今はニンゲンですから!(1)
「うああぁ、まずいぃ無理ぃ~」
「…………ふへぇ」
うーむ? これもダメなのか? おかしいなぁ、ちゃんとネコ用で塩分控えめ油分カットの、最強ネコまんまなのに。一本5000円の高級鰹節入りだぞ?
「ゆうと、双葉ちゃんまだ?」
ユキはテーブルに左頬を押し当てたまま、ぼそりと呟いた。
一方ミーはというと、「まずいのやだ、まずいのやだ」っという謎の呪文を唱えている。
「双葉はもうちょっとで来ると思うけど」
ぼくの言葉に二人はお腹の音で返事をした。
ところで、何故こんなに空腹に悩まされているかといえば、午前中のショッピング後からは、まともに食事をしていないからだ。
でも、与えてないわけじゃない、昼間からずっと作っては与えている。
くそぅ、不味いとか味無いとか……わがまま放題言いやがって、そんな子に育てた覚えは無いんだけどなぁ……。
「よーし、ミー! ユキ! 待ってろよ! 今すぐ美味しいやつ作ってやる!」
「え、ええー 優斗その言葉何回目だよぉ~、諦めろよぉ~」
「ほ、ほら、ゆうと、休んで」
お言葉に甘えて、なんて言えない、我がカワイイ妹達が腹を空かして待ってるんだ! 高級鰹節でダシを取って、とりささみで雑炊でも作ろう! となれば鰹節で味が出るし、ガッツリ減塩しても問題無いな、健康考えて塩無しとか究極にグッド!
「ただいまー」
お、双葉が帰ってきたか……だが、ミーとユキの胃袋を鷲掴むのはぼくだ! ははははは!
「あれ? 優斗、料理してたんですか? ほほう、その量の鰹節ということは昆布等で合わせるのですか?」
「ちっちっち、甘いぜ双葉さんよ、なんと、高級鰹節と鳥ささみだけで作る雑炊さ! 健康に健康を考え、調味料はゼロ! 安心と信頼の天然味!」
ふっ、双葉もあまりの豪快さに目を丸くしているな、健康と美味しさの両方を取りつつ、しかもそれを最大限生かす、我ながら恐ろしいぞ!
「……あのですね、優斗は味見というものをしましたか?」
「したよ? 当たり前じゃん、まーでも、ネコ用に減塩したり成分気を付けたり制約があって、あまり味気はしないけど」
「そこです」
しゅぴっと鼻先に人差し指を突きつけられた。
「ネコ用に、と言いましたが、この二人はネコですか?」
「いや、今はそうじゃないけど、でも」
「でももへったくれもありません、体の大きさを考えてください、あれだけの体を動かすにはソレ相応の栄養とエネルギーが必要です。そもそもネコにもある程度の塩は必要なんですよ? それを減塩減塩と、そんなことも知らなかったんですか?」
むぅ、確かにごもっともだけど、双葉は怖く無いのかな? 塩分取りすぎで腎臓に影響出たり……。
すると双葉は、ふぅっと小さく溜め息をついた。
「まだ何か余計なことを考えてるようですが……優斗、ちゃんと二人に謝るべきです」
双葉にじっと見つめられる、全てを見透かしてるぞ、とでも言うような威圧感。
「……そうだよな、ミー! ユキ! ちょっと来てくれ!」
「ほーい」
「ゆうと、今行く」
二人を呼び出すと、双葉の存在を見て目を煌めかせたが、ぼくが真剣な話をすると汲んだのか、ぎこちなく気を付けをした。