始まる!化けネコライフ!(1)
ピピピピ、ピピピピー。
「んがっ……」
嫌なことがあった時って、さっさと寝て次の日には気分もマシになってると考えて早寝するけど、意味が無いと思う、実際今のぼくがそうだ。
「はぁ」
昨日のことを思うと、双葉に蹴り飛ばされた箇所と心が痛んだ。
ピピピピ!ピピピピー!
くそぅ、人の気も知らずに。
全く空気の読めない目覚ましを止めるべく、もぞもぞと布団の中に手を伸ばすと、がしっと何かを掴んだ、ボールみたいな、丸いやつ。
「え?」
ネコかと思ったけど、どうやら違う、毛は生えてないし、なにより今まで触ったことのない感触、暖かい豆腐? いや焼きたてのパン?
その正体を確かめるべく布団を捲ろうとした時だった。
「うぅ~~ん」
「ひぃ!」
情けない声が漏れてしまう、だって、布団がうめき声上げながらお尻を生やしたんだぞ? そうだ、たしかタケシから聞いたことがある、こういういかがわしいグッズがあるらしいと、でもぼくはそんな魅惑なアイテムを持っていない。
それに見れば見るほど、リアリティ溢れるお尻だ、これが本物とすれば……親父と母は帰ってるはずがないし、ぼくには兄弟がいない、じゃあ、ドロボウ……がお尻出して布団に居るわけないし、幼なじみが夜這いしにきたというラブコメ的な展開は有り得ない。
「じゃ、じゃあ? 布団妖怪とか……?」
少しずつ冴えてきた頭で搾り出した答えがこれだ、あまりにも幼稚な想像に布団へ退避したくなるが、肝心な布団は尻に占拠されてる。
「にゃあああ、な、なにこれええええ!」
こ、今度はなんだ!? リビングからか!? どうも子供の声みたいだったけど、間違いなく双葉じゃない。
時折動くお尻はまず放置だ、これが夢だと確かめるのも下の悲鳴を確認してからでも遅くないだろう。
そろーりとリビングを覗いてみると、テーブルの上でしくしく泣いている女の子がいた、しかも、素っ裸で。
だが、やらしい気持ちはひとかけらも起きなかった、クラスNo.1のエッチマスター(自称)だったが、裸よりもまず、その美しさにただただ目を奪われた。
髪の毛は真夜中の空みたいに真っ黒で、腰まで伸びたそれは小さな体に羽織っているように見える、時より嗚咽を漏らしながら大粒の涙を伝わせる顔立ちは、精巧な人形ではないかと疑うくらいに整っている。
でも、ギリ中学生上がりたてくらいだよなぁ……。
体の小ささや、たまたま見えてしまった胸のサイズからしてそう断定する。これで双葉より年上はあり得ないだろう。
「えーっと、お嬢さん?」
第一声がこれだ。だって思いつかなかったし、初対面の女の子をどう呼べばいいかなんて知るはずがない、ましてや相手は裸だぞ、紳士に行くべきだ。
「ひっ」
小さな体がびくっと大きく揺れる、そしてゆっくり顔を上げてこっちと目が合った。
ははは、そうだろうよ、裸で泣いてる時に見知らぬ男がお嬢さんとか言って寄ってきたら怯えるわな。
「ゆうとおぉぉおぉぉお!」
「え? ええええええ!?」
少女は飛んだ、じりじりと体の向きをこっちに変えたと思ったら、陸に揚げられたエビみたいだった。
かっこよくキャッチ! ……できるはずもなく、ぼくは押し倒されるような体制になってしまう。
「なんで、なんでなのゆうとおおおお」
絶叫しながら覆い被さる少女の顔からは、大粒の涙がぼくの顔にぼとぼとと降り注いでいる。
「何が!? 頼むから落ち着いて!」
「体が、重いしでかいしカリカリもまずいのぉ」
「???」
何がなんだか分からない、迷子なのか? ぼくの家で? 警察に届けるんだったらどうすればいいんだろう、うちの家で全裸の女の子が迷子です? はい逮捕、明日の新聞1面は戴きだぜ。
「うっぐ、えっぐ、わああぁああぁあああぁぁあぁ」
「……」
とにかく、自然に泣き止むのを待つしかないだろうと考えていた時だった。
――ガチャガチャ。
「え?」
あれ? 確かに今、玄関ガチャガチャって?