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愛人ごっこのはざまで  作者: 登夢
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磯村さんが地味な娘と店に寄ってくれた

スナック「凛」の開店は6時にしている。軽食を目当てに夕食を食べに来てくれるお客さんのためを考えてのことだ。6時半過ぎに磯村さんがとっても地味子な女の子と現れた。


「ママ、紹介するよ、同じ職場の後輩の米山さんだ」

「初めまして、ママの寺尾 凛です」

名刺を差し出す。私はその地味子ちゃんと目が合って思わず微笑んでしまった。二人の間には疑いもなく何にもないと分かる。


女の子はリクルートスタイルで顔は真ん丸でコロコロに太っている。それに大きめの黒縁のメガネ、太めの眉毛、化粧もほとんどしていないみたい。ヘアサロンには時々は行っているみたいだけど、髪を後ろに束ねているだけだ。これでは外では全く目立たない地味子ちゃんだ。


「素敵なママですね。私はこんな女性になりたいんですけど」

「ええ? 相談って何? まあ、何か食べよう。軽食だけど何がいい? 奢るよ」

「じゃあ、オムライスをお願いします」

「じゃあ、ママ、オムライスを2つ、それから二人に水割りを作って下さい」


私はすぐに水割りを作った。それから、オムライスを2人前作った。私のオムライスは評判がよくて、一度食べたお客はリピートしてくれることが多い。地味子ちゃんもおいしいと見えて黙って食べている。


食べ終わると、磯村さんは地味子ちゃんの相談を熱心に聞いている様子だった。彼らしい誠実さが見える。小一時間位で話は終わった。お客が2人で話している間は口を挟まないことにしている。その方が喜ばれる。


「ママ、おあいそ」

「もうお帰り?」

「今日は後輩の相談を聞くために場所を借りただけ、また来るから」

「お待ちしています」


まだ、時間が早いし、このまま一人ここに残ってもらう訳にもいかないし、上で待っていてもらうにしても時間があり過ぎる。日を改めてまた来てくれると言っているのでしかたがない。


あまりしつこく言うと逃げられるのがこわい。いつ来てとは言えない今の関係が辛い。いつ来るか待っているのが寂しい。ただ、必ず来てくれるのは分かってはいる。来てくれるときには6時前に電話を入れて都合を聞いてくれる。私の体調もあるからだ。突然に来ても生理中だったりすると無駄足になる。


彼は月に1回くらいはそうして夜遅く閉店のころに訪ねて来て、部屋に上がって泊っていくようになっている。そして、翌朝はお礼を置いて去って行く。彼にとっては欲望が満たせる都合の良い気楽な関係、まあ、私にとっても少し不満ながらも身体を癒してくれる具合のよい関係が続いている。


彼は帰り際、私に聞いたことがあった。

「僕のほかにもここへ訪ねて来て泊って行く人はいるの?」

「どう思います?」

「分からないけど、いても仕方ないけど、知りたくないと言うのが本音かな」

「それならどうして聞いたんですか」

「気になっていたから」

「ここへ来ているのは、私が信頼している磯村さんだけです。嘘ではありません」

「嘘でもそう言ってくれて嬉しいよ」


彼が私を独占したいという思いは分かる。男は皆そうだ。でもそれができないことも彼には分かっている。もっと来られないもどかしさもあるに違いない。でもこれくらいがつかずはなれずで、お互いに飽きがこなくて、丁度良い頻度なのかもしれない。


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