18話 入団初夜
「ピュィピュィ!」
ペシペシとクゥの小さな前足で頭を叩かれた衝撃でエイリは昼寝から目覚めた。
ーそうだ…ギルドの仮拠点で当てがわれた部屋に来てすぐ寝ちゃったんだ…。
エイリが起きた頃には部屋の中でさえ暗くになっており携帯電話で時刻の確認をすると正確かは分からないが19時35分になっていた。
カリッカリっ
ふと何か小動物が何かを引っ掻いている音が聞こえた。
その音は部屋の扉から聞こえる。
エイリが扉を開けると白い生き物が目の前にいた。
その生き物はクゥより大きくずんぐりとした体、大きな前歯、青い目、茶色の平たく大きな尻尾をしており白いがビーバーに似た姿をしていた。
ーヤバイ、ずんぐりした体に白いもっふもふとか可愛すぎる!
「ビィ」
白いビーバーは低い鳴き声を短く発すると後ろを向き数歩移動しエイリの顔を見る。
『ついてこい』ということらしい。エイリはそのまま白いビーバーの後ろをついて移動した。
「このこはアビィがケーヤクしてるビビだよ」
白いビーバーについて行った先は食堂だった。
食堂の入り口で合流した猫耳姉妹のうちのリコリスがこの白いビーバーはアビリオが契約している精霊のビビだということを教えてくれた。
ビビがエイリの部屋の前に来たのは夕食の用意が出来たのでエイリを起こしに来たのだろうとエイリは思った。
食堂に入ると既にエイリと猫耳姉妹とアビリオを除いた団員達が席に着き夕食を摂っているのが見えた。
「遅いぞエイリ」
「おとうさん!」
食堂にあるテーブル席で一番端の方にルエンとザンザスが座っているのが見えた。
そのテーブルには2人だけでなくエイリと猫耳姉妹、アビリオの分だと思われる食事が置かれていた。
エイリはルエンの隣に猫耳姉妹はやはりルエンの外見が怖いのかなるべくルエンを見ないようにザンザスの隣に座った。
夕食のメニューはキャベツと人参が入った味噌汁と孤児院で食べていた物より白い雑穀パン、挽き肉をハンバーグのように形成し素焼きした物だった。
スープ代わりに味噌汁があるのは『白銀の愛し子』と『エニシ屋』と縁があるギルドだからだろう。
団員達はちぎったパンを塩と野菜のスープと同じ感覚で味噌汁につけて食べているのが正直日本育ちのエイリには異様に見えたが『スティリア』ではパンはスープにつけて食べるのが常識なので仕方ないと思うことにした。
この時のクゥはというと軽く食事の匂いを嗅ぎ食欲が湧かなかったのかエイリとルエンの席の間で丸まって待機していた。
「おにくがおいしいねー」
醤油をかけた素焼きハンバーグを頬張りながらルティリスが言う。
素焼きしたハンバーグの肉は見回りした畑の主が報酬にくれた今朝締めた竜鳥のモモ肉らしい。
竜鳥のモモ肉は鶏肉より味は濃いが食肉目的で飼育された鶏と違い竜車を引き長距離を走るので胸肉より固く脂肪も少ないので汁麺のスープのように煮込むか挽き肉にでもしないととてもではないが食えたものではない。
ー醤油と塩があるだけマシだけどソースかケチャップが欲しい…。
素焼きハンバーグにはハンバーグのように刻み玉ねぎどころか卵やパンといったつなぎが一切入っておらず食感は挽き肉にした鶏胸肉を焼いたかのようにパサついている。
調味料もテーブルに置かれた醤油か塩の二択しかないのでソースやケチャップをかけたハンバーグに慣れたエイリには少しキツかったがソースとケチャップもこの場に無いものは仕方ないのでエイリは素焼きハンバーグに塩を軽く振って食べた。
「隣に座っても良いかな?」
「あ、はい…」
アビリオがエイリの隣に座った。
ある程度台所の片付けを終わらせたらしいアビリオは今から夕食を食べるようだ。
「僕が作った食事口に合うかな…?僕は作れる料理の種類が少なくてこれ以上の物を作れないから…」
「ちゃんとおいしいですよ?」
雑穀パンは小麦畑の見回りの報酬で貰った小麦粉を町に唯一あるパン屋に持って行き雑穀を混ぜて焼いてもらっているものだが味噌汁と素焼きハンバーグはアビリオが仮拠点の台所で作ったものらしい。
雑穀パンと素焼きハンバーグは口の中の水分が持っていかれる代物であったが小麦粉の割合が多い雑穀パンと出汁粉が使われた味噌汁があるだけ孤児院どころか『スティリア』の一般家庭の食事の中では充分過ぎる程だ。
そもそも客人でもなければギルドに身を置く見習いが副団長の作った食事を不味いと文句を言える立場ではない。
「…言っておくがこいつはフィリに似て飯の味付けが美味いからな舌が肥えている。もう少し大きければお前より美味い飯が作れるぞ」
「ちょっ、おとうさん!?」
突如ルエンの娘自慢が始まった。
これまでルエンはエイリの味付けが美味いことをスオンにさえはっきりと自慢するところを見たことがなかったのでエイリは驚いていた。
ただルエンもアビリオとの仲が悪いのだろうか…口調からしてアビリオを焚きつけているようにも聞こえる。
「エイリって料理を作れるの!?」
「あしづけしかさせてもらえませんし、みなさんのおくちにあうかどうか…」
通常『スティリア』では7才の子供は食材を切ったりスープを煮るなどの手伝いをさせられるものだがエイリは同世代のラメルの子供と比べ大幅に小柄だからか孤児院では4才だと思われ、スオンとルエンもエイリに刃物を扱う手伝いをさせず本当に料理の味付けくらいしかさせていない。
「それでも良いから君から料理の味付けとかを教えてほしい!」
少々興奮気味のアビリオが言った。
ー料理の腕を上げてお父さんを見返したいとかそんな風なんだろな…。
こうしてエイリは明日からアビリオの料理作りの補助(?)をすることが決定した。
ー久しぶりのお風呂気持ちよかった…。
食後は仮拠点の裏側にある風呂場でエイリは猫耳姉妹と一緒に一番風呂を堪能し自室でクゥをもふもふしていた。
『スティリア』に来てから初めて浸かった湯船は可愛い猫耳姉妹が一緒だったので尚更至福だった。
元々仮拠点が宿屋だった頃には風呂場は無かったのだがザンザスが元持ち主の老夫婦の許可を得て業者を呼び簡易ながらも風呂場をつくったのだという。
いや、仮拠点にしてからザンザスが弄ったのはこれだけではない。
エイリが『スティリア』に来てから今まで見たトイレは全て汲み取り式だったが仮拠点のトイレは裕福層で普及している座れる水洗トイレだったし、まだ見てはいないが台所にも家事をするアビリオが楽になるようにと最新の調理用の魔道具を設置したのだという。
エイリは他愛のない会話をしながらもザンザスがナイフとフォークを使い貴族らしい作法で夕食を摂っている姿を見たときにも思ったがザンザスの服装はアレだが他の部分には清潔さを心掛けているあたり本当に貴族出身だということがよく分かった。
だが、エイリがこれらの物を見て疑問も沸く。
ー工事資金とかいったいどこから出てるんだろう…?
別の街で建設中だというギルドの本拠点なら分かるが仮拠点にもお金を掛け過ぎているのだ。
最新の魔道具でさえ安くはない筈とエイリはギルドの工事資金の出所が気になった。
ハーセリアにあるザンザスの実家はハーセリア自体衰退しているので援助は難しい状態だろう、いくら英雄であっても冒険者がそんなホイホイと仮拠点の改装にも回せるだけのお金が稼げるだろうか?
ー借金をするか強力なスポンサーがいないと無理では?
借金をしているのであればそれに関してエイリが出来ることは何もないので明日からアビリオに教えることになった料理をなるべく出費の掛からないものにしようとエイリは検討するのだった。




