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空色の娘は日本育ちの異世界人  作者: 雨宮洪
一章 異世界に帰ってきた?らしい
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13話 はじめての契約精霊




エイリの熱が下がり、アルフレッドから退院許可がおりたのはセントリアスに来て5日目のことだった。


旅費の節約なのか入院費代わりにルエンは高級食材なのだというエノルメピッグの肉を幾つかアルフレッドに渡していた。



「…俺は少し留守にする、部屋から出ずに大人しくしていろ」


エイリの退院後、2人はセントリアスにある安宿で部屋を借りルエンはリィンデルア側へ出た後の移動に備え回復アイテム等の買出しに行ってしまった。


エイリは今まで見てきたハーセリアのどの町よりも活気のあるセントリアスを見て回りたかったがそれぞれの地区に三国の大使館や王都公認騎士団の拠点があり治安は良い方とはいえ大きな街だからこそ奴隷商人などの危険人物が潜んでいる可能性があるということで留守番だ。


ーあれって…着け耳や付けツノじゃないよね?


留守番している間、エイリは窓からセントリアスの街を出歩く者達を見ていた。


ハーセリアにいた時はラメルしか見たことがなかったが、国境都市というだけ様々な種族が集まるセントリアスに来て初めてエイリは頭に獣らしい耳やツノを生やしているのが特徴の亜人やルエン以外のヤヌワを見た。


ーあのふわふわ浮いている光りみたいのは何だろう…?


セントリアスにいる人々だけでなく建物を見ているとふわふわと赤・青・緑・茶色などの色をした小さな光りが浮いているのが見えた。


この光りこそが幼い精霊なのだが、今までルエンの契約精霊のシンクとアルフレッドの契約精霊のロッソという成熟し契約可能になった精霊しか見たことがなかったエイリには分からなかった。


ーおとうさん遅いなぁ…。


どれくらいの時間が経ったかは分からないがルエンは中々戻って来ず、窓から見える景色を見ているのに飽きたエイリはベッドに寝転んだ。


ーそういえばリィンデルアに行ったらどうするんだろう…?


エイリはまだリィンデルアに渡ってからの予定をルエンから何も聞いていなかった。


リィンデルアに渡ればハーセリアからのエイリを狙っている追っ手は簡単には手出しはされないと聞いてはいたが、やはりリィンデルアに渡ってから今度はリィンデルアの国の者にエイリの存在を知られぬように各地を転々と旅をするのだろうか?


ーそろそろシャワーでも良いからお湯浴びたい…。


旅の間、体と髪や服はルエンの生活魔法の熱くない炎で清めてもらっていた。


口には出さないがそろそろ風呂かシャワーなどお湯を浴びたいとエイリは思っていた。


今までエイリがいた場所で入浴場があったのはラシィムの孤児院とカナムの冒険者専用の宿屋くらいで、やはり大抵の住居や宿屋にはそのようで貴族の屋敷や大きな商家にしか風呂は無いらしい。


実際今回宿泊している宿屋にもシャワーがないので格安だ。


多くの安宿で基本はタライ一杯のお湯を頼みそれで体を拭くか井戸水を浴びるかの二択なのでそれを考えればルエンの生活魔法様々だ。





コツッ コツッ コツッ


ふと、小さい音がしてエイリが音がする方を見ると…。


ーな、なんか可愛すぎる生き物がいる!


赤い目、クリーム色の毛色、ピンク色の鼻、長い尻尾の小動物が窓ガラスをまるで部屋の中に入れろと言わんばかりに前足で叩いている。


体つきはフェレットに似ているがハクビシンに見えなくもない気がした。



ー可愛いなぁー、全力でモフりたい!でも…公共施設に生き物入れちゃ駄目だよね…。


宿屋も一応公共施設だ。異世界(ニホン)の公共施設に盲導犬や補助犬ではない動物を入れてはいけないという常識が染み付いていたエイリがそう考えていると…。


「ピュィ?」


可愛い鳴き声で首を傾げる姿を見て可愛い生き物には劇的に弱いエイリは脳内で鼻血を噴き出している自分の姿を思い浮かべながら撃沈するのだった。


ーちょ、ちょっとだけなら良いよね…。こんなに可愛いんだからきっと飼い主がいるだろうし…。


何処か貴族など裕福な家で飼われていたものが脱走したのだろうか?


その生き物は可愛いだけでなく見るからに綺麗な毛並みをしていた。


ルエンが戻ってきたら一緒に飼い主を探しに行けばいいかとエイリは軽い気持ちでフェレットのような生き物を部屋に招き入れた。


「きみは飼われていたの?すごくいい毛並みだねー」


普段ルエンかエイリが可愛いと思った生き物にしか表情が緩まないエイリは例外なくフェレット(?)をふみゃんと緩みきった表情で撫で回す、フェレット(?)は柔らかでシルキーな毛感触だった。


エイリはフェレット(?)と遊びながらルエンの帰りを待っていた。




「驚いたな…まさか精霊から契約を持ちかけに来るとは…」


ルエンが宿屋に戻って来たのは外が薄暗くなってからだった。


ルエンによると周囲にいる幼い精霊が契約可能になるまでに成長すると人里離れた場所などに住みながら才ある実力者を待っているものらしい。


それがわざわざ街に来てエイリのような幼い子供に契約を持ち掛けてくるのはあり得ないことなのだという。


「…お前は母親に似て精霊から好かれるようだな、契約すれば良い」


ルエンがセントリアスの街中に出ていたのは回復アイテムや食料品の買い出しだけでなく魔力量を自分の力だけで調整ができないエイリに精霊と契約させる為に精霊が住まう場所の情報を集めていたからだったそうだが…。


精霊の住む場所の情報集めの結果は…芳しくなかったようだ。


「契約って…どうすればいいの…?」


「…名をつけて精霊がそれを気に入れば契約が完了する」


ー精霊が気にいる名前をつければ契約の証になるというのはなんだか物語定番の精霊との契約方法だなぁ…。


とエイリは思った。


「それじゃぁ…"クゥ"はどうかな?」


なんとなくエイリがこの精霊を見て思い浮かんだ名前だった。


「ピューィ♪」


フェレット(?)は機嫌良さそうに高い声で鳴くと、エイリの身体中に温かい何かが駆け巡るのを感じた。


これがエイリの初めての精霊、クゥとの契約だった…。


「…これでお前はもう高熱が出る程の魔力が体に溜まらないはずだ。精霊は何があってもお前を護る味方になってくれるだろう」


エイリが命じればクゥはそれに答え魔法は使えなくはないだろうがエイリは『愛し子』の娘だ。どれ程の威力になるのかは分からず、場合によっては怪我人が出るほどにまで過剰な結果を招きかねない。


なのでエイリが本格的な魔法の使い方を教わるのはそのうちエイリと相性が良い師を見つけてからになるらしい。


「そういえば、クゥってなんの属性の精霊なんだろう?」


「俺は精霊に詳しい訳ではないが毛色からして雷属性かもしれん。確か雷属性の精霊は珍しかった筈だ」


精霊の体色が精霊の属性であることが多い。


ルエンとアルフレッドの契約精霊はどちらも火属性なので赤系統の体色だ。


魔法使いが契約する精霊の属性は四元素の火・水・風・地属性のいずれかが多く、クゥのような雷属性の精霊は遭遇するのですら稀なのだという。


「雷ぞくせい…。」


エイリはクゥの頭・頬・腹などをひたすらモフモフするかのように撫で回し…。


「雷ぞくせいなのにぜんぜんビリッとしないよ?」


幼児らしいキョトンとした表情でエイリが言うとルエンがブフォッと噴き出し笑われた。


「精霊がっ…契約者に攻撃するわけないだろ。お前は本当にフィリに似て突拍子もないことを言う」


ルエンはククッと笑いを堪えながらエイリの頭をぽんぽんと撫でた。


エイリは孤児院からルエンに引き取られ共に旅をして1ヶ月以上経ったがこの時初めてルエンが声を出して笑っているのを見て内心では少し驚いていた。



「ハーセリアでは精霊を見ることができる奴は稀だったが、このセントリアスとリィンデルアには魔法使いが多い。お前だけでなくその精霊も目立つからな、バッグにでも隠しておけ」


ルエンによると精霊と契約した者は公式の記録上、最年少は9才の少年であるらしい。


それをたった今7才のエイリが簡単に記録を破ってしまったのだから周知されれば騒ぎどころではなくエイリが『愛し子』の娘であるまで各国に知られ、国によってはハーセリアのようにエイリの意思を無視した保護という名の拘束をされることをルエンは避けたいようだ。


外出している時にクゥはエイリのショルダーバッグの中に入って貰うことが決まった。




「そういえば、精霊ってなにをたべるの?」


1ヶ月以上ルエンと旅をして食事の最中に彼の契約精霊シンクが人間の食べ物を食している姿を見たことがなかった。


「…基本は契約者の魔力だな。この前までのお前のように熱が出るほど魔力が溜まっている相手の魔力を吸わせることもあるがな」


中には人間の食べ物を嗜好で食す精霊もいるようだが基本は契約者の魔力を吸って食事としているようだ。


ーまぁ…、あまり食欲が湧かない食事ばかりだしね…。


エイリが『スティリア』に来て2ヶ月以上経ちまだこの世界の一般食といえばハーセリアくらいしかよく知らないが孤児院の食事は食べ物があるだけ有り難かったけれど塩で味付けされただけの野菜スープもしくは牛かヤギの肉が入ったスープや固い雑穀パンでは食欲が湧かないだろう。



ーそういえば、クゥって雷属性の精霊なんだよね?


ふと、クゥが雷属性の精霊であれば"アレ"ができるだろうかとエイリは思いついた。


「クゥ、ひざにのってもらって良い?」


ピュィ?と首を傾げながらもクゥがエイリの膝に乗ると…。


「ちょっとごめんね」


エイリのバッテリー切れとなった携帯電話を軽くクゥの頭にあてる、ピッと充電画面が携帯電話に表示された。


「おとうさん!やっぱりクゥが雷ぞくせいっていうのはほんとうなんだね!携帯でんわのじゅーでんができたよ!」


まさか、クゥの力で携帯電話が充電できるとは思ってもみなかったのでエイリは少々興奮していた。


これで『スティリア』に電波がなくともできるダウンロード済みのゲームをすることも音楽を聴くこともタイマーも使えるのだから興奮しない方がおかしい。



「お前はなんという確認方法をするんだ…」


エイリの属性確認方法を見たルエンに今度は呆れられた。


エイリの携帯電話を見たルエンからはやはり、異世界(ニホン)の道具である携帯電話を特に外で人目があるところでは絶対に使うなと釘を刺されるのだった。



このように2人は和気藹々(わきあいあい)(?)と精霊クゥを話題にした話をしていた。


だが、この頃の2人はまさかクゥが実はとんでもない精霊であったことを知らなかった。


クゥの正体をこの親子が知ったのは数年先のことだった…。




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