表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空色の娘は日本育ちの異世界人  作者: 雨宮洪
二章 『愛し子』の娘、ギルド見習いになる
33/51

番外編 芋餅と片栗粉

エイリはギルド『七曜の獣』の見習いとしての主な仕事は日本で覚えた料理の味付けだけでなくアビリオに料理指導もしている。


そんなエイリが最近ギルドの仮拠点でアビリオに教えているのはじゃがいもを使ったおかずや主食になりそうな料理。


ギルド活動でハラスにある畑地帯の見回り報酬でもらう物でじゃがいもがあまりにも多く野菜を保存するスペースがじゃがいもで圧迫されてしまうからだ。


元々『スティリア』でのじゃがいも料理といえばスープの具に加えるか、パンがない時の代用として茹でたり焚き火で焼いたものしかなかったのでエイリの知るじゃがいも料理は団員達に衝撃を与えた。



切ったじゃがいもを揚げ焼きにして砂糖と味噌で味付けした味噌かんぷら風。


じゃがいもを千切りにしたものを削ったチーズとまぜフライパンで焼きガレット風にしたもの。


具だけでなく摩り下ろしたじゃがいもでとろみをつけた野菜たっぷり竜鳥の肉団子入りクリームシチュー。


細切りにしたじゃがいもを揚げたフライドポテトには塩味だけでなく、大学芋を意識して黒砂糖で作った黒蜜をかけたもの。



そして、折角『スティリア』に醤油があるのだからと日本の芋料理で定番の肉じゃがもギルドに入団しスオンから米を提供され始めた頃にはじめて作った。


料理酒は良くギルドに顔を出すだけでなくエイリに料理指導を頼んでくるスオンに肉じゃがの作り方を教える際に授業料として米酒を提供してもらったのを使用すると日本で作ったものと大差ない味となりギルドの定番のおかずとなった。


リィンデルア国内を竜車で旅をしていた時にもスオンが用意していた調味料、エノルメピッグの肉や他の野菜などを使って肉じゃがくらいなら作れないこともなかったがエイリが旅の間に肉じゃがを作らなかったのは白米どころかパンもなく、主食が焼いたじゃがいもだったのが理由だった。


肉じゃがをおかずに焼いたじゃがいもを食すのはチャーハンをおかずに白米を食べているようなものだとエイリのプライドが許さなかったからだ。


そんな肉じゃがよりも作る頻度が高いのはエイリが暮らしていた日本の地域より北の地方では定番料理の芋餅だった。


芋餅の材料は加熱して潰したじゃがいもと片栗粉だ。


主な芋餅の味付けは本場の地域でも定番の醤油と砂糖で甘しょっぱくしたものだがそればかりでは飽きるので醤油の代わりに味噌を使って田楽風にしたり汁粉の餅代わりに入れたり大きく伸ばした物を両面焼いた後にトマトソースと具材を乗せチーズをトッピングしてピザ風にしたり、ニョッキのようにクリーム系のソースをかけるだけでなくグラタンのマカロニ代わりにしたりなど芋餅をエイリは良く日本で作っていた。


ギルドで作った芋餅は『スティリア』で手に入る材料で作ったもので蜂蜜を甘味料にした糖醤油味、味噌田楽味、ピザのように広げて両面焼いたものにトマトソースが無い代わりに摩り下ろしたニンニクを塗り、胡椒も振ってチーズをトッピングしたチーズピザ風のもの。


夕食で余った具材があまり残っていないクリームシチューをかけたり、竜鳥の挽肉と刻み玉ねぎを醤油で味付けし炒めたものを混ぜて焼いたコロッケ風のものも美味しかった。



これが只の茹でたじゃがいもの食感に飽きていた育ち盛りの猫耳姉妹のおやつ、討伐クエストで腹を空かせたカインとハロルドの小腹を満たし、チーズピザ風の芋餅はザンザスとルエンの酒のつまみとしてとても好評だった。


スオンにも芋餅を食べて貰ったところ興味を持ったのでエイリは芋餅作りをスオンにも教えた。


スオン曰く亜人の中には肉どころか完全に牛乳や卵すら受け付けない草食体質の者がおり、草食体質の客人は特に醤油や味噌を購入していくのでこの芋餅の作り方を相手に是非教えたいと言っていた。


「ほんとうはカタクリ粉があればいいんですけどね…」


スオンに芋餅の作り方を教えている時にふとエイリがこぼした。


『スティリア』には片栗粉のようなデンプン質の粉がないのでいつも小麦粉で一番安価な薄力粉でエイリは芋餅を作っていた。


薄力粉で作った芋餅は不味くはないが片栗粉を使ったものと違いモチモチ食感が正直足りない。


「カタクリコ?とはなんでしょうか?」


「それはじゃがいもとかにふくまれるデンプンを粉にしたもので…」


片栗粉は元々カタクリと呼ばれる植物の根っこから抽出したデンプンを粉にした物が由来であり今はその植物が少なくなってしまった為、大量にとれるじゃがいもからデンプンを抽出して生産されるようになったことを説明した。


「じゃがいもから粉が出来るんですか!?」


とスオンは驚きの声を上げる。


日本育ちのエイリからすれば当たり前のことでも『スティリア』ではじゃがいもから粉が作れるとは考えられないようだ。


それからスオンは少し考え…。


「エイリさん、そのカタクリコとやらの製造方法は分かりますか?」


「つくりかたはしってますけど…すごくテマがかかりますよ…」


じゃがいもからデンプンを抽出するのは家庭でやろうと思えば出来なくはないがまとまった量を得るには大量のじゃがいもの皮を剥き、摩り下ろした後は布で濾すなどの処理しなくてはならない。



「私も手伝いますからお願いします」


とスオンの笑顔に押し切られて後日、ギルドの台所で片栗粉作りが始まるのだった…。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「かわむききもつかいかたをまちがうとケガをするからきをつけようね」


「「はーい!」」


リコリスとルティリスが元気に返事をする。


片栗粉を作るにはじゃがいもの皮を剥くことから始まる。


じゃがいもの皮剥きは猫耳姉妹にも手伝ってもらうことになり、エイリとアビリオとスオンも合わせて5人で作業することになった。


じゃがいもの皮むきには以前スオンにエイリが話した皮むき器をスオンが職人に作らせていた物を仮拠点に持ってきてくれていたので気を付ければまだ小さい猫耳姉妹でもじゃがいもの皮を簡単に剥くことができた。


皮を剥いたじゃがいもは一度水を溜めたタライの中で実をきれいに洗い、それからはひたすらじゃがいもを摩っていく。


それが終わったら摩ったじゃがいもを清潔な大きな布巾で包み、水を張った金属製のタライの中で何度も揉み水を混濁させた水を暫く放置すると水が茶色になる。


茶色になった水を静かに捨てるとタライの底に白い塊が見えた。


「白くて…ドロドロしてる…」


「これがデンプンです」


そしてまたタライに水を注ぎ放置して上澄みを捨てる作業を2回して底の白い塊を乾燥させればカタクリ粉の完成である。



「ふむ…、小麦粉と触り心地が違いますね…」


完成したじゃがいも製のカタクリ粉をスオンは少し手に取り粉の感触を確かめながら言った。


「そうですね…かんぜんにデンプンだけだからスープにとろみをつけたり、モチモチしょっかんのものをつくるのにもむいてます」


片栗粉はスープ類にとろみをつけたり竜田揚げなどの衣だけでなく、芋餅の他にもわらび餅、胡麻豆腐、牛乳餅、蒸したじゃがいもやカボチャにチーズと小麦粉とこれを混ぜたものを丸めてオーブンで焼けばモチモチ食感のお菓子を作るのにも使える万能粉なのだ。



「エイリさん、これは革命ですよ」


「ふぇ?」


スオンに革命と言われてイマイチぴんときてないエイリからは変な返事がでた。


「ハーセリアより豊かなリィンデルアでも地方によってはじゃがいもしか採れないとれない貧しい村があるのですよ」


彼によるとハラスから竜車で半日走らせた先にじゃがいもしか採れず食べる物(ほぼ芋)には困らないがお金も他の物資と交換するだけの名産品も無い村がある。


この使い道多様なこの粉の作り方を教えればその村の住民は収入を得ることが出来るのだという。


「えー…ただの粉ですよ?そんなにうれませんよ」


片栗粉は日本ではごく当たり前の粉だ。


それが『スティリア』で革命といわれるほどのものだろうか?とエイリは疑問に思っていた。


「私は商人としてはまだまだ若輩ですが売れると思ったものが外れたことはないんですよ」


今でも社会的地位はさほど高くはないヤヌワの中でも若くしてリィンデルアの各地に店舗を構えるまでに商人として成功しているエニシ屋オーナーのスオン。


そのスオンがエイリから片栗粉の製造工程を学んだ後のスオンの行動は早かった。


彼が目星をつけていた村に土地を買い建築に着手していたエニシ屋に卸す醤油の製造工場の計画を変更し片栗粉を量産するのに最適な道具を発注するなどして工場が完成した。


村人達を工場に雇い片栗粉を製造し、エニシ屋が中心となり数ヶ月もしないうちに片栗粉は芋粉という名前で呼ばれるようになり件の村だけでなくどこの家庭にもある食材であるじゃがいもと片栗粉さえあれば作れるという手軽さから周囲の村や町に芋餅のレシピと共に広まっていった。



スオンの商人としての手腕と芋粉工場のお陰で一年も経たぬうちにじゃがいもしか収穫できず名産品もなかった村に住う者は畑仕事とは別の収入も得ることができるようになり、売り上げの1割は特許費用としてザンザスがつくっていたエイリの口座に振り込まれたのだが…。


エイリ本人は日本で当たり前だったものを話しただけなのにと、特許費用を得ることに否定的だった。


ザンザスとルエンの2人が『お前は元から金銭感覚がしっかりしているし金というのはいつ必要になるか分からないのだから貰える物は貰っておけ』と何度もエイリを説得し最終的にはエイリが妹のように可愛がっている猫耳姉妹と契約精霊クゥの為のおやつの材料費にしていいならとエイリは片栗粉の特許費用を受け取ることにした。



ー最近リコとルティには色々手伝って貰っているし芋餅じゃない女の子らしいおやつを作ってあげたいなぁ…。


とエイリはギルドの仮拠点の台所にある調理器具で作れそうな洋菓子をリコリスとルティリスの為に考え始めるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ