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空色の娘は日本育ちの異世界人  作者: 雨宮洪
二章 『愛し子』の娘、ギルド見習いになる
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20話 ギルドで朝食を



「あ"~朝から稽古とか死ぬ…身体中痛い…腹も減って死にそう…」


「…夕方もするからな覚悟しておけ」


「ゔぇ!?」


「ルエンさんもう少し加減してやってくれよ…」



竜鳥のつみれ汁が出来上がった頃、朝から出払っていた団員達は帰ってくるなり食堂に直行してきた。


どうやら団員達が出払っていたのは朝稽古をする為だったようだ。


特にハロルドとカインの2人はルエンの加減なしの剣の稽古を受けていたらしい。


朝から2人の顔には小さな擦り傷がいくつも見え、体力も大幅に消耗している様子だった。


カインに至っては体力の消耗が激しすぎていつも以上に無口になっていた。


「おはようございます!」


身長が小さいエイリは木箱を踏み台にして食堂と台所をつなぐカウンターから顔を出して団員達に朝の挨拶をした。


いつもルエン相手であれば「おはよー」だが、まだギルドの団員達に慣れていないので朝の挨拶はまだ敬語だ。



「大丈夫?ちゃんと運べる?」


「つみれ汁だけならなんとかだいじょうぶです…」


団員達の食事はスープが盛られた皿とパンが乗った皿をそれぞれカウンターに置き団員達自ら取りに来させているのだがエイリはギルドで初めて味付けした料理は自分の手で父に配膳したかった。


パンの配膳はザンザスにお願いし、アビリオにつみれ汁をエイリとルエン、クゥの分を皿に盛ってもらった。


盆に乗せられた3人分のつみれ汁をエイリはルエンの元に運んでいった。



3人分のつみれ汁が盛られた皿は17歳の頃であればなんともなかったものでも幼児化してしまうと少々重く、思い通りに動けず見ている方はハラハラする程足どりは危なっかしいがエイリは皿を落とすことなくどうにかルエンの元につみれ汁を運ぶことが出来た。


「おとうさん!きょうもおいしくつくれたよ!」


エイリは『スティリア』に来てから料理に竜鳥の肉を使ったことは無かったのでつみれ汁が美味しく仕上がるか不安だったが完成してからアビリオ達とみれ汁のスープを少し味見してみると想像以上に美味しく仕上がっていたので嬉しそうに幼児らしい表情でルエンに報告した。



「今日のスープはこの間作っていたものと違うが美味そうだな。お前の分はテーブルに置いておくから早くそこで物欲しそうに見ているイタチにやってこい」


ルエンに言われてクゥを見ると待ちきれんと言わんばかりに尻尾を激しく振りながら『ねぇまだ?ねぇまだ?』と言いたげな目をしてエイリが持ってきたつみれ汁を見つめていた。



「クゥ、おまたせ。まだすこしあついからがっつきすぎちゃだめだよ」


「ピュィ♪」


床にクゥの分のつみれ汁を置くとハフッハフッとさせながらクゥはスープにがっついていた。


「ビィビィ」


「ビビどうしたの?ビビも食べたいの?」


ビビはアビリオのズボンの裾を前足でちょんちょんと引っ張りつみれ汁の催促をしていた。


アビリオはビビの分のつみれ汁を皿に盛り床に置くとビビはクゥ程がっつかず黙々と食べていた。


表情からしてビビも日本風に味付けした料理が気に入ったようだ。


「「おにくがふわふわでおいしい!」」


暫くして猫耳姉妹も起きてきて2人がつみれ汁を食すと入っていた竜鳥のつみれを美味しそうに頬張っていた。


「ただの塩で味付けされたスープだと思ったけどすげぇ美味い!」


「味噌がなくてもこんなに美味いものが作れるんだな…」


初めはただの肉団子が入った塩で味付けされた野菜スープだと思って食べた団員達から驚きの声が上がる。


「この間のじゃがいも団子が入った醤油スープも美味かったがこの塩スープの方が酒が残った朝なんかに良いな」


「おとうさん…、だからってあんまりよるはのみすぎないでね」


つみれ汁を食べたルエンの感想はとスオンとこの町に来る前に作ったじゃがいもを小麦粉に混ぜて作ったすいとん汁より高評価だった。



「すごく美味いだけじゃなくてなんかやる気と元気が出た気がする…。これならいくらでも食べられる」


先程まで余りにも厳しいルエンとの稽古で疲れグッタリしていたカインが言った。


カインのいつもより青白かった顔も竜鳥のつみれ汁を食べると見る見るうちに顔色が良くなっていた。


ーそりゃぁ、攻撃力が上がるだけじゃなくてHP回復も下級ポーション半分の効果がありますもん…。


ザンザスによると今回の竜鳥のつみれ汁はスープ1杯につき下級ポーションの半分の効果と攻撃力、ステータス異常を受ける確率が少し下がる効果があると言っていた。


かつてザンザス達が『白銀の愛し子』と旅をしていた頃も『料理スキル』のレベルが異常に高かった『白銀の愛し子』が作った料理はどれもHP回復効果やステータス向上効果があったらしい。


「おかわり!」


「ハロルドはさっき2杯目食べたでしょ?スープは1人2杯までだよ」


スープを2杯平らげたハロルドは3杯目のお代わりを頼んだがアビリオに却下されていた。


『七曜の獣』での食事でスープ類は1人2杯までとルールがあるらしい。


HP回復効果とステータス向上効果を持ち合わせた料理は2杯目からはHPが回復するのみでステータス向上効果はそれ以上の上乗せはされないとザンザスが言っていた。


「アビィが作る味噌汁も美味いが今日のスープはエイリが味付けしたんだよな?ほんとこんな美味いスープどこで覚えたんだ?」


「それは…きぎょーヒミツです」


グランドンに質問されエイリは企業秘密と答えた。


今までエイリの素性を知らない者達によく料理を覚えた経緯を聞かれてきたが正直適当な理由を考え答えるのが面倒になっていたので『七曜の獣』では企業秘密を理由として通すことにした。



朝食の後エイリは洗い物を出来る範囲で手伝うとアビリオに申し出たが洗い物はビビとするので大丈夫だと言われた。


エイリはルエンと昨日ギルドに入団したばかりで長い期間ギルドに身を置くので今後の生活で必要になる日用品を買うためにルエン、ザンザスの3人で町へ買い出しに出かけていった。



「みんなにお願いしたいことがあるんだけどいいかな。出来ればエイリが料理上手なことをギルドの外の人に話さないで欲しいんだ。エイリ程の料理上手な子はどこのギルドでも欲しがるでしょ?」


3人が町へ出かけた後、アビリオは残っている団員達にこのようなお願いをした。


アビリオはエイリの『料理スキル』のレベルとステータス向上効果がある料理を作れることを伏せ他のギルドに料理上手なエイリを引き抜かれたくないからと他の団員達には説明した。


団員達に本当の理由を伏せたのはここ数年各国では下級のポーションでさえ生産量が少なく価格が高騰しリィンデルアの場合は王都の騎士団に優先的にポーションが納品されている為冒険者はポーションを入手するのが難しくなっていることにある。


ポーションの生産量が少ないのは材料になる薬草の栽培がうまくいかず、まとまった量を確保出来ないのが原因だ。


その状態で味付けだけで下級ポーションの効果半分とステータスが向上する料理をエイリが作れることが団員達から情報が漏れエイリの能力が各国の王都やギルドの外の冒険者達に知られるとエイリが誘拐されるだけで済まず、まだ自衛出来る実戦経験がある団員はどうにかなるとしても幼い猫耳姉妹にも危険が及ぶ可能性がある。


なのでザンザスはアビリオに『団員達にはエイリの料理が美味いことは黙ていろって適当に頼んでおいてくれ』と伝えエイリ達と町へ出かけて行ったのだ。


アビリオのこの説明にカインは少々勘づいているようだったが自身はこのギルドしか行き場がない事情がありこのギルドにいるのでエイリにもそのような事情があるのだろうと思いアビリオに口出しはしなかった。



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