勇者
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大魔王「……」
大魔王は冷ややかな視線で、魔力が切れ、息も絶え絶えながら跪く魔王を見つめた。
女の魔王「よく生きてここに、これたわね」
傍らに立つ11人の魔王、そのうちの女の魔王の言葉だ。
もちろん心配しての言葉ではなく、無様な醜態をさらしながらも、ここに顔を出せた魔王に対しての皮肉である。
「……」
魔王は、顔を上げることなくただじっと床を睨み、歯を噛みしめる。
人間ごときに…家畜ごとにきここまでやられ、それでもなお死にきれず、ここまで逃げてきた。
とんでもない恥さらしである。
なぜ、自分はこれほどの恥をさらしながらもここに来たのか。
今の魔王に明確に説明するだけの理由は思いつかなかった。
つまり……自分は、想像よりも弱く、卑屈で、臆病者であった…ということなのだろう…
「もうよい」
「!」
「貴様には何も期待をしない」
「……!」
ぷっと数名の魔王が笑い声を漏らす。
細目の魔王「! 大魔王様。」
大魔王「?」
???「…大魔王さまぁあ!」
大魔王の間の扉が開け放たれ、白い毛並に背中から翼の生えた猿型の魔物が血相を変え駆け込んできた。
魔物「人間です! 人間がぁ―」
魔物の発声は最後まで続かなかった。
口から血を吐き出し、崩れ落ちるように倒れる魔物。
細目の魔王「…!」
倒れた魔物の背後から姿を現す一人の男。
フヒューと過呼吸のような呼吸を繰り返す、猿型の魔物をまたぎ、魔王の集結するその場所に一人歩みを進めるその男。
魔王「…馬鹿な」
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魔王は、目の前の光景が信じられなかった。
まさか、あの状態のままここまで来たのか?
魔界に入られることまでは覚悟していた。
だがそこまでだ、その後はまた、インターバルを置いたのちの戦闘になると踏んでいた。
だが現状、勇者はここいいた。
何を思って、こいつはここにくるのだ?
魔力もほぼ使い果たしたはずだ。
より強大な敵がいることもわかっていたはずだ。
なのに――
なぜ
魔王「……っ」
なぜ《ここ》にくる?
魔王の全身の毛が逆立つ。
あの狂化した勇者と戦っていた時にも似た、不気味な予感――
不条理だ、不合理だ、だが――この男は――勇者なのだ。
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