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30000のチカラ

「……」


「……勇者…か?」


「……!?」


 勇者は目を見開く。


 辺りを見渡し、見慣れた祭壇に立っていることを確認する。


(死んだ? 俺が……)


 なぜ? どうやって……?


 疑問が頭の中でループする。


 そんな勇者の横で、まばゆい光がはじけた。


「…ふう」


 粒子を散らしながら、司祭が勇者の横に立つ。


「お前が…助けてくれたのか?」


「……ッ!」


 司祭は、驚いた。


 白く染まった髪、こけた頬、痩せこけた体。


 腕や目元が、小刻みに震えている。


 それだけで分かった。


 この半年間、どんな状況に勇者がいたか。


 助けだせてよかったと思う。


 しかし同時に……また別のことを司祭は考えずにはいられなかった。


 この勇者に……この弱り切った若者に……はたして魔王が倒せるのか?


 倒さなければならないのだ。


 もはや後戻りはできない状況なのだ。


 しかしその勇者がこのありさまでは――


「…ああ、無事…でよかった」と司祭は言う。


「無事だと?」


 勇者の顔が強張る。


 勇者の気配が変わったことに、司祭は緊張を高めた。


「お前このありさまを見て…本気でそう思ってるのか―」


兵士「勇者さま」


勇者の言葉は、突然教会へ入った数名の兵士によって途切れた。


 勇者を見た兵士の目が驚きに染まる。


 しかし兵士は事務的といった様子で言葉をつづけた。


兵士「王がお呼びです、ご同行願います」


「……!」


 勇者は泣き出しそうな顔になった。

「まってくれよ……疲れてるんだ……後にしてくれないか?」


「勇者、行け。」司祭はそう言い放つ。


「!?」


 勇者は信じられないといった顔で司祭を見た。


「…俺のこのざまを見て、お前はそんな事を言ってんのか!!?」


 勇者は司祭へ向け怒鳴る。


「ああそうだ、行け」司祭は変わらずそう言う。


「お前……っ!」


 司祭は、キッと勇者を睨みつける。


「お前は…堂々と勇者らしく……弱音を吐かず行け!!」


「ふざけんな……俺があの場所でどんな…」


「…頼むから!!」


 司祭は叫び声を上げた。


「頼むから!! 弱い言葉を吐かないでくれ! 頼むから! 堂々としていてくれ! そうじゃねぇとみんなが浮かばれないんだ!!」


 悲鳴に近い声で司祭は勇者に言う。


「は?みんな……? みんなって」


「3万人だ。」


「!?」


「勇者奪還作戦に参加した命の数だ」


「は?」


「お前を助けるために、軍の人はもちろん、田舎の農民達も、みんな命を捨てて魔王に挑んだんだ」


「3…万?」


 司祭の瞳から涙がこぼれる。


 志半ばで息絶えた若者を知っているから。


 皆に思いを託し、死に絶えたものを知っているから。


「魔王城での決戦になれば、誰も生きて帰れないと覚悟しながらもな! 実際みんな魔王に殺された! だが、お前はここにいる! この意味が、分かるか!?」


「……っ」


 勇者は、顔をゆがめる。 そんな勇者の両肩をつかみ、司祭は懇願するように口を開く。


「だから勇者……頼むから……みんなの覚悟を、思いを、無駄にしないでくれ……っ」


「……」


 勇者は茫然と、司祭を見つめる。


 3万…? 俺を救うために?


 そんな……


 俺を助けて……


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