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7月4日(金) 8時00分(b)

僕はいそいで、一階まで階段を駆けおりた。

マンションのエントランスを走り抜けようとしたところで、仏頂面の管理人のすがたが目に入る。

僕は彼に軽く頭を下げて、マンションを出た。


「あ、おはよう、あおちゃん! 今日はずいぶん、したくがはやいね?」


緋色はすでに、玄関前にむかえに来ていた。

彼女の笑顔を見ながら、疑惑は確信に変わった。


世界が、"三日前"に巻きもどっている。


僕の過ごしただれもいない"七月七日"は、夢のなかでのできごとだったのだろうか?


(でも……今日が七日ならまだしも、五日が明日で、六日が明後日? ……そんなばかな)


ハルカとコンサートへ行く日が明後日のできごとだなんて、どう考えてもおかしい。

僕は経験し終わった過去を、これからふたたび経験するとでもいうのか?


緋色に目をやると、なぜか少しばかり、息があがっていた。


「……緋色、ずいぶん疲れてないか?」

「ここまで走ってきたんだよ! あおちゃんが先に行っちゃわないように、って思って。

それでさそれでさ、こんなにいそいであおちゃんをおむかえに来た理由は、なんだと思う?」


楽しそうに緋色が問いかけてくる。

僕は、かつて過ごした七月四日のことを思い返してみた。


あの日はたしか、深神探偵事務所に遊びに行った。

深神さんが大量にケーキを買ってきたものの、

深神さんの健康のためにも全部を食べさせるわけにはいかないという緋色とハルカの意向で、僕は救援に呼ばれたんだった。


「……これから学校を休んで、深神さんのところへ遊びに行くんじゃあないか?

深神さんがケーキを買いすぎて、午後まで待っていたら全部食べきってしまうから、少しでもはやい時間に数を減らしておきたい、……とか」


僕がずばり言い当てたことに、緋色はおどろいたようだった。


「え、ええ? どうしてわかったの?」


緋色はとまどいを隠せない様子だ。


そんな緋色を見ながら、これは夢なのかもしれない、と僕は思った。


世界がまだ、ごく普通だったころの。

他人がとなりをすれちがうことが当たり前だったころの夢を、


だれもいない世界で、僕は見ているのだ。

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