我が自慢の妹達は(1)
さて、問題です、柔らかくて、身も心も満たされる、というか世界の全てを包み込んで余りあるようなものってなーんだ?
兎山瀬 優斗、2ヶ月前から高校2年生になりました。そんなぼくは今、哲学的なことを考え悩んでいる。
まずは綿、綿は柔らかい、けど触り心地という意味ではどこかもの足りない、マシュマロはどうだろう……適度に柔らかい質感も申し分ない、けどあんなちっちゃなものだと満足しないなぁ。
じゃあ……答えって? うへへへへ、柔らかく、確かな質感で、適度な重さ、見て楽しい触って楽しいそんな、魔法みたいな物、そう! おっぱ――――。
ピピピピ、ピピピピーー!
けたたましく目覚ましが鳴り響いた。分かっていたさ、夢だって……いいとこだったのに。
早く起きろと言わんばかりに、止まることを知らない目覚まし時計を止めようと手を伸ばすと、代わりにもしゃもしゃしたものを鷲掴んだ。
「みゃぁー」
茶トラ柄の尻尾をぴーんと立てたまま一鳴きすると、喉をごろごろさせながら薄目で見つめてくる。
何か言いたげだな、おはようかな? それとも、「ご主人様、朝でございます」かな?
「ニャァー」
続いて2匹目も入ってきた、黒と白のストライプのような柄で、俗に言う、サバトラってものらしい。
こいつらを拾って半年とちょっと、こんだけ一緒に居ればウチのメス猫2匹は妹みたいなもんさ、妹達のことは全てお見通し、この鳴き方はそうだなぁ「お兄ちゃん朝だよー」かな?
「みゃー」
「ニャー」
「飯だろ、分かったよ」
くそぅ、こいつら飯の時ばっかり媚びやがって……。
早く早くと急かすように尻尾をふりふりする2匹を後目に、リビングに向かった。慣れた動きで『にゃんふぇち』の缶詰を開けて皿に入れてやると、すぐに寄ってきて食べ始める。一瞥もせずに、ムシャムシャ、これが花より団子ってやつか、いや違う? ツンデレ? 何でもいいや。
2匹が仲良くムシャムシャしている様を意味もなく眺めていると、玄関の扉がガチャガチャ音を立てて開いた。
「もうそんな時間かぁ」
時刻は朝7時、こんな時間にインターホンも鳴らさず、鍵を使って訪ねてくる人間は俺の知る限り一人しかいない。
「優斗、おはようございます。ミーちゃんとユキちゃんもおはようございます」
「双葉、おはよ」
皿一つに入れられたにゃんふぇちを貪る2匹を、堂々と撫でている。
飯食ってる時にぼくが触ると怒るのになんで、双葉はいいんだろう? 不公平だよなぁ、やっぱり女子だと許されるのか?
うちの妹達を撫で回している小柄生物こと、双葉、鹿丘双葉だ。前髪をサクランボのチャームが付いたヘアピンで止めて、それ以外は何もいじっていないミディアムヘア、大きく開かれた瞳を見ると小さな宇宙を感じるくらいに黒が濃く深い、小顔で目が大きくて髪もサラサラ、外見だけで無く、勉強もスポーツも優秀! ここまでパーフェクト!
だが、神様というのは残酷なもので、我々人間にステータスの上限を設けたようだった、限りあるステータス内での分配だったが為に、しわ寄せが、要は欠点がある。
双葉の欠点、ズバリ! 低身長、平坦ぺっちゃんこ絶壁おっぱい、間違えた、ちっぱい。こちらにステータスは一切振られることが無かったようで、中学1年生の頃の記録を塗り替えることはできなかったようだ。(実数値は知らないけど)
「……何か失礼なこと考えてませんか?」
「いやいや、そんなことないよ、あ、それより、どっちがミーでどっちがユキか覚えた?」
「バカにしてるんですか? 茶トラがミーちゃんでサバトラがユキちゃん」
「正解、さすがじゃん」
なんとか、かんづかれる前に回避に成功した。ふー危ない、双葉は空手も嗜んでるから、怒らせたら肋骨を一本残らず瓦割りされちゃうかもしれない。
「では、朝ご飯作っちゃうので、この子達をよろしくお願いします」
にゃんふぇちを食べ終えた妹達は、遊んで欲しそうに喉をごろごろ鳴らし始めたが、双葉はそれを一撫でずつして抱き抱えると、ぼくに渡してきた。
「あと、暴れさせないでください、毛とか舞うので」
「おーけー」
今日の朝ご飯は何かなと考えながら、テレビの前に座り込んだ。それと同時に立て掛け式カレンダーが目に入る。ピンクのマーカーで『Wでーと、いってきまーす(はぁと)』の文字……。
「みゃぁ?」
茶トラのミーは「何が?」というように、首を傾げる。察しの良さげなサバトラのユキは分かってると思うけど、教えてあげよう。
「あっちのちっこいねーちゃんの両親とぼくの両親はWデートとか言って海外旅行に行っちゃったんだよー」
その時! ひゅんっカン! という小気味良い効果音と共におたまが! あたまに!
「痛い! 頭がへこんじゃう!」
「そんなこと言うなら、明日からご飯作りに来ませんから」
別に頼んで無いのに、とか言わない、今度はタマネギかカボチャが飛んできて、どこかの食べれるヒーローみたいに顔が入れ替わるのはごめんだ。