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さくせんのけっか…

「勇者様……、ささ」


 女はスプーンに救った粥を、勇者の猿ぐつわの方へ差し出す。


 勇者の口を拘束している猿ぐつわは、中央に貫通した穴があり、そこから食物を通すことができた。


 穴を通して流し込まれる粥を、勇者は飲み込む。


 毎日一度、勇者と女がいる牢獄には食事が出された。 


 毎日変わらず、二枚の食器に粥が乗せられている。 味のない粥であり、ただ栄養を取るためだけのものだ。


 両手両足を拘束された勇者は、それを女の介護を借りて食べていた。


 そんな生活を続けて三日、その日、勇者は気が付いた。


「ささ、勇者様どうぞ」


 女の差し出す粥を、勇者は首を振り拒んだ。


「勇者様…まだ半分しか食べておりませんよ」


「……」


 違う、勇者は気が付いていた。 二枚の食器に入れられた粥、女はそれを取るとき、隠れるように自分の分を勇者の食器に移していることに。


 それでも少なすぎる量だ。


 痩せた女を、勇者を目で制した。


「……ありゃ、お気づきになりましたか?」


「…」


 勇者はうなずく。


「お優しい……こんな状況でも、勇者様は…やっぱり優しいのですな」


「…」


「勇者様…おらを覚えておいでですか?」


 女の問いに、勇者はうなずいた。


「ほんまですか…うれしかぁ」


「……」


「魔物に困ってたおら達を、救ってくださった恩、微々たるもんですが…返させてくだせぇ」


「…」


 勇者は首を振る


「……勇者様」


「……」


「…ありがとうございます」


 女は、あきらめたように、粥を自分の口へ運んだ。



 二ヶ月が、何事もなく過ぎた。


 そしてその日は訪れた。



声が、聞こえる、うごめくような、いびきのような声


 牢屋に響く声。


 その正体を、俺は知っている。たしか最初の拷問の時に……


 勇者は、猿ぐつわを食いしばり、苦悶の表情でその声を聴き続けた。


 牢が、開く。


「入れ」


少女「……」


 ぶるぶると体を震わせながら、まだあどけなさの残る少女が勇者の牢に入った。


「……ッ」


 勇者は、目を見開き、魔王を見た。


魔王「貴様が信仰を捨てれば、今すぐにでも解放してやる」


 魔王はニタリと笑うと、牢を後にした。


少女「なにこれ、いびき…?」


 牢に響く声に、少女は怪訝な顔でそうつぶやいた。


 違う


 勇者は否定する。


 この声の主は、昨日まで自分の世話をしてくれた女だった。


 昨日、魔王が牢を訪れ、そして


 そして……


 魔力で女の体を無理やりゆがませ、球体の肉団子に変えたのだ。


 痛覚はそのままに、だ。


 一度経験したことのある勇者はわかる。


 その苦痛は、想像を絶する。それが継続して続くのだ。


 生きている限り、魔王が解こうとしない限り。


 この声も、最初は悲鳴のように力強かった。


 しかしそれも今、うめくような軋んだ声に変っている。


 肉団子になった女は、牢の奥に移動させられた。


 ただ声だけが、勇者の耳に入るように。


 苦痛の声が。


 あの優しい人を……


 俺が信仰を捨てるまで。


 魔王はこれを繰り返すのだろう。


 次はこの少女というわけだ。


 この少女にも見覚えがある。


 やはり、かつて救った町の子供だ。


少女「……勇者さま…せっかく救っていただいたのに…こんな形で再開してしまい、申し訳ありません」


 少女から感じられる優しさに、勇者はただ震えた。


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