好きなものは後に食べる派?ぼくは先に(1)
「ニャーォン」
自宅の玄関前に到着するや否や、甲高い一声が響いた。
あの鳴き方はユキちゃんかな?
ここでふと玄関前に置かれた真っ白い箱に気付いた、なんだろうこれ、大きさにして四方50センチほど、材質は発砲スチロール。爆弾かな? いやいや。
「なんだ、タケシからか」
よーく観察するうちに箱の上部に張り付けられた紙を発見した。なになに?
――親愛なる親友へ。
ベストフレンドに送る、みんなで食え。
PS.おすすめはミディアム
ピースルフルタケシより
ツッコミ所満載だった。
「みゃー」
む、今度はミーちゃんかな?
ここでふと疑問に思ったのだが、うちの妹達はなんで俺が玄関に居るって分かるんだろうか、ユキに至っては到着と同時に鳴いてたし。
ぼくは全脳細胞、ニューロンというニューロンを総動員させる、考えられるは……。
①この時間に帰ってくるということを大体把握している。
②こちらから見えないどこかから監視されている。
③我が妹達と同居が始まって早1年、築かれた愛情は留まるところを知らず、ついには離れていても意志が流れ込むという……!
①は普通だ、普通すぎる上に愛がまるで足りていない、失格。
②「お兄ちゃんまだかな~まだかな~。あ! 帰ってきたよ!」みたいな感じか? もしかしたら片方が監視してぼくが居ないところで何かをしているかもしれない……。怖い! ぼくが見てないところで何やってるんだうちの妹達は! お兄ちゃんに隠し事は良くないぞ☆
③そう、これが答えだ、100点! 優勝! 銀河系1! ぼくたちはここまで通じ合ってたんだね!
「みゃーお」
「ニャー」
違うぞとでも言いたげなタイミングだった。
我に帰されたところで、家に入る、玄関にはやはり2匹ちょこんと並んでいた。
「さて、問題はこれだけど」
割れモノだとか、生モノだとかいう表記や、配達伝票が無いところを見ると、タケシが直接届けにきたたのだろうか? でも、そんなことはどうでもいい。
ごくりと喉が鳴ってしまう、こういうのってドキドキするよね、幻のシークレットエロ本をオークションで買った時の開封とか、エロ雑誌の袋とじというか、中身が謎の密閉物はどこかファンタジーがある、気がする。
ペリペリと透明テープを剥がし、いでよ! 何か!
2匹がのぞき込むようにぼくを見守る中、軽すぎる蓋を大袈裟に持ち上げてやる。
「おおおっ」
肉だった。
いや、変な意味じゃなくて『牛肉』ぴっちりラップに包まれて、でかでかとA5って書いてある、何が基準でA5なのかぼくは知らないが、テレビで聞いたことくらいはある。
確か芸能人がきゃっきゃ「う~~んおいしい!」って言うくらいだし、きっと旨いんだろう!
だが、保冷剤が底に敷いてあるとはいえ、生肉を玄関先に放置とは……! けしからん! サンキュータケシ! 帰宅部だということ知っての狼藉だろう……! けしからん! ありがとうタケシ!
枚数にして、1枚と半分、うちの妹たちは半分を分けたらいいし、ぼくが1枚はちょっと重いかなぁ……ああ、そうだった!
もう一人の家族を忘れていた、こういうイイモノが手にはいると、平等に分けるようにしている、その相手は、部屋の隅に居た、というかある。
リビングの角、上方にある、古ぼけた木組みの小さな神棚、暗い飴色に染まった木は年期を感じさせる。親父が言うには、先祖代々受け継いでいるものらしい。
正直言うと、ぼくは神様なんて信じてない、昔母親に「ここが神様のおうちなの、神様がここから見守ってくれているから私たちは幸せなのよ」と言われてから、妙にこういったお供えをする癖が付いてしまった。
ともあれ、これで分け前は決まった、あと調理法だな。まだ晩飯には早いが、せっかくこんな代物があるんだから、さっさと食べたい。
スマホで手早く調理法を調べると、調理動画を流しながらこなしていく。料理の腕は調理実習程度ではあるが、別に苦手ではなかった。