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7月5日(土) 13時03分(b)

頭のなかで、なにかが弾ける音がした。

こみ上げてくる気持ちのわるさに、口元を手で押さえる。


「ごめん……ハルカ。少しのあいだ、ひとりにさせてくれないか」

「ああ? おう……だいじょうぶか? オレの部屋、使う?」

「ありがとう」


僕は枕代わりにしていた自分の鞄を引っつかむと、

ハルカの部屋に逃げるように駆けこんだ。


部屋にはキーボードが置かれており、周囲には書きかけの楽譜が散乱している。

見覚えのあるぬいぐるみは、僕がゲームセンターで獲得した景品だ。


しかしそんなことは、いまはどうでもいい。


「くそっ……」


大きく息を吸って、僕はかっと目を見開いた。


落ち着いて、思考しろ。

……あんな一瞬でハルカに引き出せる"村崎みずき"の情報を、

あの深神さんが見落とすことなんて、億にひとつもあり得ない。


つまりみずきの存在を、深神さんは意図的に僕に隠したのだ。


どうしてそんな必要があったんだ?

そしてどうして緋色がいなくなる?


僕は鞄から携帯電話を取り出して、深神さんの電話番号にコールする。


一、二、三、……


三十を数えるまで待ってみたけれど、留守電に切り替わることもなく、深神さんが出ることもなかった。

気がつかないのか、僕がかけた電話には出ないつもりなのだろうか。


……たぶん、後者だろう。

電源が切られていないのは、緋色からの連絡を待っているためだろうか。


僕は立ち上がった。


……くやしい。


どうしていつも、僕だけが部外者なんだ。

どうしていつも、僕だけが取り残されて、ひとりぼっちになってしまうんだろう?


僕がハルカの部屋を出ると、物音に気がついたのか、ハルカがこちらを向いた。

そんな彼に、僕は声をかける。


「ごめん。僕、ちょっと出かけてくる」


とたん、ハルカは顔色を変えてソファから立ち上がった。


「いや、だめだ。さっきも言っただろ? お前も深神さんが帰ってくるまでは……」

「行かなきゃいけないんだ」


僕はみずきに会いに行かなければいけない。

深神さんも、おそらくそこにいる。


もしかすると、緋色もそこに?


いまになってもまるで状況は飲みこめない。

でも、……みずきがあぶないかもしれない。


「おい、待てって!」


強引に外へ出て行こうとする僕のうでを、ハルカがつかんだ。


「蒼太。お前はたまに、ひとりで考え過ぎて、つっ走る傾向がある。

深神さんはお前にここで待っているように言ったんだ、だから」


僕はハルカのうでをふりほどいた。


「僕は、君たちのことをなにも知らない」


出会ったあの時から、ずっと。


「ずっと黙っていたけれど。……僕はいままで、君たちに引け目を感じていた。

君たちってほんとうに気のいいやつらだからさ……、

僕は自分のいやな部分を見せたくなくて、必死に隠してきた。でも、それも今日で終わりだ」


僕は醜悪な人間だ。

自分の意思でつかみ取ったものが、



「僕は深神さんを信じられない」



……友人への反抗と、尊敬していた人への疑いだなんて。


「オレは……」


ハルカは困ったように僕から目をそらし、うつむいた。


「……深神さんがいなかったら、とっくの昔に死んでいたと思う。

オレのことも緋色のことも深神さんは助けてくれて、居場所を与えてくれた。

深神さんは……その、たしかにうそをつくときもあるけれど、悪意をもって、お前をだますような人じゃない」


そして、ハルカは顔をあげた。


「蒼太。ひとつだけ聞きたいことがある。

緋色がいなくなったことと、……"村崎みずき"は関係があるのか?」

「おそらくは」

「……そうか」


ハルカはなにかを言いたげに口を開き、しかし閉じた。


「わかった、これ以上はオレも止めない。

でも、なにかオレにできることがあったら……いつでも言ってくれ」

「ありがとう。……ハルカ」


僕はハルカと目を合わせることができないまま、深神探偵事務所をあとにした。

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