罠
魔王は、魔王城の前に残した影の前に瞬間移動する。
勇者「!」
魔王(この状況にだけ関していえば、貴様も想定内なのだろう?)
魔王が避けられないであろう状況で、勇者の出来うる最大攻撃を放つ。
それが圧倒的な実力差の中、勇者に残された最後の策
ただそれは、不意をつければ、の話であろう。
全力の魔力のぶつかり合いを想定した策ではないはずだ。
勇者「 」
勇者は引き金を絞る。
理力の剣より吐き出される雷を纏った極大ビームが魔王へと突き進んだ。
対し魔王、手をかざし、暗黒の波動で迎え撃つ。
抵抗を無理やり突き破る蛇のようにうねるその暗黒と、光溢れる光線が激突する。
魔王「!?」
黒の魔撃は、勇者渾身の魔法攻撃を呆気なく霧散させ、その延長線上の先、勇者を飲み込み、滅却した。
魔王「……」
魔王の眼前、魔法攻撃により、荒野と化した大地を見つめ、魔王は眉を寄せた。
側近「お見事です」
いつの間にか魔王の背後に立つ側近が口開く。
魔王「……いや、違う」
魔王は、地平線を見つめながら、つぶやくように言った。
側近「どうかなされましたか」
魔王「手応えがなさすぎる」
狂化していた時の方が、まだ手ごわかったように思う。
勇者が防戦一方だったのは事実だ。
そんな中で、余を誘導するのも一苦労であっただろう。
ゆえに早い段階で、余の誘導も不完全な状態のまま切り札を使った…
回避不可能の、勇者渾身の最大攻撃。
……それすら…罠?
そう思わせることが重要だったとしたら?
あの手ごたえ…
最大攻撃に見せかけた、…ただ範囲と見た目だけに特化した魔法だった?
魔王「! 側近、今の時刻は?」
側近「は? 今の時刻ですか?」
側近はそういって空を見上げ、太陽の位置を確認した。
側近「……あ」
側近は、何かに気が付いたというように、声を上げた。
それで十分だった。
魔王「勇者め」
魔王は歯噛みする。




