勇者2
「…」
勇者は、その場に立つ。
13の魔王の視線の注がれる、その場所に。
今までに感じたことのないほどの強大な魔力を感じる。
「へぇ~?これが例の勇者?」
女の魔王は、表情一つ変えずにそういった。
「…」
勇者は魔力を全開で放出する。
ほとばしる魔力、しかし場の空気は全く変わらなかった。
「……」
女の魔王がその場から消える。
そして勇者の前に立つ。
そして女の魔王は、勇者の額にデコピンをした。
「――」
目では追えている。
しかし、体がまったく反応できなかった。
勇者の体がその場から消えた様に吹き飛び、大魔王の間をはじき出されると、壁に体を打ち付けた。
勇者を中心に壁に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
勇者は目を見開き、額に走った激痛に顔を歪めた。
「…冗談でしょ?」
女の魔王は嘲笑するように魔王へ顔を向ける。
女の魔王の背後、切りかかる勇者。
刃が女の魔王の首に激突した瞬間、理力の剣がへし折れた。
「―」
「……」
振り返る女の魔王、その手のひらが、勇者の胸に触れる。
そして指を倒すように勇者を押した。
勇者の体が、後方へ加速し、先ほど体を打ち付けた壁に再度激突した。
口から血を吐き出し、その場に項垂れる勇者。
銀髪の魔王「……大魔王様、もうよろしいでしょう? 例の勇者とやらの実力もこれで証明されてしまった。 もはや魔王に弁明の余地はない」
大魔王「……うむ」
大魔王はそう一言発すると、興味をなくしたように目を閉じ、そのまま動かなくなった。
11人の魔王たちが、その場から解散する。
「……」
魔王はじっと、女の魔王にいたぶられる勇者を見ていた。
必死に反撃する勇者、血を流しながら、残り少ない魔力で戦っている。
対し女の魔王は、そんな勇者を嘲るように、攻撃をすべてノーガードで受け止め、殺さないよう注意しながら、まるで虫を痛めつけるように勇者に傷を負わせている。
勝負は、誰の目にも明らかだった。
それもそうだろう、この女の魔王は魔界序列第5位の実力者だ。
最弱の魔王と互角である勇者に、もとより勝ち目などあるはずがない。
細目の魔王「悔しいかい?」
魔王「!」
突然耳元で声を発した細目の魔王に、魔王は驚いて視線をむけた。
「君、気づいてないかもしれないけど、あの勇者が来たとき、口元が緩んでいたよ」
「え?」
「あー、やっぱり気が付いていなかったか」
「私が……笑っていた?」
なぜ? 笑う?
「……」
視線を床に向け、思考をめぐらす魔王へ向け、細目の魔王は口を開いた。
「僕はね、君が苦戦するあの勇者に、興味があったんだ」
「…?」
「以前、君からもらったスライムがいるだろう?」
「…ええ」
魔の物にして勇者の仲間になったスライム、その貴重なサンプルを、魔王は魔界に提供していたのだ。
「……もしあの勇者がここに来た理由に、あのスライムが関係しているとしたら」
「…?」
魔王は、細目の魔王の言葉の意味を図りかねていた。
「ひょっとしたら、僕たちはもう、負けているのかもしれない」
「!?……それは一体…!」
細目の魔王に問いを発しようとした魔王は、そこではたと気が付く、その場から離れようとしていた魔王たちが歩みを止め、勇者を見つめていることに




