ゆうしゃのていぎ
「……」
司祭は神官を庇うように、おおよそ勇者らしくない勇者の前に立ち、緊張を高めた。
場所は教会、祭壇の前。
「勇者?」
「ぎりぎり…意識はある」
コミュニケーションが取れることに司祭は安堵する。転生によって、呪いのかかる前の状態になることは、これで実証された、しかし呪いの装備を纏っているため、またすぐに呪いにより正気を失ってゆくのであろうが。
「すぐ行くのか?」
「ああ、自我があるうちに、まず感染して、魔王城に乗り込む、あとは、狂気に身をゆだねるだけでいい」
「…勝機は?」
「手ごたえは…ある…と思う。 悪い、もう行く、長いこと正気を保っていられる自信がない」
「…そう…か」
勇者は踵を返すと歩き出し、教会をでると転移魔法を発動した。
「あれは…勇者なのですか?」
神官が怯えたように、司祭に尋ねる。
「…ええ、そうです勇者です、今、人類のために必至になって戦っている、俺たちの知る勇者ですよ」
司祭は、願うようにそう応えた。
勇者は魔物の巣の、岩石地帯へ移動すると、迫る狂気に歯を食いしばりながら、一頭の巨人を瞬殺する。
吹き出る血を飲みほし、すぐさま転移魔法、すでに正気が曖昧になる。
魔王城を駆け抜け、魔王の間へ、そこに魔王の存在を認めた勇者は、あとは狂気に身を委ねる。
竜巻のような乱舞の激突の末、二人はお互いに後方へ吹き飛ぶ。
「…っ」
着地と同時、魔王は手のひらを前方へ突出し、野球ボールほどの大きさの光球を30個召喚、勇者へ向け放つ。
「!?」
しかし、視界の先に勇者はいない。
魔王は視線を上へ、双刃を振りあげ、上空から切りかかる勇者をみる。
魔王は、手のひらを上へひねる、放たれた光球が急旋回し、上空の勇者へ迫った。
対し勇者、魔力で自分の体をはじき、光の球を避ける。
落下運動の中、光弾を躱し切りそのまま魔王へ切りかかる。
魔王はバックステップで回避。
床に激突する二つの刃、勇者の着地地点に、ワンテンポ遅れて光球が着弾。
30発の光弾が雨のように降り注ぎ、粉塵が巻き上がる。
「ウ゛ォォオオオオ゛ッ」




