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空色の娘は日本育ちの異世界人  作者: 雨宮洪
消えた精霊王の加護
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41話 夜ふかし


電気がない『スティリア』の夜はロウソクかランプの灯りで部屋を照らすのが一般的だ。


城や貴族の屋敷であれば炎の魔法石を加工した魔道具に魔力を込めて部屋を照らしているらしい。


ギルド『七曜の獣』の仮拠点では食堂の天井に吊るしてあるランプの燃料に安い植物油が使われており主にルエンが生活魔法で火をつけ食堂内を照らしている。


夜、エイリが自室にいる時は携帯電話のライト機能で机だけ照らし関係者にしか見せられない日本語でその日作った料理のレシピや日記をノートに書いていることが多い。


ー今日も美味しい料理が作れて良かった。


夜行性のオークの親玉を討伐すべく夜の見回りに出たルエン達を見送った後、エイリは自室の机に向かってこの日作ったマヨネーズや夕食のメニューのレシピ、料理を鑑定した時に表示された効果や数値などを日本語でノートに書いていた。


竜鳥の肉や卵の使い方は慣れてきたが日々団員達や新人騎士達が討伐しているオークの肉はレッドボアと比べればマシではあるが肉に臭みがあり好みが分かれる。


この日のメニューであるオーク肉のポーク南蛮は揚げた肉に絡めた甘酸っぱいタレと刻みピクルス、刻みタマネギを混ぜたタルタルソースをかけ、餃子風おやきは刻みキャベツを多めに摩り下ろしたニンニクと生姜でオーク肉独特の臭みを消してとても美味しく作れた。


だがこれは仮拠点にある冷蔵庫や団員達が持っている魔法鞄のイベントリで生肉を保存する手段があったからこそ作れた料理だ。


討伐したオークを解体し町の住民に配られたりするのだが庶民の家には冷蔵庫がないので住民は肉を塩漬けにしたり薄く切った物を干してオーク肉を保存している。


肉屋にお金か野菜などを加工代として渡しオーク肉を腸詰めにしてもらっている者もいるのだが一度に集まるオーク肉の量が多すぎて双方の加工が追いつかない。


中には臭みがあるオーク肉が嫌いで肉を受け取らない住民もいる。


ー塩漬け肉をベーコンや燻製ソーセージにしたりすれば肉の臭みを消したり消費が増えるかな?


『スティリア』には塩漬け肉を燻製にする習慣はないらしい。


今後はハラスの住民達に塩漬け肉を燻製にして保存食にすることを推奨すべきだろうかとエイリはそのことを日記に書いていた。


「けっこう書き溜まったなぁ~」


エイリのレシピノートは一度日本語で記録してからレシピのみこの世界の共通文字に訳している。


はじめのオーク出現から1週間と少し、その頃から新たなレシピの翻訳作業はしていない。


それはエイリ1人ではまだ翻訳できないので日本から来たことを知っている大人と昼間一緒に食堂で翻訳作業をしているのだが、オークが出現してからは仮拠点に猫耳姉妹とオーク討伐に参加できないハロルド達がおりエイリが日本から来たことを知られる訳にはいかないので食堂で翻訳作業はできない。


夜は幼児達の安全の為にスオンも仮拠点で寝泊まりしているのだが彼は手紙でエニシ屋の別支店へ指示を出したり、騎士達の為のステータス向上効果がある食事を作りに行ったり、ギルドの家事担当のアビリオがオーク討伐に駆り出されているので代わりにエイリの料理補助も兼任しているので夜くらいは休ませてあげたいのでエイリは夜にレシピの翻訳作業を頼まないことにした。


レシピの翻訳作業はオークの親玉を討伐した後になりそうだ…。


「クゥーン」


椅子のすぐ側にいたクロがエイリの服の裾をくわえて引っ張りながら小さく鳴いた。


「ん?なぁにクロ?」


レシピと日記を書いている間、集中して眉間にシワが寄っていた顔はクロを前にするとエイリは思わず幼児らしい笑顔になった。


クロは裾を離すことなくグイグイとエイリが椅子から転げ落ちない程度軽く引っ張っている。


「あれ?もしかしてクロ用のご飯のバリエーションを増やして欲しいの?」


この世界には動物専用のフードは売られていないのでこれも自分で作るしかない。


エイリは今まで犬を飼ったことがないので狼どころか犬用の食事のバリエーションが少ない。


今までどうにか犬が食べてはいけない玉ねぎなどの野菜を知ってはいたので問題なくクロの食事を作ったり、おやつのプリンやパンケーキを少しだけ分けたりしてはいた。


しかしクロはフルフルと違うと言いたげに首を振った。


クロはエイリから離れ部屋のベッドのところへ歩いて行った。


「もしかして、もう寝ろって言いたいの?」


「ウォンっ」


そうだ、というかのようにクロは小さく鳴いた。


携帯電話の時刻を確認すると23時になっていた。


エイリはレシピノートに記録するのに夢中になりすぎていたようだ。


23時であれば学校がなくとも幼児は寝なければならない時間だ。


「クゥ、そろそろベッドで一緒に寝よっか」


「ピューィ♪」


エイリが机の上で丸くなって待機していたクゥに声をかけると「良いよ」と言うかのように返事がかえってきた。


「クロも一緒にベッドで寝てもらっていいかな…?」


普段クロはベッドの下で眠っている。


エイリがベッドで一緒にクロも寝てほしいのは夜の見回りに行った団員達が心配で不安な気持ちでいるからだ。


今のところ新人騎士達から死者は出ていないが何人かがオークと遭遇し負傷したという話をエイリは聞いていた。


ハラスの外ではじめてルエンとグランドンがオークの小さな群れと遭遇し生還したが、毎回そうなるとは限らない。


もしくはあの時のようにまたルエンが倒れるほどの無茶をしてしまうのではないかとそんな気がしていた。


クロを抱きしめながら眠ればそのような気持ちを少しでも和らげられるかなと思ったからだ。


「クロはあったかいねぇ」


ベッドの上でエイリがクロの背中に頭をくっつけてついでに小さな手でクロの腹も撫でながら言った。


日々エイリがクロに愛情を注ぎ人間からすれば味気は無いが肉が多めの食事を与えていたのでクロの体は初めて会った時と比べて肉付きと毛並みがとても良くなっていた。


それに応えるようクロはエイリにぴったりくっつきながら行動し、エイリの指示には忠実だ。


狼にしてはあまりにも忠実で頭も良いのでエイリは偶にクロは普通の狼ではないかもしれないという気はしていた。


だがクロはカッコいいだけでなく狼というよりは普通の飼い犬と変わらない顔つきになったりするのがひたすら可愛らしくてそれ以上のことは特に気にもとめていなかった。


クロの温もりと背中から伝わる鼓動を聴いているうちにエイリはいつのまにか眠ってしまっていた。




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