ぼくは不審者じゃありません、この2人? ペットです。(4)
既に店内へ拉致られた二人を見ると、あれもかわいいこれもかわいいと、試着室に服をぶち込まれているようだった。
金名札さん、適当言って面倒から逃げたんじゃないだろうな……。
「あ~ん、もうこれもマジヤバ! ああ、ばっちり! マジステキ!」
「あのー店員さん?」
「あ、お兄さんですが? 佐藤でいいですよ? それより二人はマジ素敵すぎますね、どれでも似合うので、悩みまくりでマジ困りますねぇ、うへへ」
両手に色鮮やかな服を抱える佐藤さんは、じゅるりと出た涎を袖で拭った。
「今日は3着ずつ、外出用の服で15000円の予算なので、それを基準で見積もってもらいますか?」
「そうですか! まかせてください!」
ほんとに大丈夫なのか……、手に持ってるバニーとかメイド服とか何に使うんだよ。
「優斗ーこれどうやって着るんだー?」
試着室のカーテンからミーが叫んだ、そっか、今まで服着たこと無いから着方も分からないよなぁ。
とはいえ、ほいほいと試着室に入るのもこのご時世キケンな誤解を招きそうだ、意識しすぎか? あいつら元ネコだし……いや何事も安心安全をモットーに生きるべきだ!
「佐藤さん、ちょっといいですか?」
「はい? なんでしょう?」
「あいつらの試着手伝ってあげたりとか、お願いできます? 着るの下手なんですよ」
今まで服を着たこと無いとは、言えるはずがないので、それとなく伝えると、佐藤さんは目をきらきらさせながら神に祈るかのように手を組んだ。
「マ、マジでいいのですか!? そうですよね、年頃の高校生だから恥ずかしいですよね、任せてください! 全力でサポートします!」
うーん? 佐藤さんに任せるのは失敗だったか? 目が血走ってるし涎垂れてるし、普通に不審者のレベルを超えてそうなものだが……。まあ、金名札さんを信用するか。
「ミー、ちょっと待っててくれ、今さっきの店員さんが手伝いにいくから」
試着室のミーに聞こえるくらいのボリュームで叫ぶと、一先ず胸を撫で下ろした、あの佐藤さんのことだし、ユキの着替えも手伝ってくれるだろう、となればもうこんなピンクだったり黄色だったり、かわいい服がわんさかあるファンタジー空間に居なくていい、どこか暇を潰せる場所は――。
「優斗ー遅いから来ちゃった」
「だから待ってろって! すぐに……え?」
今度は試着室からでは無く、何故か、何故か、背後から声がした、ギギギギとオイル切れのロボットみたいに、ゆっくり首だけを回すと、ミーが試着するはずの服を両手に立っている、あーあ……新品の服引き摺ってるし、でも一番の問題はそれじゃない、なんで、裸なんだ。
「ば、ばか! なんで服着てないんだよ!」
「だから手伝ってって言ったじゃん」
「ゆうと、わたしも」
待ってましたとでもいうように登場するユキ、こちらも一糸一つ纏っていない、ザ・全裸、全裸オブ全裸。
「おいこら! だからなんで裸なんだよ!」
するとユキは何言ってんの? とでも言うように無表情のまま首を傾げた。
このままじゃまずい! さっき試着室へ向かった佐藤さんが戻ったら……。
「あの、お兄さん、試着室に誰も……え?」
わお、来ちゃったか、今度こそ通報なのかな? 我が人生に一片の悔い、あるぞ、アホか!
「こ、これはですね!」
「こーら、ダメじゃないですか二人とも! そんな格好はマジヤバですよ、お兄さんも怒らないであげてください、きっと試着室に残されて不安だったんですよ」
「そ、そうですね、ははは、は……」
これで分かったことが一つある、それは、こいつらといると寿命がジリジリすり減っていくということだった。