新スキルは、想像以上である。
ヴィクトリアのとんでもないステータスを目の当たりにした俺は、その後しばらく話をしてから、ティナとフィオナと共に妖精城を出た。
「しかしこの目は凄いな、使い慣れるまでに時間はかかりそうだが、物の詳細や、魔力の流れまで見える。」
「そりゃそうだよ、太古から妖精族に伝わる秘宝だもん。翡翠眼を与えられた人間なんて君が初めてじゃないかな?」
「当然なのです!姫様は凄いお方なのです!」
「姫様?どうしてそこでヴィクトリアが出てくるんだ?」
「え、あぁ言ってなかったっけ。それは姫様が作ったものなんだ。正確には、姫様が呼び出した精霊がね」
「あの、精霊魔法ってやつか。」
「そうそう、翡翠眼には、ある精霊の力が宿っているんだよ。まぁそんな事が出来るのはこの世界で姫様だけだろうけどね。」
「なるほどな。ところで、妖精と精霊って似てるけど、同じじゃないのか?」
「人間は同じにしてしまいがちだけど、基本的に妖精は僕たちみたいな見た目をしていて、人間界でこっそりと暮らしているんだ。」
「ふむふむ」
「それで、精霊は僕たちとは別の世界で暮らしていて、色んな姿をしている。姿を変えられるって表現が正しいかもね。有名なのだと、サラマンダーとかかな。」
「別の世界?」
「僕らがどう頑張っても辿り着けない場所さ…ちょうど、君がいた世界みたいにね。」
「っ!?なんでそれを」
「ふふっ、まぁいいじゃないか。誰にも言わないさ」
「はぁ…そうしてくれ。」
本当になんなんだコイツは。あ、そうだ
俺は、翡翠眼でティナを見ようとした。しかし、靄がかかっているようになっていて上手く見えなかった。
〈…どうなってんだ?〉
「全く、勝手に人のステータスを覗くなんて感心しないなぁ」
「妖精と精霊さんの間には深い繋がりがあるです!翡翠眼は、もともと精霊さんの力ですから、妖精族はそれを感知することができるです!もちろん、見られないようにも出来るです!だから許可なしにステータスを覗く事は出来ないのです!」
「…説明どうも」「どういたしましてなのです!」
「はははっ僕のスキルはね、その人の本質を見る事ができるんだよ。性格とか、感情とか、魂とかも何と無くならね。」
「だからティナはアルが悪い人じゃないって分かったのです!」
「そういうこと。でも君は、明らかに魂の色が異質だったからね。少しカマをかけて見たんだ」
「なるほどな、そいつは一杯食わされたよ。」
次からは気をつけよう。別にそこまで隠してるわけではないがな
「ふふふ。それにしても、そんな人初めてだよ、興味深いね。君の元いた世界はどんな所だったんだい?」
「つまらない所だったよ…俺はこっちに来て良かったと思ってる」
そう言いながら、俺は少し曇った表情になってしまう。
「そうなのかい…あまり深くは聞かない方が良さそうだね」
「そうだな、そうして貰えると助かる」
その後は他愛もない話をしながら、家から持って来ていたお菓子を3人で食べた。
「ほぅ、これは素晴らしいね」
「おいしーです!」
うんうん、なかなか好評なようだ。
妖精たちのレストランにも行ってみた。何もかもが小さく、果物や木の実が中心だったが、味はなかなかのものだった。
レストランを出るとき、いくつかの木の実や花の種が入った麻袋をお土産にもらった。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ」
そう言うと、フィオナとティナが送って行ってくれるというので、お言葉に甘えることにした。
そして3人で茂みを抜けて、森の出口まで来た。時間は、昼過ぎくらいだろう。
「気をつけて帰るんだよ、攫われたりしないようにね」
「お前にだけは言われたくないな」
「また遊びに来るです!」
「ああ、もちろんだ」
「じゃあお別れだね」
「おう、またな」
「バイバイなのです!」
そう言って俺は森を出た。
少し歩いて振り返ると、既にそこには彼らの姿は無かった。
ーーー・ーーー・ーーー・ーーー・ーーー
「まずはコレだな」
左目に触れながらそう呟く。やはり新スキルだ、何が出来るのか気になる。
とりあえず、その辺のものを片っ端から翡翠眼で見てみることにした。
「うー…ん、なかなか良いものがないな」
当然だが、使えそうなものはなかなか見つからない。
「おっ、これは…」
>薬草
ポーションの材料になる草。ポーションを作るためには、毒素を取り除く必要がある。<
これは使えそうだ。下級とはいえポーションを持っておいて損はないだろう。
その後もしばらく散策を続け、いくつか使えそうな素材を集める事ができた。
>麻痺草
麻痺効果のある成分を持つ草。抽出されるエキスには催涙効果もある。<
>毒草
毒を持つ草。口にしてしまうと最悪の場合死に至る。取扱注意。<
>陽炎草
熱を加えると発火する草。乾燥させる事で火薬の材料になる。<
あと、いくらかの木材だ。
途中でいくつか物騒なものもあったが、悪用するつもりはないので安心してほしい。ないったらない。
そして、俺はクラフトルームを起動した。
とりあえず、以前に作った石製の瓶を量産することにした。一度使ったことのあるものは、自動で作る事ができるようになっているみたいだ。
岩が大きかったので300個ほどの瓶を作る事ができた。これでしばらく入れ物に困ることはないだろう。
できた瓶を鑑定してみる。
>瓶
石製の瓶。岩から削り出して作られているので、とても丈夫。とても美しく磨かれている。<
ほう。翡翠眼さんに褒められてしまった。
次はポーション作りを始める。
クラフトルームに薬草を取り出し、薬効成分を抽出する。当たり前だが、霊薬を作った時より楽だ。
「よし、できた」
>薬液
浄水で薄める事で下級ポーションが出来る。水:薬液は10:1が最適。<
さっきから思っていたが、親切すぎないかこの翡翠眼。正直めちゃめちゃ助かる。
ストレージに入っていた水で薬液を薄め、下級ポーションを作る。材料は沢山あったので、瓶30本分のポーションができた。
これで怪我してもある程度は安心だな。
次に毒薬、麻痺薬と催涙エキス、火薬をそれぞれ製作した。よし、今日はこれくらいでいいだろう。
まだ時間あるな。魔法も色々試してみるか。
とりあえずまだ試してないのは…風と土と雷か。
ヴィクトリアが覚えていた魔法にこの3つはあったからな。精霊魔法はまぁ、たぶん無理だ。何をどうすればいいのかがわからん。
よし、まずは風。
魔力を集中させて、空気に魔力の流れを乗せてみる。翡翠眼で見えるからイメージしやすいな。
よし、いい感じ。
ちょっと風が強めの日ぐらいの感じだ。学校は休みにならない。
「うーん、微妙だ。まぁ初めてだしこんなものだろう。」
次は土だ、とりあえずは魔力だ土を生み出してみる。手の上からサラサラと少量の土、というか砂が零れ落ちる。
その砂を凝縮して固めようと意識してみる。よし、小さめの石弾が出来た。
「これが出来るなら、さっきの風魔法も凝縮できるんじゃ…?」
風に乗せた魔力を一点に集中させて、方向を指定して解放する。
翡翠眼のお陰でイメージがしやすい。本当に便利な目だ。
《バン》
ばん?なんか今やばい音出たぞ。これは相当な風力じゃないか?
さっきの石弾を今の空気砲(仮)に乗せてみる。
《 ピュン 》…… 《ガ ガン》
石弾が飛んで行った先を見ると、細めの木が折れていて、その奥の木の幹に石弾がめり込んでいた。
よし、この技をストーンバレットと名付けよう。とか言うてる場合か。
「うむ、これは使いどころを考えないと大惨事になるな」
俺は静かに石弾、改めストーンバレットを封印した。
次は雷魔法か
まずはどうやって電気を起こすかだな…
そういえば、人間が脳から体に命令を出すときに、微弱な電流を伝達に使っていると聞いた事がある。
魔力を指先に集めて、指先を動かすと同時に、伝達に使われた電気を増幅させる。
《パァン…》
指先が焼けるように痛い。やばい、これはやばい。
指がなくなったかと思った、痛すぎる
さっき作ったポーションを指にぶっかける。
「ふぅ、まだ少しジンジンするけど。とりあえずは大丈夫かな」
雷魔法や火魔法はもう少し考えて使った方がいいな。危険だ。
こうなってくると魔道書が欲しくなるな。
行商人が来たら探してみるか。
はぁ、ヴィクトリアに魔法のことをもっと聞いておけばよかった。
いつもの水球を頭の上で回す。
「あー、やっぱこれだ。落ち着くなぁ…」
もう水魔法なしでは生きられない体になってしまった。的な。
そうして、結局いつもの水魔法に落ち着いた俺は、そのまま魔力切れ寸前まで魔法の訓練をしてから家路に着いた。
3話連続投稿の3話目です。
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