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7月7日(--) 59時22分(b)

僕は道中どうちゅうの自転車を拝借して、池袋まで向かった。

だれもいない大きな道路のど真ん中を自転車で通り抜けるというのは、なかなか気分がよかった。


「これで、天気もよかったらいいんだけれどな」


それからふと自転車を止め、初日に拾った音楽プレイヤを鞄から取り出した。


電源を入れてみると、ディスプレイのバックライトが光って起動した。

まだ充電は足りていたようだ。


イヤホンを耳につけて再生ボタンを押すと、歌が途中から再開した。

僕はそれを聞きながら、ふたたび自転車をこいだ。


『Lasciatemi morire! ……』


あいかわらずの、イタリア歌曲だ。


そして僕は、この曲を知っている。

作曲者は、モンテヴェルディ。タイトルの意味は、……"私を死なせて"、だ。


この歌はほんの短いものだというのに、僕の拾った音楽プレイヤは、なぜか一曲だけを繰り返し再生されるように設定されていた。

試験かなにかの課題曲だったのだろうか。もとの持ち主は、そうとう熱心な勉強家だったようだ。

おかげで僕は、延々とこの歌だけを、繰り返し聞くはめになった。


……そのさまは、僕のなかで、この終わらない世界と重なる。


「Lasciatemi morire! ……」


音楽に合わせ、のどの奥からひねり出すように、大声で歌った。

われながら、ひどい歌声だ。


ひどいついでに、みずきの前で、もったいぶらずにチェロの一曲でも弾いてやればよかった、と僕は思った。

もしもこの世界を終わらせたら、みずきとはもう、永遠に会うことはないんじゃあないか、という漠然とした予感がしていたのだった。


ぐんぐん自転車をこぎながら、それでも歌い続けていると、なぜか涙があふれてきた。

止まらない涙を、手の甲でごしごしとふく。


僕はいったい、どうして泣いているんだろう。


『Lasciatemi morire! ……』


歌声は続く。

ああ、ほんとうにそうだ、そのとおりだ。


"私を死なせて"。

……いっそのこと、そのまま叶ってしまえばいいのに。

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