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空色の娘は日本育ちの異世界人  作者: 雨宮洪
一章 異世界に帰ってきた?らしい
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11話 国境都市セントリアスにて




『スティリア』には人間族身分重視の国ハーセリア


種族身分関係なく共存している国リィンデルア


亜人族が多く暮らし『スティリア』で一番精霊と資源に溢れ栄えている国アルツェス


と呼ばれる三大国家が一つの大陸に存在しており大陸の中央部にこの三国を繋ぐ国境、"国境都市セントリアス"がある。


セントリアスは名前の通り国境としての役割もある街、三国の技術や知恵というものが全て集結しているだけあり『スティリア』中にある街の中で小国並みに大きい街であり交易も盛んだ。住民も兎に角多い(やはり出身国や身分、職業ごとに住まう区域が別れている)


国境都市というだけあり身元がはっきりした者しか町に踏み入れられず、住むことも出来ないので治安は良いほうだ。(それでも上流階級者が利用する闇市はあるらしい)


そして何より三国の王都にも上流階級出身の子供が通う学校はあるのだがセントリアスにある"セントリアス学園"という世界最高峰の剣術と魔法を学べる学園があるのがセントリアスの特色でもある。


この街の南側の門を出ればエイリ達が目指す国、リィンデルアに辿り着くのだが…。


「ぅぅ…」


2人がカナムを発って丁度1ヶ月経った。当初の予定より早く国境、セントリアスにまで来たが街に入る前夜からエイリは熱を出し自力で動けなくなっていた。


はじめは只の風邪だと思っていたが、咳も喉の腫れも無く目が充血し只々体温が高い。


この症状にルエンは覚えがあった。その処置として精霊の力を借りたが多少娘の苦しみが和らいだだけで改善に至らない。


下手に診療所などに彼はこの状態のエイリを診せたくはなかったがこの症状を鎮める術を持たない彼は診療所へエイリを連れて行くしかなかった…。



ルエンは門番に身分証明書(ライセンス)を掲示し、セントリアスに入ってすぐエニシ屋の竜車護衛のクエスト更新をここで終了後エイリを抱きかかえ急いで診療所へ向かう…。


ーどうしてこうもやたら会いたくない連中にばかり遭遇するんだ…。


と内心でルエンは呟く。


この街にある小さな診療所へ来ると上流階級出身だと一目で分かる老紳士の医師が2人を出迎えた。


エイリのこの高熱は純粋なヤヌワ、ヤヌワ寄りの子供がなるのはあり得ないものだ。


医師に診せればエイリが『愛し子』の娘であることが知られ、診た医師がエイリをハーセリアもしくはリィンデルアそれぞれの王に密告し引き渡す可能性があった為ルエンは診療所へエイリを連れて行くのを渋っていたのだが…。


それがよりにもよって…今ルエンが最も会いたくなかった男がこの診療所の医師として目の前にいる。


エイリが最初に暮らした孤児院でハンナという名で働いていた女性同様、ルエンとフィリルルを"良く"知っている人物であるだけにルエンはこの男がハーセリアの王にエイリが『愛し子』の娘であることを密告するのではないか、もしくはエイリにまだ知られたくない数々の"秘密"を話すのではないかと彼は恐れていた。


故にルエンは特にこの男"アルフレッド"にエイリを診せたくなかったが他の診療所を探すぶん娘は熱で余計に苦しむことになる…。


「頼む…娘を助けてくれ…!」


ルエンの力ではエイリを助けることができない。彼はアルフレッドに頭を下げ助けを求めるしかなかった…。


「あー…、やっぱり体と魔力の成長バランスがとれてないねぇ…。」


エイリを診察したアルフレッドが言った。


エイリの高熱は日々彼女の体内で生産され膨れ上がる魔力がまだ幼い体という脆い器を圧迫しているのが原因のものだった。


このような発熱は成長期の魔力が強いラメルや亜人の子供には珍しいものではないのだが、元々魔力が筋力に変換されやすいヤヌワは片親にラメルの血が混ざっていても体を圧迫する程まで魔力が成長することはないのでこれが原因で発熱することはあり得ないのだ。


それでも外形がヤヌワ寄りのエイリの魔力が急速に膨れ上がり、まだ大量の魔力を貯蓄できる強度にまで成長していない体を圧迫しているのは『愛し子』だった母親の特性を色濃く引き継いでいる証拠だった。


「ずっと竜車の中で動かないことが多かったから魔力を消費できなかったのと…旅の疲れがここで一気に出たのも大きいだろうねー。君の精霊1匹じゃこの子の魔力を熱が下がる程吸えないだろう、私の精霊にも魔力を吸わせよう。"ロッソ"」


アルフレッドが呼ぶと顔が平たい赤毛の長毛猫が姿を現しベッドに横たわっているエイリの腰辺りの位置で丸くなる。


この熱を下げるには体を圧迫しない程度まで体内に溜まっている魔力を抜くしかない。


ルエンもそれを分かっていて彼の契約精霊にエイリの魔力を吸わせていたのだが、精霊1匹ではどうしようもない程にまで幼い体には大量の魔力が溜まっていた。


アルフレッドの契約精霊にもエイリの魔力を吸収させ様子を見ることとなった。



アルフレッドの診察が終わり彼がエイリから離れるとルエンは娘に駆け寄る。


「おとうさん…クエストをちゅうだんさせちゃって…ごめんなさい…」


エイリは熱で意識が朦朧としているなかルエンに竜車護衛の更新を自分の所為でできなかったことを謝る。


「…リィンデルア側に出れば護衛クエストなんぞ腐る程ある。お前が気にすることは何もない、今は熱が早く下がるよう寝ていろ」


ルエンがエイリの頭を撫でるとエイリは安心したように穏やかな寝息をたてながら眠った…。


「…アルフレッド、俺は"あれだけ"のことをしておいてフィリを…あんたの弟子を護れなかった不甲斐ない男だが…俺は娘が成人して"真実"を話すその時まで娘の父親でいたい…。だから今は…」


俺から娘を奪わないでくれ…とルエンは懇願するような声でアルフレッドに言った。


アルフレッドはこの診療所で医師となる前はハーセリア国王に仕える宮廷魔法使いでありエイリの実母フィリルルの師だった。


かつてハーセリアでルエンがアルフレッドにしてしまった仕打ちと彼が実の娘のように溺愛していた弟子のフィリルルを護りきれず死なせてしまったことを理由にアルフレッドがエイリの養育権を主張しエイリを引き離されることを彼は恐れていた。


死に向かうように今迄生きてきたルエンにとってエイリの存在こそが今の彼の生存理由だったからだ…。



「"あの時"の事どころかフィリが死んだ時の事も君には何の非もないじゃないか。それに今この子が1番必要としている人間は私ではなく君だということが誰がどう見ても分かるよ…」


まるで"置いていかないで"と言わんばかりにエイリはルエンの袖部分を強く握りながら眠っていた。


「これまでの経緯は明日聞くとしよう。あぁ、そうそう私はもうハーセリアに忠誠なんてものはない。君達の事は密告しないから安心したまえ」


と言いアルフレッドはエイリが眠っている個室の病室から退出した。


その晩、ルエンは娘の側を離れなかった。彼の背中からは"娘が苦しんでいるのは自分の血筋の所為"だと自分で自分を責めているかのように見えた…。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ふわふわもっこもこでペチャンコなかおがカワイイ!」


「ロッソは滅多に顔を褒められる事がないからね、君みたいな可愛い子に撫でられて喜んでるよ」


後日、エイリはアルフレッドの契約精霊ロッソを幼児らしい笑みを浮かべながら撫で回していた。


ロッソも満足そうな表情で金色の目を細めながらゴロゴロと喉を鳴らしている。


エイリの熱は大幅に下がっているもののまだ幾分か頬が赤く全快ではないようだ。


「まだ少し熱があるからもう1日様子を見ようか。君のお父さんと話をしてくるからちゃんと眠ってるんだよ」


「はーい」


アルフレッドはまるで孫を相手にしているかのようにエイリの診察を終えるとルエンと共に病室から出て行った。


ーお父さんと先生って知り合いなのかな…?


エイリは眠っている間にあったルエンとアルフレッドの会話を知らない。


診察の際にエイリがルエンの方を見ると眉間の皺が少々いつもと違う感じに寄っているのが見えた。


この眉間の皺の寄り具合は以前ハンナと話していた時と似ている、まるで"会いたくない人間に会った"と言わんばかりの表情だ。


だとすればアルフレッドもエイリの実親を良く知る人物なのだろうと推測する。


今思えば彼の口から特に親しい者の話を聞いた覚えがない。


そしてエイリが疑問に思っていることが他にもある。


ーそういえば、お父さんってどうしてハーセリアにいたんだろう?


奴隷解放宣言がされても元奴隷差別が変わらなかったハーセリアから逃げたヤヌワは多かったというのにエイリを孤児院に迎えに来るまでの間ルエンはハーセリアで冒険者として生きてきた。


実母がルエンに娘が帰ってきた時のことを頼んでいたとはいえ、エイリが日本から『スティリア』に帰ってくるまでの7年の間彼はどのように、どんな気持ちで生きてきたのか分からない。


ただ、相当荒れ酒に溺れていたのではないかとエイリが初めて孤児院でルエンと会った時の雰囲気からそう感じていた。


ーお父さんが元気になるように頑張りたいな…。


実母の頼みでルエンが知らない間に生まれ異世界(ニホン)で育ったエイリを拒絶せず実子と認知し孤児院から連れ出した1ヶ月の間、ルエンは彼なりに親としての愛情をそそいでくれているのをエイリは分かっていた。


エイリが日本で養い親と暮らしていた頃は養い親は看病どころかエイリの体調を気遣う言葉をくれたことがなかったからだ。


高熱を出して酷い場合は自力で病院に行き、基本は自宅に常備されていた熱冷ましの薬とレトルトのおかゆ、スポーツ飲料を自分で判断するしかなかった。


エイリが高熱で倒れた時、正直彼女はルエンに足手まといだと見捨てられると思っていたが、ルエンは翌朝エイリが目覚めるまで側で寝ずに看病をしてくれていたのだ。


そんな父を支えられるようになりたいとエイリは思っていた。


ー別室ー



「昨日診療所で君達2人の姿を見た時はまるで亡霊を見ている気分だったよ…。エイリなんか髪と瞳の色が違うとはいえフィリがプレツィリア家に買われて来た頃にそっくりじゃないか」


「…そうだな」


ルエンとアルフレッドはエイリに会話が聞かれぬよう少し離れた病室で会話をしていた。


「そうか…あの子はニホンという異世界で17年間生きていたのか…」


「あぁ…、この世界に帰ってきたらこの世界本来の年齢にまで縮んでいたそうだ」


ルエンはアルフレッドにフィリルルが死の間際にエイリを異世界の日本という国に逃がし、その先でエイリは17年間生きてきたことを話した。


「実は…あの精霊達の騒めきから少ししてから王都にいる息子から手紙が来た。道中にフィリの娘を探す連中がいただろう?あれは国王ではなくバカ王子が連れてくるように命令を下したようだ。アレも本当に懲りないねぇ…」


アルフレッドにはハーセリア国の王都で研究者をしている一人息子がおり、城の内情にも詳しい。


ルエンは『愛し子』の娘、エイリをハーセリア国の王都に連れてくるように命令を下したのは国王だと思っていた。


だが、アルフレッドの息子の手紙によると実際国王は前回の精霊達の報復に懲りており『愛し子』の娘獲得は諦めているが、第一(バカ)王子は他国からの援助を受けているこの状態が気に入らずそれを打破する為『愛し子』の娘獲得に躍起になっているのだそうだ。


「それで?セントリアスを出てリィンデルアに渡ったら君はあの子をどう育てるつもりなんだ?今迄のように町を転々とするのか?」


「…2ヶ月前"ザンザス"がギルドをつくり俺に団員として加われと手紙をよこして来た。そのギルドに2人で身を寄せようと思っている…」


ルエンはリィンデルアに渡ってからどう生活するかは考えておらず今迄のように各地を転々とするつもりでいたのだが…


今回のエイリの高熱で彼一人で娘をあらゆる危機から護ることに限界を感じ、丁度エイリが異世界から帰ってきたと精霊達が騒いでいた日に友人のザンザスから届いたギルド勧誘の手紙の返事をエイリの看病をしている間に書き上げ送ったのだという


「彼らもフィリの事を良く知っているから母親と共に死んだと思っていたエイリが実は生きていたと知ったら驚くだろう。」


「…そうだな。俺も…シンクを通して孤児院で娘を見つけるまで半信半疑だった…」


本当はルエンも精霊達が騒ぐまでエイリが異世界で生きていた事を知らなかったのだ。


「全く君は…孤児院であの子を引き取った時が初対面だったわけじゃないのに嘘はいけない。」


ため息をつき呆れながらアルフレッドが言う。


「…フィリを"あの魔物"から護りきれず死なせてしまったと知れば俺は…娘から拒絶されてしまうと思った…」


ルエンは孤児院でエイリと会った時が初対面でも母親と別れた訳でも無ければ、フィリルルからの遺言があったからエイリを孤児院から連れ出した訳でもフィリルルが『金色の愛し子』だった訳でも無かった


これら全てが彼の"本名"とフィリルルが死んだ経緯をエイリが知ればルエンを拒絶し、この先彼が娘を育てるのが困難になると考えついた嘘だったのだ。


「"ロウ"…ザンザスから話は聞いているよ。君は命懸けでその魔物からフィリ達を護ろうとして瀕死の重傷を負ったと…そんな君をあの子は拒絶なんてしないさ」


「そんな訳あるか…俺は…"英雄"だと呼ばれたくせに大事な妻を護りきれず死に損なった…。そんな男を…娘は父親だと思いたくないだろう…」


彼はかつて『煉獄のロウ』と呼ばれた英雄であり、エイリの母親フィリルルこそが『白銀の愛し子』だったのだ。


旅を終えた後、彼は英雄としての名声を捨てフィリルルと隠れ住んだ先で結婚し2人の間に一人娘のエイリが産まれた。


英雄としての名誉と金は無くとも3人での暮らした日々はかけがえのないものだった…。


あの日"あの魔物"が現れ彼の全てが奪われるまでは…。


左目と着物で隠れた彼の胸にある深い傷跡、これらは7年近く前に強大な魔物から妻と娘を護るために負った傷だった。


この深傷を負った時に彼の結婚腕輪がダメージをすべて吸収しきれず砕け、彼は一命を取り留めたのだが…妻は死に赤子だった娘の遺体は見つからず魔物に一口で食べられてしまったのだと思い込んでいた。


自身の命より大事だった妻子を失った彼はその日から酒に溺れ、魔物に殺される為だけに冒険者として今迄生きてきたのだ…。



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