プリンセスは、心労が絶えないのである。
3話連続投稿2話目です。
朝起きて準備をした俺は、甘いお菓子を詰めた布袋を持って、妖精たちのところに向かっていた。
「やぁ、来たようだね」
先にそこにいたのはティナと、もう1人は知らない顔だった。空色の体に黄色い羽を生やしている。
「あぁ、おはよう。フィオナはどうしたんだ?」
「霊薬を飲んだって言ってもあれだけの怪我をしたんだ、大事をとって休まされてるよ。彼女自身はすごく来たがっていたけどね。アルのことがよっぽど気に入ってるみたいだ」
「そうか」
あいつはツンデレさんなんだな
「はじめまして、アルフレッド様。この度は我々の同胞を助けていただいて有難うございました。私はアシュリー、以後お見知り置きを。」
「あ、あぁ、よろしく」
ずいぶん堅い人だな。
「気にしないで、アシュリーは誰にでもこんな感じなんだ」
まぁお前らはフレンドリー過ぎるけどな。俺もだけど。
「じゃあ付いて来て!森は危険だけど、僕らは認識阻害の魔法が使えるからね。猛獣や魔物に襲われる心配はないよ」
母さんは森に入るなと言っていたが、それなら大丈夫だろう。
にしても、そんな魔法が使えるのに人間に捕まるなんて不用心にも程がある。やっぱり妖精は頭のネジが足りないのか?
「フィオナ様やティナ様は、妖精族の中でも特に、楽観的すぎるところがあります。もう少し立場というもの弁えて欲しいものです。」
「なるほど」
アシュリーさんのお説教が始まった。あの2人が特殊なだけなのか。少し安心した。
妖精族がみんなあんなのだったら、とっくに絶滅しているだろうしな。
「アル?何か失礼なこと考えてない?」
「いや、気のせいだ」
おっと、顔に出てたか。気をつけないとな
その後も色々と話していると、突然、森の雰囲気が変わった。
「あれ?急に空気が変わった…?」
「あぁ、もう結界の中に入っているからね。妖精の国は、人が入れないように結界が張られているんだ。入れないと言っても、人間が自分からそれを避けるようになっているから、怪しまれることもないよ」
「すごいな、妖精」
「むっふっふ。でしょー?」
ティナは空中で胸を張る。
「後どれくらいでお前たちの国に着くんだ?」
「もうすぐだよ。みんな余り人間に慣れていないから、僕らの側から離れないようにね」
「わかった」
しばらく歩くと、彼らは茂みの中のトンネルのようなところに入っていった。
俺は少し体を屈ませてついていく。
そのトンネルを抜けると目の前には、美しく、幻想的な世界があった。
立ち並ぶ建物は全て、森に生える樹木を活かして作られている。
木には真っ赤な実がついていて、それを収穫している妖精の姿がちらほらと見える。
すぐ近くでは、3人の妖精が楽しそうに戯れていた。彼らの飛んだ後にはキラキラとした鱗粉の様なものが漂っている。
「綺麗だ…」
と、無意識にこぼしてしまう。
ぼーっとその景色を見ていると、妖精たちが俺の姿に気づいたようだ。
彼らは俺を見て少し驚いた顔をして、俺の側のティナとアシュリーに目を向ける。
すると安心したようで、彼らの緊張が解けていくのが分かる。
「ひょっとして、ティナって結構偉い?」
「さぁ?どうだろうねぇ?」
ニヤニヤしながら彼はお茶を濁した。
その後も好奇の視線を向けられながら歩き続け、随分遠くから見えていた大木の根元に辿り着いた。その木に付いている実は暖かい光を放っている。
「ここが妖精城だよ」
「随分と大きいな、この扉とか人間サイズじゃないか?いやもっと大きいかも」
「昔は他の種族もよく招いていたからね。ここ最近そういう事はすっかり無くなったけど」
「昔ってどれくらい前だ?」
「うーんと、1000年前くらいかな」
お前何歳だよ。
俺たちが扉の前に立つと、ゆっくりと重たそうな音を立てながら扉が開いた。大樹の中は全てがガラスで出来ている様に美しく透き通っていた。
ここに来てから感動しっぱなしだ。
「城の中はクリスタルで出来ているんだよ。綺麗でしょ?」
「あぁ、すごいな」
クリスタル、だと…いったい幾らになるんだ…
などとやましい事を考えていると、上の階から見慣れた顔が近づいて来た。
「アル!やっと来たのです!」
「おう、フィオナ。ここ凄いな」
「当たり前なのです!もっと褒めるです」
なんでお前が得意げなんだ。
そして俺は最上階の王室に招かれた。
玉座には煌びやかな服を身に纏った、他の者たちよりひと回り大きな妖精が座っていた。
「あの方が妖精の国の姫、ヴィクトリア様だよ。」
ティナが俺の耳元で言う。
妖精たちは皆、片膝をついて頭を垂れている。俺もとりあえず真似をしておくことにした。
すると、妖精姫が口を開いた。
「あなたがアルフレッドね。話は聞いています、フィオナとティナがお世話になったようね。妖精族を代表してお礼を言います、ありがとう」
川のせせらぎのような穏やかで透き通るような声だ。油断すると聞き入ってしまいそうだ。
「いえ、自分はたまたま通りがかっただけですので。」
「あら謙虚なのね。」
本当に通りがかっただけだしな
「全く、あの2人は本当に困ったものだわ。何度、心配かけさせられた事か……」
あぁ、心中痛み入ります。
「何はともあれ、私たちの同胞を救っていただいたのですから、何か褒賞を与えなくてはいけませんね。どうしましょう…アルフレッド様、なにかご希望はありますか?」
急にそんな事を言われてもな。うーん、そうだなぁ。
俺は、少し考えてから口を開く。
「…自分は将来、世界を見て回るつもりです。その時に何か役立つようなものがあれば」
と、言ってみたが少しアバウトだったか。でもあまり具体的すぎるのも図々しい気がする。細かいところはあちらに任せるのがいいだろう。日本人的な考えだ。
「なるほど…アシュリー。ちょっと、………………」
姫様が何かアシュリーさんに耳打ちをしている。
「…かしこまりました」
そしてアシュリーさんは玉座の後ろの扉に消えていった。
しばらくして、戻ってきたアシュリーさんの手には、指輪ケースくらいの大きさの箱があった。
「ヴィクトリア様、こちらで間違いないでしょうか」
そう言って箱を妖精姫様に渡す。
「ええ、ありがとうアシュリー。」
箱を受け取った姫様は、俺に向き直る。
「それではアルフレッド・リンドロート様。」
「はいっ」
突然フルネームで呼ばれて、反射的に背筋が伸びてしまう。
「我が妖精族の同胞たちを救ったその功績を称え、この世の森羅万象を見通すことのできる目。翡翠眼を与えます。大義でした」
なにそれ強そう。
「ありがとうございます」
そう言って小さな箱を受け取った俺は、再び頭を下げる。
にしても、すごいものを受け取ってしまったな。
木箱に入っていることに疑問を抱かざるを得ないが。
「ふぅ…じゃあそろそろ良いかしら」
「…え?」
「はぁーーーー。つっかれたー!」
と、言って姫様は立ち上がって身体を伸ばす。
その横でアシュリーさんが眉間を抑えながらため息をついているのが見える。
「いやー、堅っ苦しくてごめんね!君も、もう楽にして良いんだよ?はぁー、久しぶりに人間と会って緊張したよー!それはそうと、君はなんだか不思議な雰囲気を持ってるね!ねぇねぇ、過去に何かあったのかい?お姉さんに教えておくれよー!」
めちゃめちゃ喋りますやん。
「っ…………!」
あまりの変貌に絶句してしまう。キャラ変わりすぎだろ。
少し驚いたが、どうやらこっちが素のようだ。あっちは王族モードと言ったところだろうか。
「おーい、アルフレッドくーん?」
姫様、改めヴィクトリアが俺の目の前で手をひらひらとしている。
「あぁ、悪い。少し驚いていた」
「私、堅苦しいのは苦手でさー。ずっとあのままでいるの疲れるんだよねぇ」
「まぁ俺もこっちの方が気が楽だよ。ところで、この箱開けてみても良いか?」
「もちろん!開けて開けて!」
箱を開けると、透き通った緑色の小さなコンタクトレンズの様なものが1つ入っていた。
「…コンタクト?」
「こんたくと?なにそれ?それは妖精族に伝わるアーティファクトでね、目に入れると無くなっちゃうんだけど、その代わりに翡翠眼を得ることが出来るんだ。君たちのスキルで言うと、【鑑定】に似たようなものかな。でも、より色々なものを、詳細に見ることができるんだよ?すごいでしょ!」
「それは凄いな…!」
凄いと言うか、とんでもない。
こんなもの本当に貰ってしまって良いのだろうか。いや有り難く貰うけどな。
「ほらほら!使ってみなよ!大丈夫、目が緑になったりはしないよ」
それは地味に助かるな。息子が目を緑色にして帰ってきたら母さんが卒倒しかねない。
俺はヴィクトリアから貰ったコンタクト(?)を慎重に左目に入れた。
少しの間は違和感があったが、何度か瞬きをすると目の中に溶けてくのが分かる。少しすると、全く違和感は無くなった。
「…あ、問題なく使えたみたいだね!ほら、左目に意識を集中して私をみてごらん!」
言われた通り、翡翠眼を使ってヴィクトリアを見てみる。
「!?!!」
俺は再び言葉を失った。
>>妖精姫・ヴィクトリア
レベル:129
体力:573
魔力:1362
攻撃:753
防御:487
敏捷:859
スキル:【妖精族の長】【心眼】
魔法: 火魔法(中)水魔法(上) 雷魔法(中)土魔法(特上)風魔法(特上)精霊魔法(極)
…姫様は壊れてらっしゃるようで。
主人公が順調にチートに近づいていますね。
楽しんで読んで頂けたら幸いです。
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