Treasure1 逃亡中のお嬢様
「さーて、何食うかなぁー?」
ボスから貰った金の入った小袋をジャラジャラと音を立て手の上で跳ねさせながら、町を散策する。
この町に入ってまず俺たちは宿屋を確保した。
何も言わずとも薄汚い男連中を見て、厄介そうな奴らが来たと宿主は嫌な顔をしていたけどボスの強面と金を少し多めに渡せば大丈夫だった。
んで、今は自由時間。
俺以外は情報収集だったり、道具の手入れなんてしてるけど……腹減ってねぇのかよあいつら。
中心部に位置する大通りにまで歩くと、カフェやレストランが何軒か並んでいた。
「んー、がっつりと肉って気分だな。ステーキにハンバーグ……か」
そんなことを呟きながらお目当の看板を探しながら大通りを進んでいく。
メインストリートだからか、人がやや多くよそ見をしてると誰かと当たりそうになるくらいだ。
んで、こういうところで出やすいのが……。
「キャーッ!? 泥棒よー!」
人混みの向こうの方からおばさんの叫び声が響いてきた。
ざわつく周りを無視して俺は知らんふりをする。
こんなところを無防備に歩いてるからカモられるんだって話。
何人もの体にぶつかりながらこちらの方に走って逃げてきた盗っ人のおっさんが見えた。
「邪魔だぁー! どけどけ!」
バッグを抱えて必死に走るおっさん。
んー、知り合いじゃねぇな……この目立ちようといい素人の犯行か。
横を過ぎるおっさんの顔をチラッと見て、何もすることなく俺は見逃した。
盗っ人が逃げていったことで騒めいている大通りから俺も逃げるように脇道に入って離れる。
騒ぎに駆けつけた衛兵と鉢合わせなんて御免だからな、めんどくさい事になっちまうし……何よりそんなことになったらボスからゲンコツの刑が…。
基本的に穏便にしていろってのがうちの盗賊団の流儀、ボスの教えだ。効率的且つスムーズに事を運びたがるからなボスは。
「ってここ、なんもねぇじゃん」
大通りを離れたのは良かったが、肝心の肉屋どころか飯屋一つない静かな通りに来てしまったみたいだ。
人も誰一人いねぇし、戻ろうにも大通りは危ねぇな。
ため息をこぼして、殺風景な通りを歩いていく。
とりあえず進んでこの通りを抜けるしかない。その先の通りでなんでもいいから飯屋を見つけよう。
これならさっきのカフェとかで済ましておけばよかったかもな、もう腹が……。
すると、とぼとぼと歩いていた俺にまた何か厄介事が降りかかってきたような感覚が。
足を止めると、この道の先ーー俺が出ようとしていた通りから誰かが走ってくるのが見えた。
「……ん、なんだ? さっきのおっさんか?」
だんだんと距離が近くなっていきその人物がはっきり見えてくる。
美しいプラチナブロンドの長い髪が靡き、俺はその珍しさに目を惹かれた。これがおっさんだったらびっくり仰天だぜ?
もちろんそんなことはない。
高級そうなワイシャツに、ミニスカートを着用した女。しかも若い女だ。
急ぐようにしてこっちに向かっているその女の子を俺は細めになりながら目を凝らして様子を見てみた。
何かから逃げているのか……?
俺の直感と経験からそんな予想を立てた。しかし、何にせよ女の子ってことならちょっと無関心ではいられねぇな。
むさ苦しい男共と一緒に旅をしてた俺にとっちゃ久々の女の子だ。ちょっと口説いてみるのも悪くない。
狭い路地でそんなことを考えていると、少女はもう俺の目の前にまで来ていた。
「ハァ、ハァ……」
息を荒げている少女は膝に手をついて俺の前で立ち止まった。道幅もそれほどないし、俺が邪魔になってるのか?
ちょうどいいや、彼女の顔を今度はじっくり見てみよう。口説いてみるのはその後だ。
ってこりゃ驚いた、目鼻立ちがしっかりしてるしまつげも長い。まるでお人形のような美しさ。幼さがどことなくあるけどべっぴんさんってやつだ。
ふむふむ、全体的に細身で手足がスラーっとしているスレンダーな女の子……ちょっと胸の方が貧しい気がするけど、俺より年下ってくらいか?
「……ハァ、ハァ、あの!」
「どうした? お嬢さん、何かお困りかい?」
品定めをしている俺にそんなべっぴんさんの方から話しかけてきた。
俺は作り笑顔で優しく振る舞うと、彼女は俺の顔を真剣な表情で見つめながらこう言ったーー
「わたくしを守ってくださらないかしら!?」
「……は?」
「おーい! 待ってよお嬢ちゃーん!」
「そんなにビビんなくても酷いことしないからさぁー!」
俺が呆気にとられていると、彼女がやって来た方から大声を出し走ってくる二人の男がいた。
金髪を長く伸ばしているやつと、坊主頭の少し図体のでかいやつ。
手を振りながらアホでもわかる作り笑いを浮かべ、優しさを繕った彼らはどんどんとこっちに近づいてくる。
「突然のお茶のお誘いを断ったのですけれど、あの方たちわたくしの話を聞いてくださらないのです!」
「あー、なるほど。つまりはあいつらもそういうことな」
走ることに慣れていないのか、それとも本当に困っているのか、しんどそうに俺に訴えかけてくる彼女。
やっぱりというかなんというか、俺の予想は当たっていたようで、しつこくナンパされて走って逃げてきたところに俺がいたから助けてくれーーとこの娘はそう言ってるんだな。うんうん。
「走ってまで逃げてるってことは相当嫌なんだな、オーケーオーケー」
「それでは……守ってくださるのですね!?」
俺は目の前の彼女の肩をポンポンと叩き、ニコッと笑顔を見せてやった。それを見た彼女は安堵したようにホッと息をつく。
そうこうしてる間に追いかけてきていた男共がかなり近づいてきていた。
「ーーあぁ? 誰だ、お前」
近くでみるとあまり俺と歳が変わらなさそうな男二人が、苛立ちを込めた睨みを突き付けてくる。そんなに睨むなよ……俺、勝手に巻き込まれただけだぜ?
「あんたら、この娘をナンパしたのはいいけど逃げられてんだろ?」
「お前には関係ねぇだろ! それともなにか、困ってる女の子を助けちゃうヒーローってか?」
金髪の男が笑いながらそう言うと、坊主頭の方もアホみたいな笑い声を出しながら拳をポキポキと鳴らしている。随分と荒い性格してやがるなこいつら。
「あの、わたくしは用事がありますので、と丁重にお断りを……」
「それなら大丈夫だってーちょっとだけだからさっ!」
ありきたりなセリフを吐く金髪の男。
って、この娘もそんな断り方じゃ用事がねぇのバレバレだっての。
「だから、一緒にーー」
金髪の男が彼女の腕を掴もうとしたとき、彼は言葉を詰まらせた。
怯えるように、いや、どちらかというと本当に嫌がっているような反応を示した彼女はあろうことか俺を盾にするかのように後ろに回り込んだのだ。
「も、申し訳ありません……」
ねぇ、それどっちに言ってるの……?
断ったこいつらに対して?
それとも盾に使ってる俺に対して?
そんな彼女の言葉に舌打ちし、目線を俺の方へ向ける金髪男。
「お前ちょっと邪魔なんだけどさ」
「痛い目みたくねぇーならさっさと失せろ」
じわりじわりと迫り来る金髪と坊主の男。こいつらの言うこと一つ一つがなんていうか、呆れるほどアホ臭い。勘違いも甚だしいところだ。
やれやれ、とため息をこぼした後、俺は彼らにこう言ったーー
「この娘助ける気とか全然ねぇーから、ナンパの続きをどーぞ」
横にスッと移動して、後ろにいた彼女を差し出す。
俺のその行動に金髪の男は口がポカーンと開いたままになってるし、坊主頭の方は振り上げた拳が固まったまま。そして、少し戸惑いつつも驚いている女の子。
この裏通りにいる三人が俺の方を変な目で見ていた。やめろ、こっちを見るんじゃねぇ。
「ーーえ?」
気まずい沈黙を破ったのは金髪のよく喋る彼。
「それじゃ、ナンパ頑張ってな」
俺は作り笑顔で手を振り、男二人の間を通り抜けていく。もちろん肩を掴まれて止められたりすることはない。
さてと、飯屋はどこにあるんだ?なんかわかんないけど、もう腹が減りすぎて痛くなってきてる。
この先の通りにもさっきの大通りみたいに何かしらあるだろう。そんな期待をしていると、俺の右腕がガッチリと止まった。
いや、止められた。
「ちょ、ちょっと待ってくださるかしら!?」
「なに? 俺すげぇー腹減ってるんだけど。おっと、俺にナンパなら勘弁な。」
「そんなことしませんわ!?」
振り向くとさっきのお嬢さんが必死な顔で俺の腕を掴んでいた。
「さっきも言ったろ、あんたを助ける気はないから。俺には助けてやる義理も義務もないからな」
「そ、それは……そうですけど……」
「それでも助けろっていうのは図々しくないか?」
俺は遠回しに「離せ」と言っているつもりだ。男二人に追われて困っている女の子を助けるなんてこと、面倒くさくて関わりたくもねぇ。
そもそも、自分の身は自分で守るってのがこの世界のルールだ。あんな清楚な感じの服装をしてうろうろしてたらそりゃナンパされて当然のこと。それで誰かに助けてもらおうなんて考えがまず甘い。
なにより、俺は盗賊だ。善人じゃない。
こんなとこで変に正義感を持つはずがない。
「悪いなお嬢さん、俺は良い人じゃないから」
今度は作り笑顔なんてせずに冷たい目と声で、彼女に現実を突きつけてあげた。
と、ここで俺はあることに気付く。
掴まれている右腕に視線を向けたときに、彼女が指輪をしていることだ。それだけなら特に何も思わない。
だが、その指輪が今まで俺が生きてきた中で一番綺麗だと思わせるほどの美しさだった。透明な楕円形の宝石のようなものがまるで涙のような、そんな指輪。
もしかして、これがあの天使の涙?
なんてことをふと考えてしまった。けど、そんな都合の良い話はないな。
あの秘宝の一つをこんなお嬢さんが持っているわけがないし、わざわざ俺の前に現われてくれるほど日頃の行いは良いものではない。
それでも美しい指輪には違いない。売ったら高値が付きそうなもんだ。
「あ、悪い。やっぱり俺は良い人だわ」
「え、はい?」
俺の言葉にきょとんとしている彼女は未だに腕を離してはくれない。
まぁいいや、これはこれで。
というか、あの男たちボーッとし過ぎてこの娘通り抜けて俺のとこまで来てるぞ。しっかりしろよー。
思わず悪い笑みを浮かべてしまいそうになるが、グッと我慢してさっきの彼女への態度を一変させる。
「あんたを助けるぜ、お嬢さん」
掴まれていた腕を体の方に引き、彼女をこちら側に引き寄せ後ろにつかせる。今度は自ら望んで盾になってやる、そう、望んでだ。
「ってことなんで他の可愛い子見つけてくんないかな? お二人さん」
「ーーって、さっきからお前は何をわけわかんねぇことしてんだ!」
「俺たちを舐めてんのか!?」
まぁ……大人しく引いてくれるわけないよな。
最終的に彼らの感情は怒りとなって、矛先は盾となった俺に向けられた。
「俺も手荒な真似はしたくねぇし、喧嘩は嫌いなんだ」
自分でもカッコつけたキザな台詞だなと思う。
これ以外にあいつらに言う言葉が思い浮かばなかったから仕方がない。ちなみに喧嘩が嫌いってのは本当。
「てめぇ……ふざけるのもいい加減にしろよ」
「一発殴らねぇと気が済まねぇんだわ俺たち」
当然の反応で、睨みを利かせながら俺に近づいてくる二人。
んー、面倒くさいことはあんまりしたくないんだけどな。それに俺もこいつらも怪我するかもしれないなんていう無駄なことは避けたい。
俺は腰に下げていた二つの鞘から、それぞれ短剣を抜き出した。
「不器用だから腕いっちまうかもしんねぇーけど、それでもいいならやるか?」
二人の顔の前に剣先を向け、動きを止めさせる。
ピタッと止まった彼らは声を上げずにただ短剣の鋭利な先の一点を見ている。
武器を取り出すなんて卑怯だ、なんて世間は思うかもしれないが世間体なんて気にしていられないご身分だ。
利用できるものは利用する。この脅しさえすれば、ただのナンパでこれ以上は踏み込んでこないはず。
案の定、怯えた様子の彼らは一歩、また一歩と後退りを始めた。
「へ、へっ……真っ先に剣を向けるなんて、とんだ王子様だな……」
「俺が王子様なわけねぇーだろうが、ほらとっといけよ」
右手に持っている短剣をクイクイと動かし逃げるように促す。声を震わせている彼らにはその動きだけでも恐怖に思えているのか、ビクッと体が跳ねていた。
あいつらも一応ナイフくらいは持っているのだろう。腰にある小さめな鞘を俺は見逃してはいなかった。
が、彼らがそのナイフに手をかけることはなかった。いわばそれは飾りに近い物だから。しかし俺のはそれと違って飾りじゃない。
盗賊として生きていく上で必要不可欠なもの。
「チッ、今はやめとくぞーークソが」
「あぁ、そうだな……」
直感的に俺を変な奴だと思ってくれたのか、行動が普通の奴とは違うしいきなり剣先向けるし、あいつらは気味が悪そうな顔をしている。
とにかく後ろにいる彼女のことは諦めてくれたようで、充分に後退りをして俺と少女との距離を取った後に彼らは背を向けて走り去っていった。
その先はさっきひったくりがあった通りだから人が多いし、すぐ代わりの女の一人や二人すぐ見つけられるだろう。
ナンパ男たちの姿が見えなくなるまでの間に、俺は出した二つの短剣を鞘に納めてから大きくため息をついた。
「仕方ないとはいえ、人助けなんて柄にあわねぇー」
誰に言ったわけでもなくボソッと呟いた。滅多に女の子を助けるなんてことしないもんだから、なんか恥ずかしくなってきたぜ。
「もう、大丈夫そうですね……」
「ビビってたのにわざわざ戻ってくるとは思えねぇーからな、まぁなんとかなったな」
後ろを振り返ると、胸の前に手を合わせて安堵の息を漏らしている少女の姿があった。
ーーっておいおい、なんかこの娘面白い勘違いをしてるんじゃないか?
「ありがとうございます、助かりまーーってなんですか? その手は?」
頭を下げてお礼を言おうとしている彼女の前に、俺は右手を突き出す。手のひらを見せて物を要求しているということを見せつけてあげた。
「お礼なんかいいからさ、金目のものさっさとちょーだい」
「あ、あのーわたくしのことを助けてくださったのでは?」
「助けたからその見返りとして物を要求してんだよ、当たり前のことだろ?」
俺が変なことを言っているとは思っていない。
お礼なんていう一銭にもならないものを受け取っても助けた意味がない、価値のある物を受け取らないと。そのために助けたんだから。
オドオドとして困っている様子の彼女を俺は黙って見ながら、手を突き出したままでいる。
「申し訳ありませんが、わたくしお金を持ち合わせていないのです……」
「別にお嬢さんの手持ちの金目当てじゃない、その綺麗な指輪とかでいいからさ!」
とびっきりの作り笑顔を見せ、俺は狙いをつけていたお宝の交渉を始めた。
女の子が身につけているものといえば小さめのリュックと例の指輪くらいで、リュックの中身なんてどうでもいいほどに俺は狙いを一点に絞っていた。
が、そう簡単に上手くいくわけもなく彼女は目をそらし言葉を詰まらせていた。そして、俺の狙いに気づいたのか指輪を隠すように両手を握りしめた。
「この指輪は……ダメです」
「んー、それ以外には特に金目の物とか持ってなさそうに見えるけど?」
「そ、それはそうですけれど……この指輪だけは絶対に渡せないのですっ……!」
「って言われてもなぁー」
端から見ればただのカツアゲってやつにしか見えないだろう。まぁ実質それだしな。
ため息をこぼしながら俺は差し出していた手を下ろし、そのまま腰にあてる。
「お金も、何も貰えないなんて! 怖い思いをして助けたのに!」
「……その割にはそんなに怖がってる様子には見えませんでしたけど?」
「お嬢さんにはそう見えただけさ」
「うっ、と、とにかく! わたくしには心からの感謝の気持ちを伝えることしかできません。申し訳ありませんが、急いでおりますので……他に何かご希望はありませんか?」
彼女の様子に引っかかるものがあった。
それは俺に対する鬱陶しさ、感謝、そんなわかりやすいものではなくもっと何か複雑な感情、思考。
根拠はない、ただまた俺の直感のようなものがそう感じ取った。
「んー、とりあえずまずなんでお嬢さんが急いでるのか教えてくれない?」
このもやもやとした直感を確かめたくなった。
なんだか嫌な感じがするから。
俺の問いに表情を曇らせる彼女。
本当に急ぎの用件があるみたいだな、ナンパを断るための口実だと思ったけど。
「え、えーっと……特別なことではないので……お話しなくても問題ないかと……」
「なら隠さなくたっていいだろ?あ、別に俺はお嬢さんをナンパしてるわけではないから話してくれよ、な?」
半ば脅しのような口調で問い詰めてみる。
完全に困り果てている彼女は「うー」と小さく唸りながら悩んでいる。
そんなに話せない事情があるのか?
それに指輪に対してのあの反応も気になる。
気になるといえばもう一つ、最初に助けを求められたときから思っていたことがある。
それはこの娘の話し方だ。
「わたくし」だったり、ナンパ師たちに対して無駄に丁寧な敬語だったりと明らかに変わっている。
普通の娘、にしては育ちの良さそうな感じ。
盗賊の嗅覚からしてこの娘は本当にどっかのお嬢さんなんじゃないかという疑問も出てきた。
そうなってくると、あの指輪はどこぞの貴族の物。俺からすれば手に入れてやりたい物となる。
未だに唸り続け何かを隠している彼女に俺は問いを変えて話しかけてみる。
「もしかして、あんたこの辺の貴族のお嬢さんか?」
まさにギクッと肩を揺らしこちらを見る彼女。うんうん、正直でよろしい。となると、彼女はどっかの貴族のご令嬢。そりゃナンパについていくわけもないわな。
「使用人とか付き人とかはどうしたんだよ、そういうのいるはずだろ?」
「うっ、えーっと……と、途中ではぐれてしまって!」
なるほど。とことん彼女は嘘をつくのが下手らしい。人差し指を立て引きつった笑顔を見て、それを信じる奴はまぁいないだろう。というよりサラッとご令嬢ってことを認めたな。
貴族にはだいたい側に誰かが付いているもんだ。
執事だったり、従者だったり。警護やら身の世話をする誰かが。
俺たち盗賊団も何回か貴族の持つお宝を頂戴したことがあるからその辺のことはある程度わかる。
「もしかしてお忍びで街に遊びに来たのか?それとも家出とかか」
「あ、あの、はぐれてーー」
「嘘つきは泥棒の始まりって言葉知ってるか?」
「ーーどちらかと言えば家出に近いです……」
もやもやとしたものがだんだんと消えていく感じがした。今までの彼女の行動や態度が理解できていく、そんな感じ。
といっても、全ての違和感が無くなったわけでわない。まだ彼女からはもやもやとしたものを感じる。
「んで、本当のお嬢様のあんたが家出をして、急いでいる理由ってのはなんなんだ?」
この質問に、彼女の表情をさっきまでのおどおどとしたものから少し凛々しいものへと変えさせた。
真剣な目、何か大事な理由がある。そんなことはすぐにわかった。しかし、彼女の綺麗な瞳の奥の方にある何かがわからない。
彼女は一体……?
「このようなことを貴方にお話しするのは、少しおかしいかとは思いますが……隠しても仕方がありませんね。」
「あぁ、俺はその指輪貰うまで退く気はないからな」
小さく頷いた彼女は、息を飲み一呼吸おいた後に口を開いた。
「わたくしは、この世界を守るために行かなければならないのです」
「……うん?」
俺の想像の遥か斜め上を行くセリフに、思わず言葉が……いや、気持ちが出てしまった。
真剣な顔でこの娘は何を言ってるんだ?
ーー世界を守る?
混乱するのはそのセリフを本当に嘘偽りなく言ったことにある。冗談ではないということは彼女が嘘をつくのが下手ってさっきわかったばかり。
そう、きっと彼女は本気なんだ。だからこそ、 わけがわからない。その言葉の意味が。
俺は「どういう意味だ?」と訊くこともなく、黙ってしばらく彼女の澄んだ綺麗な瞳をただ見つめていた。