【おまけ】レイス君とお出かけ その4
一時間たっても現れなかった諦める。何とかこの条件を勝ち取った。
「学外活動の内容報告、そいつとの契約にしようと思ったのに」
とかなんとか言ってたが、知ったことではない。
しかも詳しく聞けば、私と会うために契約するのではなく契約するために私を呼び出したらしい。
やけに長いとは思ってたんだ、冬期休暇。
契約結べばいいやって一か月間の学外活動申請して、結局無理そうだから一週間延長申請してまで人を巻き込んだそうだ。
利己的な人を人とも思わない所業である。
むしろこのまま失敗して一回怒られたほうがいいんじゃないかな。
成功すると今後も最終手段としてこの方法を使う可能性があるわけだし。
「でないなー。条件はそろってんだけど。甘い物、生きた少女、高い場所。────ミラ、ちゃんと生きてるよな?」
「当たり前! そんなありふれた条件で呼び出そうとしてるほうがどうかしてる」
絶対にいるでしょ、同じ条件下の女の子。
「あ、あと、燃えるモノも」
「ゲッ、それってまさか私を括り付けてるこの木のことじゃ……」
「違う。それじゃない」
「じゃあ何?」
「俺には欠けてるモノ」
だから何だよ? 常識? 燃える常識って何よ。わけわからん奴だな。
「何とそんなに契約したいの」
「火の神様」
「ほー、神様。大きく出たね」
いくらうちの国が多神教とはいえ、そう簡単に神と契約できるわけがない。
ティナだって初の神との契約は十五歳だぞ。それ九歳でしようなんて。まあティナはそのあと立て続けに五柱の神と契約して召喚できるようになったけど。
「なんで火の神狙い?」
「火術ってモテるじゃん」
「そこは普通なんだ……」
もっと突拍子もない理由かと思った。
でも、これは残酷な事実なんだけど、火術をやってればモテるってわけじゃないんだよ。術者人口が多いからほかの術と比べてモテてる人が多いってだけで、その何倍もの人が無難に人生を送ってるんだ。
要は、顔。
いや、レイス君は格好いいと思うけどね、私は。
遠回しにでも伝えてあげねば。
「あの、レイス君」
「ん?」
「ショウ王子いらっしゃいますよね」
「え、うん」
「学校での生活を思い出してほしいんだけど、ショウ王子が火術を使えば周りの女の子たちからキャーキャー言われるけど、別に火術でなくてもキャーキャー言われてるよね」
「えっと……」
レイス君が考え込む。
気づいたかな?
遠回しに、遠回しに。
「アザンツ学園の女子生徒は火術を使うショウ王子が好きなのではなく、ショウ王子が好きなわけで」
格好いいと思うけどね、レイス君。
「何を使うかより誰が使うかが重要なわけで」
私は好きだけどね、レイス君!
「そのことについてどう思うかな」
「……」
自分のやってることの無意味さに気づいてもらえただろうか。
大丈夫。十人が十人ショウのことを好きなわけじゃない。人間は顔でもない。自分の思考が人と違うことを理解したうえで、人に合わせることができる君ならまだ戻れるよ。
レイス君は逡巡した後、私をじっと見る。
「俺も聞いていい?」
「何?」
「なんでショウ王子がアザンツ学園にいる前提で話してんの?」
「へ」
思わずとぼけた声が出た。
「王子がすごい魔術の使い手ってのは聞いたことあるけど、学園には通ってないよ」
「え、だって……」
「だって?」
だって『花咲く国のティナ』ではショウはアザンツ学園の生徒だった。高等科からじゃなく昔からの。
え、え、違うの?
私の読んだ『花咲く国のティナ』と違ってる?
そんな、困るよ。ショウがアザンツ学園に通ってないなら、ショウとティナはいつどこで再会するわけ? ユーフェミア様をお救いする傍らで、ショウとティナを応援しようと思ってたのに……。
気持ちが一気に沈む。
「で、ショウ王子が何?」
「今落ち込んでるからそっとして」
「ヤダね。返答によっては今日中にあと三体捕まえなきゃいけないからミラは正直に答えたほうがいい」
「⁉」
無茶無謀な恐ろしい計画を立てられたぞ! 一人でやれ。
だいたい『花ティナ』と違うっていうなら私に答えられることは何もない。
「なんでそこまでそこまでするの?」
「言ったろ。俺、負けず嫌いなんだって。俺より強い奴がいるならそいつを越したいんだよ」
言ってることだけなら少年漫画の主人公みたいなのに。
でもなんかその発言は前世の幼馴染を思い出す。あいつ、元気かなあ────って、多分あの時死んでるから元気じゃないか。
「アザンツ学園にはそんなに強い人がいるの?」
「ああ。俺と同じ学年に有名な魔術師一族の坊ちゃんがいてそいつがいる限り俺は一番になれないんだ」
あ、その発言は好敵手っぽい。
「今はまだ二番手だからいいけど、俺よりすごい奴らが学園にやってきたらって思うと」
二番手、すごいと思うけどね。
この後ユーフェミア様が入学されて高等科からティナが入学したら、レイス君は最終的に四番手以下に落ち込む可能性がある。
「それ二番からさらに下がったらどうなるの?」
「上位陣を消す」
「……ハ?」
今、なんて言った?
上位陣を消す?
それはつまり、
「ユーフェミア様を狙うってこと!」
怒りの炎が燃える。
レイス君はたじろぎつつもすぐ平静を取り戻してポケットに手を突っ込んだ。一瞬膨れ上がった魔力がすぐ静められたあたり、魔力阻害機の出力を強めたな。
「急ににらむなよ。ユーフェミアってハワードの婚約者だろ、彼女が何?」
「ユーフェミア様の命を狙うつもりだろ」
「なんで?」
「ユーフェミア様がレイス君より強いからだよ!」
不思議そうな顔するなっ。
強く美しいユーフェミア様はすぐ学園の頂点をとるに決まってる。んで、高等科でティナに抜かされて嫉妬するわけだけど、それまではショウと成績競争で抜きつ抜かれつするんだからレイス君の入る余地はない。よってレイス君はユーフェミア様を狙う。
あー、まさかの伏兵。
ユーフェミア様の性格改善したとしても、こんなところでユーフェミア様に死がもたらされるとか。
運命はどうあってもユーフェミア様を殺そうとするらしい。
そんなの、逆らってやる!
「もしかして怒ってる?」
「当たり前」
「ふーん……そっか」
熱くなる私とは裏腹に、レイス君はにやりと口の端をあげ、ポケットの中にまた手を突っ込んだ。出力最大限になっていたようで、効果を感じない。むしろ怒りの力が湧いてくる感じさえする。
「何が楽しいわけ」
「楽しいっていうか、面白いかな。だってあの子が俺に勝てるわけないじゃん」
「ハアッ⁉」
ユーフェミア様を侮辱しやがった。
「だって幼等科に入学できなかった時点で差は歴然っていうか。あとから入ったやつに何かできるわけないじゃん」
こいつ、ティナまで!
「よりにもよって私の大好きな二人をっ! 『追うものを侮るな』あんたんとこの学長の言葉でしょ!」
「は? 何言って────ああ、あんなのただの慰めだろ。ホンモノは最初でつまずいたりしないんだよ」
レイス君は嘲笑を浮かべる。
ムカツク。
いったい何なの、こいつ。あーもう、イライラする。
熱い。
腹が立つ。
燃えそう。
怒りの炎が吹き荒れる────!
ボッ
「────────へ?」
背後の木が急になくなり、気づいたら落下していた。
「ええええええええええええええええええええええええええええええ」
「ミラッ!」
間一髪。
レイス君から伸ばされた手をつかみ、事なきを得る。
焦った。怖かった。死ぬかと思った。まだ心臓がバクバク鳴ってる。
大型犬の背に乗り、まだ落ちているような感覚から逃れるためレイス君にしがみつく。
「い、今、今っ!」
「ミラ、あれ」
レイス君に言われ下を見てみると、真っ黒に燃え尽きた木の残骸があった。
「木は燃えないって! なのに!」
「ミラ、あれ」
レイス君に言われ上を見ると、真っ赤に燃える人型の妖精がいた。
いや、この見てるだけで圧倒される存在感、多分神様だ。
「火の神ボジュ。────やった!」
レイス君が両手を上げて喜ぶ。
ちょ、動くな。また落ちたらどうする。
「しっかり捕まってろよ」
「わっ」
レイス君の手が私の頭にまわり、レイス君の胸へと押し付けられる。
火神ボジュの元へと急上昇したのを感じ、こっちも振り落とされまいとレイス君の首に回した腕に力を入れた。
ピュッと昇って、パッと止まる。
予備動作なしの荒い移動方に心臓の鼓動が一段と大きく早くなるのを感じながら、火神ボジュに目を向けた。
人間でいえば二十歳前半くらいの容姿をした男神。ぱちぱちと火を散らし全身で火の神であることを主張する熱い見た目とは裏腹に、その目はとても冷たかった。
「見ていたぞ」
火神ボジュが低い声でそう告げる。
「その娘の怒りでこうして顕現するまでずっと見ていた」
低い低い声。
「お前たちが俺を呼び出そうとするその姿を一部始終ずっとだ」
目をつむりながら静かにそう告げ、次の瞬間、クワッとかっぴらいた。
「貴様らっ、怒りの炎などで俺を呼び出しおって! 俺が恋の炎を司る火神ボジュと知っての狼藉か! そこに直れっ、説教してくれる‼」
ものすごい剣幕でレイス君ともども怒鳴られた。
訳が分からずレイス君を見ると、
「火神ボジュ。自分で言う通り恋愛の神様だ。────強いよ」
と、教えてくれた。
「恋の力は偉大なり、愛の力は無限なり!」
レイス君の言葉を補足するように火神ボジュが胸を張って言う。
お、おー、恋愛の神様ですか。
また意外な。
「出てきたってことは俺との召喚契約に応じてくれるってことだよな」
「俺はその娘の怒りの炎で出てきただけだ。契約を結ぶならその娘とである」
「え、私⁉ 私はいいや。レイス君に譲るよ」
「だそうだ」
「ムウ……」
火神ボジュは不満そうに口をとがらせ、一つ条件を出した。
「小僧が俺を満足させるような恋の話をしたら契約してやろう」
レイス君が眉を顰める。
あー、これはダメな奴だ。人を人とも思わないレイス君にそんな話できっこないもん。
ここまで来てなんだけど、報告なしで素直に怒られろ。
レイス君は困ったような顔でボジュに言った。
「失敗話でもいいか?」
「よかろう」
え、あるんだ。
ちょっと気になる。
「実は今日」
ん、今日?
「女の子とデートだったんだけど、俺デートなんて初めてだから柄にもなく緊張してたんだ。でも服も褒めたし、格好つけた臭いセリフも言ったし、自分なりに頑張った」
「ほう」
「なのに全然相手にされなくて」
「ほうほう」
「吊り橋効果も狙ってみたけどドキドキどころかイライラさせてしまって、逆効果だった」
「ほうほうほう」
「もうあきらめたほうがいいって思うだろ? でも今になってこうして引っ付いてきてあきらめきれないんだよ」
「ほうほうほうほう」
「今日は失敗したけど、また誘ってみようと思うんだ。────こんな感じでいいか?」
「合格」
火神ボジュは満足そうな笑みを浮かべ、自身の纏う火で暖かな光を放つ火の玉を作り出しレイス君へと授ける。レイス君が受け取ると、火の玉はレイス君の体内へと浸透していった。
「俺は神だ。妖精のように専属契約には応じんが俺の力を一部貸してやる。────恋愛話をするのであれば俺自身が出向いてやる。ではな」
火神ボジュは恋バナを催促して消えていった。
レイス君の指示で大型犬はゆっくりと降下し、着地する。
その背から降り、大型犬を妖精箱へと還したレイス君を見て言う。
「嘘つき」
「うまいこと盛ったろ」
レイス君はにやりと笑う。
なーにが、失敗話よ。火神ボジュを呼び出すため私にドキドキさせようとしてただけじゃん。なんだかんだ呼び出したんだから成功話だし。
ハー。やだやだ。
あの甘い言葉も歯にかんだ笑顔も全部嘘だったてわけね。
「恋愛なんてくだらないモノ司ってんのに、恋愛の神って本当強いんだよ。これでしばらくは学園生活安泰かな。助かったよ、ミラ」
「どーいたしまして」
レイス君と喋ってると口が歪みそう。
さっさと帰ろ。
最低限の別れの言葉を言って、帰路につく。
「待った」
手をつかまれ引き留められる。
「何?」
「さっき言ってた『追うものを侮るな』って言葉だけど」
「ああ、どうせその辺のくだりも芝居なんでしょ」
恋の炎は燃え上がらないから、怒りの炎に切り替えたとかそんなだ。
ポケットの中の魔力阻害機を使ったはずなのに力が湧いていたのは、出力を弱めてたんだろうな。
やだやだ。
「芝居だよ。じゃなくて、その言葉。学長じゃなくて副学長の口癖だって知ってた?」
「え、そうなの?」
『花ティナ』じゃ学長の言葉になってたけど。
じゃあ、副学長は後六年の間に出世するんだな。
「王子のことといい、副学長のことといい、ミラって未来が見えてる?」
ギクッ。
「な、なんのこと? そんなわけ────」
「俺が何でモテたいかっていうと恋愛の神を呼び出しやすくするためなんだけど、相手をミラ一人に絞ってもいいんだぞ」
「は? ヤダ、何その恐ろしい脅し!」
「ボジュにまた誘うって言っちゃったしなー」
「ヤダ、絶対いや!」
「交換条件といこうか、ミラ」
レイス君が笑う。
期限一時間の交換条件を引き出した時とは反対に、今度は私が条件をのむ羽目になった。
泣く泣く前世のことや、ユーフェミア様のことを教える。
ユーフェミア様生存の手伝いをするという言葉はありがたく受け取るけど、もうこいつとは関わり合いになりたくない。
後日、ハワードからからかい気味にレイス君とのお出かけのことを訊かれたけど、思い出すのも忌々しくて適当に答えた。




