ぼくは不審者じゃありません、この2人? ペットです。(3)
「よーし、二人とも、帰るぞー」
「えー、帰るのー? 双葉ちゃんにしかられちゃうよ?」
「それも嫌だけど! 捕まるのはもっと嫌なんだよ!」
「おお、なんか楽しそうだし逃げよう!」
ぼくとミーが踵を返して、一歩前進、したはずだった。
くいっと控えめな力で引っ張られる。
「あれ? ユキ?」
「ほしい、あの服」
指さすはお姫様コーデ、じゃなくて小悪魔コーデとかいうチビギャルっぽいやつ、あれだ、ギャップ萌えって言うんだっけ? ふむふむ、悪くないな、でもなーユキにはこっちのひらひらふらふらのお姫様コーデとかいうのを着て欲しいなぁ…………ってそれどころじゃない!
「逃げるぞ二人とも!」
「お、お待ちくださいお客様!」
な、なんだ!? 見るからに偉そうな人出てきた! 金名札にチーフって書いてあるし、待てと言われて待てるか!
「先程は佐藤が失礼な態度をとってしまい、申し訳ございませんでした!」
「お客様ほんとごめんなさい!」
すたこら逃げ出す寸前、耳をつんざくようなボリュームで謝罪が聞こえる、キーンと頭痛がしそうだ。
って、なんだって、申し訳ございません? ごめんなさい? あれ?
振り向くと、深々と頭を下げる2人の女性が居た、思わずきょとんとしていまう、警備員も居なければ警察もいない、どういうことだろうと考えていると、金名札の人が頭を下げる若そうな茶髪さんを肘で小突いた。
「アレなんですよ、マジでお客様がやばいなーって」
「佐藤! お客様ですよ! しっかりした言葉使いで!」
「でもチーフ! 見てくださいよ、この二人の格好!」
ビシッと音が鳴りそうなくらいの勢いで指をさされた。
「ぼさぼさの髪、あきらかにサイズオーバーな男用のジャージ、靴下も履いてませんね……それが?」
「それです、それなのに……」
「それなのに?」
佐藤さんはわなわなと拳を震わせる、もうやだこの人こわい。
「かわいすぎるでしょー!!!!」
佐藤さんはカマキリのように両手を天にかざす、直後! ガシィと音が鳴りそうな勢いで二人を捕獲した、そしてそのまま摩擦で火が出そうなくらい頬ずりしている。
「お? おお?」
「あわわ」
容赦ない頬ずりに困惑する二人だが、ひとまず逮捕とかそういう方向ではないようだ、よかった。
「ちょ、ちょっと佐藤! ……はぁ、お客様大変申し訳ございません、佐藤はこうなると手が付けられなくて……こ、こうなったら!」
急にフンスとやる気になる金名札さん。するとこちらに向き直して……。
「お客様、アレは私の部下で佐藤と言うんですが、見ての通り可愛いお客様に目が無くて……」
「は、はぁ」
「ですが! 腕は確かなんです! なので……」
「な、なので?」
「お洋服をお探しであれば、お任せさせて頂けませんか? ご迷惑をおかけしたので、少しお安くしますよ?」
なんと! そっちが勝手に自爆しただけなのにお安くするなんて!
「そ、そうですか! それは是非!」
すると何故か握手を求められたので、金名札さんとがっちり握手を交わす、その後「ではごゆっくりー」と言葉を残して、そそくさと消えて行ってしまった。