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愛人ごっこのはざまで  作者: 登夢
10/27

磯村さんが来てくれた(2)

6時少し前に店に電話が入る。この時間であればきっと磯村さんだ。でも人違いすると大変だから、気を付けて電話には出る。山路さんなら携帯に連絡が入るから間違えない。磯村さんには携帯の番号を教えていないし、彼も聞かなかった。店の電話は上の部屋に子機があって取れるようになっているから不都合はない。


「スナック凜です」

「磯村だけど、今日、行ってもいいかな?」

「どうぞ、いらして下さい。待っています」

「じゃあ、いつもの時間くらいに行きます」

磯村さんの弾んだ声が聞こえた。彼も会うのを楽しみにしてくれているのが分かった。私も嬉しくて浮き浮きする。


夕方から雨が降り出した。いやな雨だ。こういう日はお客が少ない。皆早く家へ帰りたがるからだ。磯村さんが10時過ぎに店についた。幸い店には客がいない時だった。


「早かったんですね」

「どこかで時間をつぶそうと思ったけど、この雨で、ここでつぶさせてもらうよ」

「いいですけど、今なら上へ上がって待っていてください。シャワーでも浴びていてください」

「そうさせてもらうよ」

「11時までは店を開けておきたいので、すみません」

「いや、気にしないで。待っているから」

彼はすぐに階段を上がって行った。


11時まで店を開けていたがお客さんは来なかった。すぐに店を閉じた。部屋に行くと彼はベッドに寄りかかり、座ってテレビを見ていた。


「ごめんなさい、お待たせして」

「こちらこそ悪かったね、早く来てしまって。ゆっくりさせてもらった」

「シャワーは?」

「まだ。一緒に浴びようと思って」

「それじゃあ、一緒に」


二人はシャワーを浴びる。熱いお湯をたっぷり浴びる。私は髪を洗った。上がってから、バスタオルを身体に巻いたまま二人はベッドに腰かけて水割りで喉を潤した。喉が潤ったらさっそく愛し合う。夜は長い、特に雨降りのこんな夜は二人でないと寂しさが募る。


私は彼に背中を向けて横になっていて、彼は後ろから私を包むように抱いてくれている。久しぶりだったのでその余韻を楽しんでいる。背中が温かくて心地よい。私は静かに彼の回復を待っている。


「雨の日は雨音を一人で聞いて眠るのが寂しくて、来てくれて嬉しかった」

「そういってくれると来たかいがある」

「いつまできてくれるつもり?」

「分からないけど、君がどこかへ行ってしまわない限りはね」

「じゃあ、そのときまで来てください」

「ああ」


私は寝返って彼に抱きついた。今度は私が彼を積極的に愛してあげる番だ。このごろ彼は私のしたいようにさせてくれる。その方が楽で楽しいからだろう。私が疲れ果てると抱き合って眠りに落ちる。


明け方、まだ雨音がしている。彼が私を揺り起こして愛してくれる。それから二人はまた眠った。


明るさで目が覚めたのはお昼前で、もう雨はすっかり上がっていた。満足感が身体を包んでいるが気だるい。私は起きて熱いシャワーを浴びて身体を目覚めさせる。それからサンドイッチを作った。彼はその間にシャワーを浴びて身支度を整えている。


「冷たいミルクでサンドイッチが食べたかったから」

「そんな気分だね、いただきます」


食べ終わると、彼はいつものようにお礼を私に手渡して帰って行く。部屋で私は抱きついてお別れのキスをする。しばらくのお別れだから。


磯村さんには山路さんと交際を始めたことを話さなかった。二人ともどちらも好きだし、ひとりの人とだけ付き合う必要もないし義理もない。私は自由だ。


磯村さんは店に連絡を入れてここへ来るが店でしか会っていない。それも会っているのはほとんどが金曜日の夜から土曜日の朝までだ。山路さんとは日曜日に外で会うだけだから予定が重なる心配もない。山路さんと一緒に街を歩いている時に偶然にでも磯村さんに出会わない限り絶対にお互いに分からないだろう。


二人も彼がいると身も心も満たされて、とても落ち着いていられるし、生活にも張りがある。今が一番いい時かもしれないと思い始めている。


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