激突2
すなわち、最初から勇者の策のうちだったのだ。
最初の会話、あれで、こちらの時間間隔を狂わせた。
現時刻。まだ、全人類の魔力を集める時間ではない。
つまり、少数の、策を知る者のみの魔力で、全魔力を集めた様に見せかけ、こちらの魔力を削る策略だったのだろう。
事実、こちらは、盛大に魔力を消費してしまった。
魔王「……やってくれる」
こちらが策を知ったうえで、それすら利用してきたというわけだ。
目前、先ほどとは比べ物にならない魔力をほとばしらせ、転移魔法により着地した勇者を見つめ、魔王は顔をゆがめた。
勇者のひと蹴りで、大地が爆散する。
側近の目の前、激突する魔王と勇者。
その余波を前に、側近の体が宙に浮かび、歪に折れ曲がった。
魔王「っ」
問答無用か―
勇者の激突にこらえきれず、魔王の体が浮く。
そのまま直進、魔王城の外壁を突き破ると、場内を転がった。
勇者は、弾けるように魔王から離れると、そのまま魔王とは別方向へ床を蹴った。
魔王「!」
魔王がその方向を妨害するように立ちふさがる。
勇者の理力の剣の一振りを、魔王は前腕で受け太刀した。
スパークと、黒い魔力が弾ける。
強大な魔力の追突により壁や床、天井にヒビが走る。
勇者「……ッ」
魔王「……ッ」
衝撃に互いに後方へ吹き飛ぶ。
地面を削りながら停止する二人。
そして停止と同時に、二人の姿が消える。
爆散する天井
壁を、床を、天井を蹴り、互いを錯綜させる二人。
魔王城を縦横無尽に駆け回り、破壊的な余波をまき散らしながら二人は激突を繰り返す。
勇者の狙いは明白であった。 魔王など後回しにし、魔王の間に到達することである。
魔王の間には、破壊されては困る何かがある、それがなんなのかまではわからない。
しかし、魔王は明らかにその場所を庇うように戦っている。
その状況こそ、重要だった。
勇者の銃剣の銃口が、魔王の間へ向けられる。
庇うようにその場に転移する魔王。
放たれる雷弾が、魔王に着弾する。
魔王「……ッ」
雷弾の直撃により吹き飛び壁を貫通し、床を転がる魔王。
床を腕で撃ち、胴体を起こす。
勇者「!!」
勇者の周囲を覆うように、無数の黒い槍が切っ先を勇者へ向け、空中に召喚されていた。
雷撃の閃光で視界が塞がる一瞬を利用して、防御ではなく、攻撃に転じた――
槍が、一斉に勇者へ迫る。
勇者は跳ねるように跳躍し、迫る槍を剣で撃ち落とし、時に魔法で迎撃した。
その最中の、勇者の背後、拳を振り上げる魔王。
勇者「!」
勇者は咄嗟に体を反転させると、剣の腹で拳を受け止めた。
下から上へかち上げるように振るわれた拳撃に、勇者の体が浮き上がる
魔王の拳の着弾点を中心に、まるで透明な風船が膨らむ様に空間がゆがんだ。
魔王「死ね!!」
やがて空間がガラスの割れるような音と共に爆ぜると、勇者の体は一瞬にして極超音速まで加速し、魔王城の外へ弾き出された。




