30話 オーク
ギルド『七曜の獣』の仮拠点がある町ハラスは小さな町だ。
ハラスの住民達の食料、別の町へ売る為の農作物を育てる畑地帯は町の門から少し離れた位置にある。
住民達の住居があるエリアとは違い畑地帯は魔物の侵入を防ぐ壁になるようなものは何もない。
ハラスの周辺には元々角ウサギや親離れしたばかりの小さなレッドボアの幼体など農具でどうにかなるような魔物しか現れていなかったので住民どころか町長も今まで町に魔物討伐専門の自警団というものを重要視をしていなかった。
自警団がいないのは単純に自分達でどうにかなる魔物しか現れないのに自警団の活動資金を町長が今まで惜しんでいたからだ。
だが近年、畑仕事をしている住民が魔物の襲撃で負傷、農作物に被害が出るなど事態が深刻化してきていた。
ちょうどその時期『白銀の愛し子』と魔脈調律の旅で英雄となった男、ザンザスがギルド『七曜の獣』を結成しラニャーナで建設している本拠点が完成するまでの間の滞在先としてハラスを選んだ。
ザンザスがハラスを選んだのは単にギルド入団希望者が殺到し過ぎて困っていた。
特に名物もなければ商人はエニシ屋の関係者が来るのみで冒険者や他の商人が来ることが滅多にない町であったのが主な理由である。
そこでハラスの町長が自警団を結成する必要性を見極めるため試験的にその役目をザンザスに依頼しギルド団員で戦闘経験があるルエン、グランドン、ハロルド、カインの4人が先輩冒険者と駆け出し冒険のペアを組み二手に分かれて畑地帯の見回りをしている。
ルエンの愛娘であるエイリから『精霊王の加護』が消えたその日、今までにない事態であった為ルエンとアビリオは少々過剰にエイリの身の安全を心配し珍しく4人でパーティを組み畑地帯の見回りをしていたのだが…、その日に限って最悪な魔物が畑地帯に出現した…。
「…ハロルド、カイン。お前ら2人は町まで走れ」
長年魔物を狩っているだけあって魔物の匂いに敏感なルエンは魔物の悪臭を感じ取ってすぐグランドンより弱い2人に町まで走るよう指示を出した。
「え…?」
「いきなりなんだよルエンさん…」
魔物の悪臭に気づいていない2人はルエンの唐突な指示に困惑していた。
「…近くにオークがいる。お前らでは歯が立たん、町長とアビリオにこの事を知らせてこい」
オークは豚の頭部を持つ巨体な人型の魔物だ。
一体であれば然程の脅威ではないがオークは群れで行動し近辺の町や村を襲い、農作物に限らず家畜や力無い者達を食い散らかす厄介な魔物である。
攻撃力と防御力が高いので群れで戦いを挑まれれば並みの冒険者では討伐は困難だ。
オークの群れの親玉を討伐、もしくは別の場所へ移動しない限りオークの群れはその場所に留まり続ける習性がありオークを一体でも町の近辺で姿を確認した場合は群れが近くにあると判断し早急に町長などに知らせ冒険者や騎士団とで討伐隊を結成しなければならない。
ハラスに現在いる冒険者でまともに戦えるのはアビリオ、ルエン、グランドンの3人のみなので早急に対策を取らねばならなかった。
幼体のレッドボアすら倒せぬ程の若者2人の冒険者では太刀打ち出来ないのでルエンは2人に連絡役を頼んだのだ。
「そんな…!オレにも戦わせてください!」
「2人だけだなんて無茶だ!」
ハロルドとカインは魔物相手に逃げるわけには行かないと食い下がった。
「お前ら2人のお守りをしながら戦う余裕はない!とっとと行け!町にはエイリやチビ猫達のような子供もいるんだぞ!」
ルエンは2人を怒鳴りつけると2人は怯んだ。
ハラスにある仮拠点にはルエンの愛娘のエイリがいる。
ここで連絡が遅れ町の防衛が疎かになればエイリや猫耳姉妹のような幼児達が危険に晒されるのだからルエンがいつも以上に苛立ち、怒声を上げるのは当然である。
ハロルドとカインはハラスの町へオークが現れたことを知らせに走った…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハラスとラニャーナの間にある町、サタカにある宿屋の一室にてザンザスと金髪のハロルドとよく似た騎士が話をしていた。
「おいおい…なんでロウとエイリが生きてたって俺に直ぐ連絡しなかったんだ…」
「仕方ねぇだろ騎士団長でなくなってもお前は城勤めなんだからよ。城の奴らに2人のことを知られたくねぇんだ」
今まで2人の生存どころかザンザスのギルドに入団したことを一切知らされていなかった金髪の騎士、イアソンは新人騎士達の遠征訓練の教官として参加し、王都へ帰る道中に消耗品や食料の補充にサタカへ訪れていたところ元仲間のザンザスと再会した。
そしてザンザスから死んだと思っていたエイリが生きていたこと、現在は父親のロウことルエンとギルド『七曜の獣』に入団したことを知らされた。
ザンザスは現在騎士団でなくとも王都にて新人騎士の教育をする教官として勤めているのでイアソンを通じてエイリの生存情報が城の人間に広まらぬよう黙っているつもりだったが、今朝アビリオからの手紙で『精霊王の加護』がエイリから消えてしまったという連絡がきた為ザンザスもルエン達同様に暫くハラス付近の防衛を固める相談をすべくイアソンにエイリの生存を明かした。
イアソンも魔脈調律の旅で『白銀の愛し子』フィリルルの苦悩を知っているので国王などにエイリのことを簡単には話さないとは思うが、もしこれが国王や側近達の耳に入ろうものなら加護が消えてしまった『愛し子』の安全を口実にエイリを王都へ引っ張り上げられかねないのでもはや賭けだった。
「いくら城勤めでも簡単に話すわけないだろ。ただ、数ヶ月前から没落寸前の貴族どもが血眼になって『愛し子』の娘を探しているから用心した方が良い」
イアソンによるとエイリが『スティリア』に帰ってきた日から没落寸前、もしくは下級貴族達が執拗に『愛し子』の娘の情報を集めているのだという。
貴族達が執拗に『愛し子』の娘を欲しているのはやはり自身の領地を豊かにし事業回復を図るか己の出世、国王に献上し金を引っ張り上げるなどロクでもない理由だった。
もっと最悪な輩は恐らくエイリの持つ異世界の知恵を悪用しようとするだろう。
「まぁ無理矢理エイリを連れて行こうならアイツも黙ってないだろうな…」
「だな、アイツはフィリ絡みだと容赦がなかったからなぁ…。フィリの忘れ形見ならなおさらだ」
どこか遠くを見るかのような目をしながら2人は言った。
ルエンはかつてと比べれば弱体化しているが恐らく最愛の者を護るためなら火事場の馬鹿力でどうにかしてしまうだろう。
ザンザスが知るルエンはそういう男だ。
ザンザスの脳裏にはかつて魔脈調律の旅に出る前、ハーセリア城にて監禁されていたフィリルルを助け出す為に警護をしていた大量の兵達を刀一本で鎧を粉々に砕き半殺しにした『煉獄のロウ』だった頃のルエンの姿が浮かんでいた…。
ゴンッゴンッゴンッ!
激しく扉を叩く音が聞こえイアソンが開けるとイアソンの部下が立っていた。
「突然申し訳ありません!ハラスの町長から連絡用魔道具でハラス周辺にオークの出現が確認されたので至急協力を頼むと連絡が入りました!!」
ハラス周辺にオーク出現の知らせを聞き2人の間に戦慄が走った…。




