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7月7日(--) 59時22分(a)

「蒼太さん、だいじょうぶですか!?」


みずきの声が聞こえた。

目を開くと、心配そうに僕の顔をのぞきこむみずきの顔があった。


「みずき!」


僕は彼女の名前を叫んだ。

思いのほか自分の声が腹に響き、僕は自分が奇妙な体勢をしていることに気がついた。


左足はベッドの上。そのほかの身体は床の上。

それはちょうど……ベッドから落ちた時のような格好だった。


「深神さん……は……?」


つぶやく僕に、みずきがくすくすと笑う。


「蒼太さん、寝ぼけてるんですか?」


寝ぼけている、か。

つまり。


「いま……何時?」

「七月七日、……五十九時です。つまり朝の十一時、かな?」


……あのタイミングで、僕はこちらの世界へもどってきたのか。


「どこか痛かったりはしませんか?」

「ああ……だいじょうぶ。ありがとう」


起き上がる僕の背中を、みずきが優しく支えてくれる。


向こうの世界で感じた痛みはもうない。

しかし、動悸どうきの激しさはおさまらなかった。


(あのあと、僕はいったいどうなってしまったのだろう?)


……まさか、死んでしまったのだろうか?


自分の後頭部をなでながら、みずきにたずねる。


「……みずきは昨日、眠った?」

「眠りましたよ」

「なにか……夢は見た?」

「夢、ですか?」


みずきは首をかしげる。


「私は見ていないと思います。覚えていないだけなのかもしれないけれど……、

蒼太さんは、なにか夢を見たんですか?」

「いや……」


みずきが夢を見ていないなら、こちらでの手がかりはないと言える。

また"こちらの世界"で眠って"向こうの世界"へ行くしか、事の真相を探ることはできないのか……


「待てよ……」


うっかりしていた。

僕は"こちらの世界"で、"向こうの世界"では失踪している緋色本人と待ち合わせをしていたのだった。

もし、僕のいままでの推理が当たっているのだとしたら、緋色もみずきのなにかを探っているのかもしれない。


……もしかして、深神さんやハルカも、こちらの世界にひそんでいるのだろうか。


「……ごめん、みずき。僕、行かなくてはいけないところがあるんだ。

みずきはここで……待っていてくれないかな」


僕は行かなければならない。

そしてこの奇妙な毎日を、終わらせなければいけない。


みずきは察してくれたのか、大きくうなずいてくれた。


「わかりました。私はここで待っています」


それから心配そうに、僕の両手を自分の両手で包みこんだ。

それは、この世界で僕を最初に救ってくれた温もりだった。


「……蒼太さんはひとりじゃないですよ。どんな世界にいたって、私は蒼太さんの味方ですから」

「みずき……」


みずきはまるで子どもをあやすかのように、僕の背中をとんとんと叩いた。


「今日のお昼のためにお弁当を作っておいたので、それも持っていってくださいね」

「……ありがとう」


僕は簡単に身じたくを済ませると、いつものように鞄を肩からさげた。

エプロン姿のみずきは、屋敷の玄関で僕を見送ってくれた。


「……これじゃあ、なんだか新婚みたいだな」


僕がそう言うと、みずきはうれしそうにはにかんだ。


「蒼太さんとだったら……、私はうれしいな」


それからみずきは、僕の正面に立った。


「蒼太さん。……少しかがんで、目を閉じてください」

「……こう?」


僕がかがんで目をつむると、額に軽くみずきの温度を感じた。たぶん、キスをされたのだと思う。

目を開けると、彼女は頬を赤らめながらも笑顔で、


「いってらっしゃい」


と言った。

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