始まる!化けネコライフ!(5)
「ユキちゃんはどうですか?」
「ユキ? ユキは……」
数秒の沈黙の後、口ごもって俯いてしまった、それに気付いたミーは大丈夫だよとでも言うように、ユキに目配せをする。
「怒らない?」
「大丈夫ですよ、怒りません」
「ユキ、あんまり覚えてない」
「本当に?」
「ほんとだって双葉ちゃん! この子私よりも小さかったしそれに! 痛っ!」
慌ててフォローしに入るミーを双葉はデコピンした。
「ミーちゃんの話じゃないですよね、入ってこないでください」
「あぅ……」
「では、どうぞ、覚えているところだけでいいです」
「……ユキね、せまーい袋に入れられて真っ暗で怖くてずっと鳴いてたら、そしたらゆうとが助けてくれた」
ユキの話は……正直短すぎるし、何がなんだかって感じだ、双葉も同じ思いなのか、一瞬眉をぴくりと動かしたが、わざとらしく「コホン」と咳払いをすると、ミーの時より30%増しの優しいボイスで――
「ありがとうございます、ユキちゃん、お2人とも嫌な事を思い出させてごめんなさい」
少女2人はもう何も怖くないぞとでも言うように雑談を始めた、カリカリがまずいとか、ジャンプしにくいとか、そんな様子を観察していると、隣に座っていた双葉がバタンと音を立てて机に頭突きしていた。
「……ううーん」
双葉は唸りながら何かを考えている、嘘をついてるようでも無いので、あの話を聞いただけじゃ何がなんだかって感じだろう、でもぼくは、2人の話を知っていた。
ミーの話は、うちで飼っているミーの話そっくりだった、一部ぼくの知らないようなことを言っていたけど、目も見えないくらいふらふらに弱っていた子猫を拾ってミーと名前を付けたりした、その出来事は両親も双葉も知っていることだった。
ユキの話も同じようなものだった、ビニール袋に入れられて公園のごみ箱に埋もれていた子猫を救出したのはぼくだし、もちろんみんな知っている話だ。
ここまでくれば、察しの悪いぼくでも大体分かってきている、ただ、非現実的すぎる、下手なファンタジー漫画でも突然にこんなことを起こさないだろう。
消えたうちの飼い猫ミーとユキ、そして入れ替わるように現れた、ミーとユキを名乗る二人。
ぼく達しか知らないようなミーとユキのエピソードや、戸惑うことなく『にゃんふぇち』やカリカリを口にしたりする様子(まずくなったと言って吐き出すが)はなかなか信憑性がある、だが何よりも、二人があの話をする時の様子は嘘を付いてるようには見えなかった。青ざめて、震えて……。
すると、顔をゆっくり上げた双葉と目が合った。
「優斗、考えてることは大体一緒だと思います、でも、どうやって?」
オー、ワカリマセーンと外国人のような仕草で返してやる。
「次ふざけたら鎖骨をへし折ります……それで、この二人はどうしますか?」
oh.コワイワーコワイ、チャントシマス、チャント。
「今まで通り一緒に住むけど」
バンっとテーブルを叩きながら立ち上がる双葉、顔真っ赤にして、怒ってるのかな……?
「ダメです、だって二人は元ネコだったとしても、女性二人ですよ! そんなの許されません!」
「ええー、この二人双葉より小さい子供だよ? いくらぼくでも変な気は起こさないよ」
「それでもです!」
「じゃあ、双葉の家に置いてくれたり?」
「う、うちはダメです……猫アレルギーの弟がいるので……」
見た目完全に人間なんだけど、アレルギーどうなるんだそれ。
「……じゃあどうするんだよ、姿は変わってもうちの妹達だぞ」
「ゆうと、お腹空いた」
その言葉にぐぅっとお腹の音で返事する、すると双葉ははぁっと溜め息を付いて、こめかみを指で押さえながら口を開いた。
「分かりました、うちでお世話はできません、ですが、優斗にお二人をお任せするのも心配ですので」
「ですので?」
「私も一緒に住みます、お隣通しですし、問題は無いです」
「はぁ!?」
「双葉ちゃんも!」
「やったー!」
チャンチャランチャン♪
計ったかのように着信音が響いた、相手は……母。
さて、なんて答えたらいいだろうか、家族が増えました、違う気がする、あの親だし誤解されそうだ、ここは直球にいくか……。
――うちのネコは化けネコかもしれない!?