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7月7日(月) 8時25分(c)

僕は人間を探して、池袋の街なかを走り回った。


本屋、ゲームセンター、喫茶店……、

しかしどこへ行っても、明かりは点いているというのに、人の気配だけがなかった。


(そうだ、深神さんの事務所は……!?)


僕は最後の望みをかけて、駅前のさびれた雑居ビルへと向かった。

うす汚れた階段をかけ上った先には、いつもと同じ"深神探偵事務所"と書かれた看板がかかっている。


しかし、その扉を押しても、ガチャ、と音がしただけで開くことはなかった。


(……カギがかかっている……)


ハルカ。

深神さん。

……緋色。


まるで彼らに、冷たく拒絶されたかのようだ。


「落ち着け。……落ち着け……、落ち着け」


僕は自分に言い聞かせた。

油断すると、考えること自体を放棄してしまいそうだった。


ほんとうに、僕はひとりきりになってしまったのだろうか。

それとも僕の頭がおかしくなってしまったのだろうか?


気持ちわるい。

考えたくない。


「……う……わああぁあっ!!」


たまらず、叫んだ。

こわかった。


とにかくだれかが、だれかに、だれかを。


息を吸う。

肺にたまっていた狂気にも似た不安とともに、胸につかえている感情をはき出す。


「だれか! だれかいないか! だれでもいいから! 聞こえたら返事をしてくれ!」


はやくだれかに会いたかった。

だれでもいい、「これは全部うそだよ」と、肩を叩かれることを切に願った。


お願い、お願いだから。

だれか出てきてくれないか。


「あああぁあぁッ!」


のどが痛い。

でも、叫ばずにはいられない。


夢ならさめてくれ。

そうだ、夢なんだろう?


「夢だと言ってくれよっ……!」


ひざをついて、アスファルトをにぎりこぶしで思いきりなぐった。


右手の甲から指、ひじへと痛みが走る。

手の甲には、じわりと血がにじんだ。

じんじんとしびれるその痛みに、「現実を見ろ」とあざ笑われたような気がした。


……はやくここから出してくれ。

僕の気が狂ってしまう前に。



「あの……」



そして唐突に、その声は聞こえた。

待ち望んでいた僕以外の、だれかの声だった。


勢いよくふり返ると、そこに立っていたのはひとりの小柄な少女だった。

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