今はニンゲンですから!(3)
それから、三十分ほどで夕食が完成して、海鮮焼きそばと八宝菜にたまごスープが食卓に並んだ。
焼きそばにはネギもイカも入っている、ネコが食べてはいけない有名食材だが、双葉いわく、ちょっとずつ試しで与えてたようでこの体になってからは平気になっているらしい。
「わあー! 双葉ちゃん食べていい?」
「ちゃんと、いただきますできたら、いいですよ」
「よっしゃー! ってユキもう食べてる!」
「いただきます言ったから」
黄色い声できゃーきゃー騒ぐ二人を微笑ましく見ていると、双葉がちょいちょいっと肩を小突いた。
「明日はどうするんですか?」
明日? ああ、学校のことか、もちろん行きたいし、というか行かないと進級が心配になってくる。けど、こいつら置いて家を出るのもな……。
「休むよ、二人置いて行けないし」
双葉はぼくの言葉にぴくりと反応して箸が止まった。
「甘やかしすぎでは? 一般的に見れば小学生高学年くらいです、お留守番くらいできますよ」
そうなのかな? そもそもネコだった頃は玄関まで見送りをしてくれたくらいだし、慣れたものなのかも?
「よし、なら明日は二人に留守番任せて行くか!」
っと、その翌日……。
「優斗ぉ~、お願いだから置いてかないでよぉ~~!」
「ゆうと、ユキも行く、行きたい」
ミーはスーパーでお菓子をねだる子供みたいにじたばたしていて、ユキはもの凄い力で裾を引っ張っていた。
ここはしっかり説明して、理解してもらおう。
「ぼくと双葉は遊びに行くんじゃなくて、勉強しにいくから、二人が居たら気が散る、それに色んな人からじろじろ見られるのは嫌だろ?」
「ユキも勉強したい、見られてもいい」
「私も別に見られてもいいしなー、勉強って何するんだろ?」
二人はもはや学校にいくつもりできゃいきゃい話している。
おかしいなぁ、ネコ時代は人見知りだったんだが……。
「「というわけで、連れてって!」」
上目遣いで懇願する姿は目が眩むほどにかわいい、こんなかわいすぎるお願いされたら、されたら…………。
「だあああ! もう! ネコはおとなしく留守番しててくれよ!」
「「もうネコじゃないもん!」」
その言葉を待っていたかのように返されてしまう。
くそ! 素直に「はい」とは言えないのか……!
「とにかく! 絶対連れて行かないからな! 留守番頼んだぞ!」
「優斗のバカー! アホー!」
「おたんこなすー」
どうしてそこまで言われないといけないんだよ……。
世の中のパパさんはこんな気持ちで毎日を過ごしているのだろうか、子育てとは大変なものなのだな……。
「何一人で黄昏てるんですか、もう行きますよ」
双葉はいつもの調子でスタスタ玄関に向かうと、家を出てしまった。
その時ぼそりと呟いた「いってきます」に、ミーとユキが「いってらっしゃい」と無駄口一つ無かったことに何かしらの格差を感じてしまう。
作る飯がまずいとこうも態度が変わるのだろうか?
「じゃ、じゃあ、いってきます」
「バーカ!」
「あーほ!」
ぐぬぬぬぬ……脳内で変換だ、ミーはさっき、「いってらっしゃい! おにいちゃん!」ユキが「はやくかえってきてね? おにいちゃん!」、OKOK、ふふふ、かわいい妹達だなぁ。
玄関の扉が閉まる直前までなにやら罵倒らしき言葉が聞こえてくる、あーあー聞こえないー。