36話 甘い物で魔力回復!?
「気分転換になるような甘いものをつくるけど…みんな食べます?」
疲れている時には甘い物という言葉がエイリが育った日本にはあったがこの言葉は異世界『スティリア』でも通用するらしい。
特に仮拠点で常に魔法を家事に活用して疲れやすいからかアビリオは甘党だ。
猫耳姉妹のおやつにと焼いたライ麦入りのパンケーキをアビリオが食べる時はいつもどっぷりと蜂蜜をパンケーキに染み込ませて食べる程に…。
昨日からアビリオは徹夜で町外の見回りとオーク討伐で疲れているので疲れていても食べやすいお菓子を作ろうとエイリは思っていた。
そのお菓子をこの食堂にいる大人4人も食べるかどうかエイリは確認する。
スオンは作り方を教わりつつ完成した物を食べたいということだった。
「そうだな…少しだけ食べる」
昨日動けなくなるほどにまでオーク討伐をしていたルエンはまだ怠さが残っているのか珍しく体が糖分を欲しているようだった。
「オレはいいや…」
ザンザスは貴族時代に食べた砂糖の味しかしない菓子がトラウマらしく普段から甘い物は食さないので要らないという返事。
「え…?料理だけじゃなくてお菓子も作れるのか!?君は貴族の菓子職人か何かだったのか!?」
先程エイリが料理を作れると知ったがまさかお菓子まで作れるとは思わなかったイアソンは驚いていた。
『スティリア』での甘味といえば果実をそのままか蜂蜜漬けにした果実のどちらかでお菓子とは貴族専属の菓子職人しか作れないものだという認識らしい。
「異世界でも今とかわらずただの庶民ですよ?つくれるお菓子も家庭レベルのものしかつくれませんって」
エイリはお菓子を多少作れるが甘党という訳では無い。
お菓子作りをするようになったのは偶に甘い物が食べたくなっても市販の菓子が甘過ぎて口に合わないから菓子のレシピを携帯電話で調べて自分の口に合うように調整して作ったのがきっかけだった。
そして卵、牛乳、砂糖、小麦粉、油など常に買い置きしてあった材料で作れるので少し手間は掛かるが買うよりも安上がりで気分転換にもなるからだ。
大人3人はもっと細かい話し合いをする為団長室へ行ってからエイリは一緒に台所でスオンと一緒にお菓子作りを開始した。
「エイリさん今回作るお菓子とはどういうものでしょうか?」
「プリンという卵と牛乳をメインに使用したお菓子をつくろうかなって子供はみんな大好きで風邪とか弱っているときにも食べやすいから日本では大人気だったお菓子なの」
ルエンがオークの侵入を防いだお陰で被害に遭わなかったとハラスの住民達から礼として大量に食料の差し入れを貰っていた。
その中で畜農をしているダラスから頂いた竜鳥の卵と牛乳を使ってくれとザンザスが食堂に置いていったものを早速使わせてもらうことにした。
今回は『料理スキル』のレベルでどれ程の効果の差があるのかも調べるためにプリンは2人で別々のボウルで作成する。
ボウルに卵を割り入れ甘味料に蜂蜜も加え泡立て器でよくかき混ぜる。
プリンの香料にバニラエッセンスが欲しいところだが仮拠点には置いていないので入れない。
黄身と白身、蜂蜜がよく混ざったところで牛乳をゆっくり注ぎ入れながら混ぜた後は滑らかな食感にするために金属製のボウルの上にザルを置き、卵液を濾して混ざらなかった白身や卵黄の薄皮などを取り除く。
濾す作業は手間ではあるが省いてしまうと完成した時に熱で固まった白身や卵黄の薄皮などが口の中に残り口当たりが滑らかにならない。
濾した卵液を金属製のボウルに入れたのは最後はこのまま少量の水を入れた鍋の中で卵液を蒸しあげるからだ。
プリンであれば手頃な容器に卵液を注いで蒸したいところだが丁度良いサイズのカップなどが無かったのでエイリはボウルごとそのまま蒸して最後はお玉でプリンを器に盛りつけるスタイルにした。
中の水が沸騰し始めたらコンロの火を弱火にして卵液に熱が通り固まるまで暫く待つ。
卵液を鍋の中で蒸している間に黒蜜を作る。
プリンといえばカラメルソースだがカラメルソースの材料に欠かせない白砂糖は貴族の屋敷にある台所でしか目に出来ないほどの高級な調味料だ。
仮に白砂糖があったとしても焦がした砂糖に水を加える作業もソースが跳ねて少々危ない。
黒蜜作りはただ黒糖と水を小鍋に入れてトロミがつくまで煮詰めるだけなので簡単で安全に作れる。
少し高いが庶民にも手が届く黒砂糖で黒蜜を作りカラメルソースの代用としてプリンにかけることにした。
「正直プリンをつくるのは久しぶりだったからちゃんと固まるか心配だったけどちゃんと固まってくれてよかった~」
鍋の中で蒸していたボウルプリンは程よい感じに固まっていた。
「バロワを入れなくとも卵だけで牛乳が固まるものなんですね…」
スオンが言うバロワとはバロワと呼ばれる植物の茎の中にある白く柔らかい芯を粉状にしたものでゼリーを作るのに必要なゼラチンのような食材の名前だ。
「仮拠点にはおいてないしあっても使い慣れてないからバロワを使ったプリンは今度つくる練習しなきゃね。そのバロワ?を使った方がプリンをつくるのはたぶん簡単だから」
卵液に熱を通す必要はあるがゼラチンを使った方が鍋やフライパンで蒸さずに作れて冷やすだけで確実に液が固まる為初心者向きだ。
エイリがいた世界でのバロワはゼラチンと呼ばれそれを使ったプリンのレシピがあることをスオンに説明し今度はバロワを使ってプリンを作る練習をしようと約束をした。
鍋で蒸していたプリンが蒸しあがったら粗熱をとり冷蔵庫で冷やす。
「そういえば、スオンさんはなんでいつもわたしのことを気にかけたり色んなものをくれたりするの?」
冷蔵庫でプリンを冷やしている間、エイリはずっと気になっていたことをスオンに問う。
国境都市セントリアスでエイリと再会した時のスオンの感激ようも凄かったが彼は本当にエイリ相手となると甘い。
今まで様々な物を破格の対応でくれるどころかエイリが異世界から帰ってきた『愛し子』の娘だと知られないよう、もしかすれば『料理スキル』のレベルが高かったが故にスオンの身にこの先危険が及ぶかもしれないのに異世界の料理を新人騎士達に提供する手助けを提案してくれた。
それが何故なのかずっとエイリは疑問に思っていた。
「…今の私があるのは貴女のお母様のお陰なのですよ。私は昔、フィリルルさんには何度も助けられました」
スオンは昔、生傷が絶えなかった時代フィリルルから魔法で傷を癒してもらっただけでなく読み書きや商人になるなら必要になる敬語を教わったのだと言った。
だから奴隷出身にも関わらずスオンの両腕の傷痕は凝視しない限り判りづらいものとなり読み書きや言葉遣いを教わったことで商人になれたのだという。
フィリルルが奴隷出身だと知らなかったエイリはその話を聞いてスオンが商人見習いだった頃に母の実家に出入りしていたが奴隷出身という理由で不当な扱いを受け傷を負った時にフィリルルの魔法で傷を癒してもらい読み書きなどを習っていたのだろうかと思っていた…。
「それなのに…フィリルルさんに何一つ恩義を返せませんでしたから。その恩義というのもありますが、やはりそんなこと関係なくルエンさん同様にフィリルルさんに良く似たエイリさんが可愛くて仕方ないんですよ」
スオンが昔の話をしていた時は少々悲しげな表情だったのが最後にはいつもの笑顔に戻っていた。
彼がエイリを可愛がり、守りたい理由は本当に母親似だからということに恋愛経験の無いエイリは気付いていなかった…。
「完成したプリンを鑑定してみましょうか」
「それがわたし達のお仕事だもんね」
この外見詐欺師弟の仕事は片っ端から異世界の料理を作り、どのような効果があるのかを調べそれに応じ新人騎士や戦闘担当の団員に提供することだ。
まず始めにスオンが作ったプリンから鑑定した。
【料理名】プリン
MP +300回復
【説明】卵、牛乳、蜂蜜を混ぜて固めて作られたお菓子。
「今までつくった物でMP回復とかはじめて~」
プリンにはMP回復効果があることが判明した。
MP回復効果があるのならオーク討伐で魔法を使うアビリオに打ってつけだろう。
次にエイリが殆ど作ったプリンを鑑定すると…。
【料理名】プリン
MP +600回復
【説明】卵、牛乳、蜂蜜を混ぜて固めて作られたお菓子。
やはりエイリの『料理スキル』のレベルがMAXなだけエイリが作ったプリンの方が2倍効果が高いようだった…。
どちらもボウル一個丸ごとの状態でこの効果だったが、皿に盛り付けるとその分だけMP回復効果が分散した。




