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空色の娘は日本育ちの異世界人  作者: 雨宮洪
二章 『愛し子』の娘、ギルド見習いになる
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16話 ギルド団員達

久しぶりの更新です。




「あのね、リコねリコリスっておなまえでこのこはルティリスっていうの。ねぇ、エイリはどこからきたの?」


ギルド『七曜の獣』の団員達にルエンと共に自己紹介のあとルエンが団長のザンザス、副団長だと思われる青年と共にその場を離れ一人残され固まっているエイリに話しかけきたのはグレーの髪と緑色の瞳、髪色と同じ色の耳を頭に生やしたリコリスと名乗った亜人の少女だった。


リコというのはリコリスの一人称らしい。


リコリスの双子の妹か姉だろうか頭に生えた猫耳がペタンと折れている事を除けば容姿が瓜二つのルティリスという名の少女が先程のエイリのように緊張した表情でリコリスくっ付いていた。


ルティリスはリコリスより控えめな性格らしい。



この姉妹は身長からして一見するとエイリと同じ年頃に見えなくも無いが、幼い言葉遣いからして現在のエイリより数才年下なのは確かだ。



「おとうさんといっしょにハーセリアから…」


異世界の日本という国で長年育ち『スティリア』に帰ってきたとは言えるわけがないので前もって考えていた無難な回答をエイリは答えた。


エイリが実父(ルエン)とハーセリアからリィンデルアに来たのは本当のことなので嘘は言っていない。


「ハーセリアってこわいひとたちがたくさんいるところでしょ?こわいことなかった?」


このギルドの団員の誰かが教えたのかハーセリアはこの猫耳姉妹や外形がヤヌワ寄りのエイリのような子供には危険極まりない国であることをリコリスは知っているようだ。


「おとうさんといっしょだったからこわいことはなにもなかったよ」


ハーセリア国内の冒険者ではないラメルの大半はルエンとエイリの容姿を理由に蔑んだ目で見る者や侮辱する者は多かったがそのように見たり言うだけで刃物で切り掛かってきたり石を投げる者はいなかった。


ルエンは恐ろしい程の実力がある冒険者、そんなルエンにわざわざ直接攻撃を一般市民が仕掛けるのは正直自殺行為に等しい。


そしてルエンが強いだけでなく不器用ながらも父親らしい愛情を道中注いでいてくれたからこそエイリは五体満足、心傷も負わずハーセリアという危険な国を抜けリィンデルア国内に入りこのギルドの仮拠点にまで来ることが出来た。


だが、よく考えてみれば『スティリア』で初めて過ごしたのがハーセリアという危険な国だったが、運良く冒険者のシェナンや孤児院を運営しているラシィムなどの善人と出会えたから実父(ルエン)と再会し今の生活があるのだ。


今は無理でもいつかシェナンやラシィム、そして孤児院でなにかと気にかけてくれたハンナに恩返しがしたいとエイリは考えていた。



「ピュィ!」


エイリがハーセリアから来たことを答えてすぐエイリのバッグからクゥが顔を出し『僕も一緒にいたことを忘れないでほしい!』と抗議しているかのように鳴いた。


「そうだねー、クゥはセントリアスからいっしょだったもんねー」


自分の存在を忘れられたと思い不機嫌になったクゥをエイリは宥めるように声をかけながら撫でた。


エイリの小さな手で喉や耳の付け根を撫でられたクゥはキュルキュルと喉を鳴らしながら満足そうな表情になる。


一応彼(?)の機嫌は治ったようだ。



「かわいい!このこにさわらせてもらってもいい?」



ザンザスやスオンが見ることが出来なかったクゥの姿をこの猫耳姉妹には見えるらしくクゥを触らせて欲しいとエイリにお願いした。


やはり女児が可愛い小動物が好きなのは世界共通らしい。



「クゥ、さわられてもだいじょうぶ?」


クゥをまだ他の者に触らせたことは無かったのでいきなり他者が触ることでクゥの機嫌を損ね相手を噛んだりするかもしれないと思いエイリはクゥに確認をした。


「ピュィ♪」


クゥは機嫌が良さそうに鳴いた。


他の者が触っても大丈夫ということらしいとエイリは解釈した。


「さわってもだいじょうぶだって」


エイリがクゥを抱っこしている状態で2人に触れさせる。


「ふわふわ~」


「かわいい…」


先程まで緊張した表情でリコリスにくっついていたルティリスもクゥに触れているうちに緊張が解けたのか柔らかい表情になり触られているクゥもエイリに撫でられていた時と変わらず喉をキュルキュルと鳴らしていた。


ーリアル猫耳幼女と小動物の組み合わせとか何これ!可愛いを通り越して尊い!尊すぎるよ!!


クゥを撫で回し笑顔になった猫耳姉妹を見てエイリは思わずへにゃりとした表情になる。



「おい…!そのイタチはお前の精霊か!?」


エイリにいきなりカインが話しかけてきた。


どうやらカインは精霊が見える人間らしい。


「えっ、そうですけど…」


「まさか…契約までしてるのか…?」


カインの問いにエイリは頷く。


「ありえない…」


信じられんという表情でカインが言った。


「おいおい!アビリオさんが精霊と契約したっていうのは9才くらいじゃなかったっけ!?」


「リコ達と同じ年頃で精霊と契約精霊してるとは凄い見習いが入ったなぁ!」


カインだけでなく他2人の団員も近くに来ていた。


せっかくなのでクゥの属性含めて紹介したがこの2人にはクゥの姿は見えていないようだった。


「あの…、クゥがわたしの精霊だっていうことをギルドのそとのひとにはひみつにしてくれませんか…?」


体格の良い紫髪の男はグランドン、カインと変わらない年頃の茶髪の少年はハロルドという名だと改めて自己紹介をして後ほどもしかすれば『大事(おおごと)』を防ぐ為にザンザスも団員達に言うかもしれないがこの場にいる団員達にエイリが精霊と契約していることを外の者達には秘密にして欲しいと頼んだ。



ーそういえばリコ達と変わらない年齢って…この子達何才なんだろう?


グランドンが言った言葉に疑問を感じたエイリはリコリスに年齢を問う。


「5さいなの!」


ルティリスはやはりリコリスの双子の妹なので同じ年齢だ。


ー異世界の子ってホント発育が良いなぁ…。って私も異世界人だったよちくしょう!


ヤヌワという日本人に近い種族の特徴が多いエイリはラシィムの孤児院に居た頃から同じ年頃のラメルの子供達より小さかったわけだが現在の猫耳姉妹達の身長はエイリにとても近い。


この時点で猫耳姉妹達から身長が余裕で追い抜かれる未来がエイリには見えた気がした…。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アビィがつくるごはんはとーってもおいしいんだよ!」


団員達と打ち解け始めたエイリは食堂にあるテーブル席に座りながらこのギルド『七曜の獣』での生活などの話を聞いていた。



ギルド『七曜の獣』のギルド団長ザンザスと副団長アビリオのことはスオンに聞いたことと大差無く、『七曜の獣』の仮拠点は元々は老夫婦が経営していた宿屋だったが、老夫婦が息子夫婦と暮らす為に商売を畳み建物をギルド団長であるザンザスが老夫婦から借りて使用しているのだという。


この小さな町ハラスでのギルド活動はというと畑を荒す角ウサギや親離れしたばかりの小さなレッドボアから畑を守る為に畑地帯の見回りが主らしい。


本当にそれくらいしかすることが無く名物も無い町なのでハラスには冒険者組合も無く冒険者や商人があまり訪れない町なのでギルドの本拠点が完成するまでの間に静かに過ごしながらカインやハロルドのようなまだ駆け出しの冒険者が経験を積むのに打ってつけなのだという。


この町に来る前まではエイリがスオンに聞いていた通り宿泊している宿に押しかけて来る冒険者が思い出したくないほど凄まじかったとカインが言った。


ーだから私達がギルドに来た時凄く警戒してたんだ…。


エイリはルエンとこの仮拠点に来た時のカインの顔を思い出していた。


このギルドに入団出来るのはギルド団長のザンザスが勧誘した者のみでこの場にいる団員達も皆ザンザスに勧誘され入団した者達だという。


団員達がどのような形でザンザスと出会いギルドに勧誘され入団したのかエイリは気になったが自身も全ての事情を話せぬというのに団員達の私情を根掘り葉掘り聞くのは最低の行為だと思っているので本人達が話したい時に聞くことにした。



そしてギルドでの食生活の話となった。



食事は基本朝と夜の二食、見習いではあるがまだ幼く育ち盛りの猫耳姉妹達は三食でギルドの食事を作るのは団員の中で唯一『料理スキル』持ちのアビリオが担当しているのだという。


料理の材料の大半はザンザスがたかが見回りでお金を受け取るのに消極的である為畑の見回りの報酬として貰った野菜や牛乳、竜鳥の肉や卵。


見回りの際に出没した魔物を狩って得た肉が多く、他の調味料や町で手に入らない食材などはザンザスと付き合いが長い『エニシ屋』のオーナーのスオンに頼めば相場より安い価格で販売してくれるらしい。


ースオンさんにお願いしたらお米を売ってくれるかな…。あーでもお金が無い…。


長年日本で暮らしたエイリは白米が恋しかったが自分には米を買うほどの所持金も無ければルエン含め団員達が白米を好まないかもしれないのに自分の為に米を買って欲しいと頼むわけにはいかないと悩んでいた。


「ちゃんと仲良く出来てるようで良かった」


団員達と話していると栗色の髪の青年、ギルド『七曜の獣』で副団長を務めるアビリオが食堂に戻ってきた。


「僕はここで副団長を任されているアビリオ。アビィって呼んでね」


「あ、はい。これからよろしくおねがいします」


アビリオが穏やかな声で自己紹介をしてくれたのでエイリはペコリとお辞儀をした。


「ザンザスさんとアルち…じゃなくて君のお父さんはもう少しお話しするみたいだし、エイリは長旅で疲れてるでしょ?夕食まで時間もあるから部屋で休みなよ」


ーあれ…?今お父さんの事をアル中って呼ぼうとしてなかった…?アビリオさんとお父さんってもしかして仲が悪い…?


ルエンが酒をかなり呑んでいた時期にこの2人の間に何かあったのだろうか?とエイリは予想するのだった。





「ここが今日から君が使う部屋だよ。夕食ができたら呼ぶからね」


「はい。」



食堂を出てからアビリオはエイリにトイレの場所を教え、エイリが仮拠点にいる間に使う部屋へ案内した。


団員達の部屋は元宿泊部屋だったのをそのまま使っており部屋の扉に飾ってある木彫りのプレートに掘られた動物や魚の絵で団員達の部屋を区別している。


エイリが使う部屋の扉のプレートには猫の顔が掘られていた。


部屋の中は猫の顔がプレートに掘られていた理由が分かるほど日当たりが良く、部屋に入るなりバッグからクゥが飛び出し窓際にある机に乗り日光浴をし始めた。



クゥが入っていたバッグを机の近くに置くとエイリはベッドにそのまま寝転がった。



ー久しぶりのベッドだ…。


精霊王の力で『スティリア』に来たエイリはラシィムの孤児院を出た後は1ヶ月近く竜車の中で宿泊していたので例え古くともベッドで寝られるだけ有り難かった。


長旅の疲れからかベッドに横たわってすぐエイリは睡魔に勝てず眠ってしまうのだった。


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