始まる!化けネコライフ!(2)
少し遅れて足音が聞こえる、この忍者が歩くみたいな小さな足音は……どうして? 昨日あんなことあったのに? これがリア充メンタルってやつか!?
「遅れてごめんなさい、昨日は…………は?」
さて、高校2年生女子がこの状況を見たらどう解釈するのが一般的でしょう?
同級生が泣きじゃくる幼女を脱がせて迫らせている図? それとも……それともなんだろう? それ以外何かあるのかな? 誰か教えてくれ!
「えーと、優斗、これは何がどうなっていらっしゃいますんですのんでしょうか?」
「いつもと口調が変だよ」
ギラリと殺意帯びた視線がぼくに突き刺さった。OK、分かった、冗談は無しで行くよ。
「朝起きてリビングに降りたら居たんだよ、泣いてて裸で」
「ふーん?」
双葉はじとりと少女を見て、ぼくに視線を戻した、ふざけてるのか? と言いたげな眉間の皺数、怒りのオーラをじわりじわりと滲み出させ、腕を組む姿はまさに鬼だ。
「ほんとだって! 信じて! そ、そうだ! この子の話を聞いてあげてよ! ぼくが話しても意味不明なことしか言わないんだって!」
「当たり前でしょ、自分を襲うようなやつに何か話したりするわけ無いから」
くそぅ、何もそこまで決め付けなくても……。
「あなた名前は?」
「うわあああああん」
「ねぇ、あなたはどうして裸なの?」
「うわあああああああああん」
「そこの男に何かされたりした?」
「うわあああああああああああああん」
「……」
双葉は泣き喚く少女をぼくからひょいっと遠ざけた。少女を目の前に座らせたまま、はぁっとため息を付くと、そのまま右手を振り上げ……え?
「ちょ、ちょっと、双葉さん?」
――パン。
大して広くも無いリビングとぼくの耳にじんじんとその音が響く、自分のほっぺを思わず手で押さえてしまうくらいの衝撃だった。
平手打ち、それもやんわりとかじゃない、流石に本気ではないとは思うけど、それを受けた少女の体はドミノみたいにぱたりと倒れた。
「そうやって泣いてばかりなやつ嫌いなの、何が気に食わないのか、何が悲しいのか、それともどこか痛いのか、はっきり言いなさい」
少女は痛む頬を無意識に触りながら、何が起こったか理解できていないかのように硬直している。でもそれはすぐ解けると、今度はじわりじわりと涙を溜めていき、頬を伝う直前で止まった。
「うぅぅ……なんか、起きたら体が、ひっく、重いし大きいし寒いし、カリカリ食べようと思ったら、まずいし……うぅぅ」
「うんうん、そっか、じゃあ、あなたのパパとママは?」
「パパ? ママ?」
「お父さんとお母さんのこと」
一瞬考える素振りを見せたが、ぴこんと頭上に見えないビックリマークが浮かんだようだった、溜まった涙をごしごしと双葉のスカートで拭うと、人差し指でぼくを―-
「ゆうと」
「え、ぼく?」
またもギロリと氷槍のような視線、ぼくが何したって言うのさ!
「じゃあ、今までどこに住んでたの?お友達とかは?」
「お友達……ミーちゃん、ミーちゃんどこ?」
何か思い出したように辺りをきょろきょろし始める、時よりクンクン鼻を鳴らして首を傾げている、そういえばこの子名前なんて言うんだろう。
「ねえ、お嬢さん、名前は?」
「ユキ」
「え?」
するりと双葉の脇を抜けると、ぼくの部屋へ消えていった。ユキはさっきミーちゃんとか言ってたし、ウチのネコ達と名前が一緒なんてそんな偶然あるんだなぁ、あれ? そういやあいつらはどこに行った?
ぼくもあの子のようにきょろきょろ首を振っていると、後ろにいた双葉が肩をつついてくる。