、鮮血と臓物の海が広がっていた――!


 ああ、果たしてどれだけの人間が死んだのだろうか。そこら中に転がっている鎧から、森を焼くために各地から集めていた兵士の連中だとはわかったものの、そのどれもが人間のカタチを留めていなかった。


 そして死体の山のすぐそばには、全身を血で染めた何百体ものゴブリンの群れと、その主君である人型の巨獣・ベヒーモスが立っていたのである!


「ま、まさかベヒーモスめ、街まで直接攻め込んできたというのかッ!? だがそんな、ぁっ、ああ、あり得ないッ! どうして無傷だというのだ!? 貴様を討伐するために、選りすぐりの戦士たちを何百人と集めたというのに……!」


 悪夢のごとき光景を前に、震えながら呟く老領主。

 そんな彼の言葉に、背後から答える者がいた。


「――すまんなぁ悪党。兵士どもの大半は、この俺がブチ殺させてもらったぞ。神獣ベヒーモスの主君となった、このレイン・ブラッドフォール様がなぁッ!!!」


「なっ――!?」


 突如聞こえてきた声に振り向こうとする老領主だったが、それよりも先に、彼の背に強烈な蹴りが叩き込まれた。

 老いた領主の身体は勢いよく窓を突き破り――怒りに燃えた魔物たちの下へと、成す術もなく堕ちていったのだった。


「ヒッ、ヒギャァァアアアアアアアアアアアッ!!?」


 肉を食い千切る音と共に、領主の絶叫が街の空に響き渡る。

 かくしてトロメアの民衆たちを苦しめていた狂気の領主は、無数の魔物に咀嚼されながら激痛の中で死を迎えることになったのだった。


 無論、そうなった理由は単純明快。


「――はっはっはっはっは! 流石は俺、これにて一件落着だなッ!」


 彼の出していた依頼をレイン・ブラッドフォールという最悪の男が受けなければ、少なくともこんな結末にはならなかっただろう……!


 こうして老領主を抹殺したレインは、迷惑料として領主邸から金目の物を奪い取りまくった後、ベヒーモスの肩に乗って悠々と街に帰還していくのだった。


 


 


・次回こそ人間じゃなくてモンスターを殺したいですね!


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[良い点] 「死ねぇオラァアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」 wwwwww 俺の言葉にギョっと目を剥くベヒーモス。 ハハハw
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