外の世界は、平穏である。
4年の月日が流れ、俺は順調に美少年に成長していた。
オレンジがかった輝くような茶髪に、スッと通った鼻筋、大きくて少し垂れた亜麻色の瞳。
完璧だ。完全に勝ち組だ。
そして
「「アル!誕生日おめでとう!」」
今日は俺の5回目の誕生日である。
母に魔法を使っていたのがバレた日、リンドロート家はちょっとした騒ぎになったが、結局母の見間違えだったという結論に至った
それほど、赤ん坊が魔法を使うと言うのはあり得ないことだったらしい。
そもそも魔法というのは、みんながみんな使えるわけではない。
母があまりにも当然のように使うので、大したことはないと思っていたが。
然るべき場所で、然るべき教育を受け、訓練を重ねてようやく使えるようになるそうだ。
その中でも、魔法使いと呼ばれるレベルに達するのは200人に1人だとか。
ちなみに、魔法を扱えるようになる年齢は15歳前後だと言われている。
「父さん、母さんありがとう!」
食べきれないほどのご馳走が並ぶテーブルを囲み、家族みんなで俺の誕生日を祝う。
しばらくして、父がおもむろに長細い包みを取り出した。
「アルフレッド、お前も5歳になった。そろそろ持っていてもいいだろう」
そう言って父が俺に包みを渡す。
開けてみると、そこにはシンプルな皮の鞘に収まった剣があった。
父のものと比べるとかなり短めだが、鞘から覗くその美しい刀身は、確かな切れ味を感じさせるものだった。
「ありがとう!父さん!大事にするよ」
俺は笑顔でそう言う。
5歳の子に真剣など早いと思うかもしれないが、この世界では5歳の誕生日に剣をプレゼントすると言うのは、騎士の家のしきたりなのだそうだ。
4歳になる少し前から、木剣でだが父から剣術の修行を受けていた俺は、父に少しでも認めてもらえたような気がして嬉しかった。
俺の剣の腕前はと言うと、まぁそこそこである。
元の世界でもあまり運動は得意ではなかったし、ステータスも魔術師寄りだ。
当たり前のことだが、父には全く歯が立たない。
ちなみに、5歳になった俺の今のステータスはこうだ。
>アルフレッド・リンドロート
レベル:1
体力:10→25
魔力:17→40
攻撃:10→27
防御:9→23
敏捷:18→35
スキル:【クラフトルーム】
魔法:水魔法(下)火魔法(下)<
やはり、何度も気絶しながら魔法を使い続けただけあって、魔力の伸びは著しい。
毎日のトレーニングの成果が出ているのか、その他のステータスもなかなか良い感じだ。
一般成人のステータスの平均は大体50くらいだと言われているのを考えると、5歳にしては相当高い方だろう。
「ねぇ母さん!外に行ってもいい?」
以前から、5歳になったら1人での外出を許してくれるという約束を取り付けていたのだ。
外出といっても村の外には出られないが。
「ふふふ、いきなり?うーん、あなたどうしましょう」
「まぁいいんじゃないか、行かせてやれば」
「アル、良かったわねぇ。くれぐれも、森に入ってはいけませんよ?」
「わかってる!じゃあ父さん、母さん!行ってくるね!」
「行ってらっしゃ〜い」
母が笑顔で送り出してくれる
「アル、せっかくの剣だ、持って行きなさい」
そう言って父は俺の腰に剣を差した。
「わかった!ありがとう父さん」
父は笑顔で頷く。
そして、俺は家を飛び出した。
試したいことは山ほどあるのだ。ずっとこの日を待っていた
家を出ると、まず目の前に広がるのは麦畑だ。
黄金に輝く麦が、まるで生きているかのように波打っている。
「そういえばもうすぐ収穫だったな」
この世界の主食はパンである。日本人としては米が恋しくなるが、少なくとも我が家の食卓には出たことがない。
探せばあるのかな。
少し歩くと、民家がちらほらと見える。
俺が生まれたオリバ村は、人口300人にも満たない小さな村だ。
村民同士は仲が良く、基本的には物々交換で生活必需品などは手に入れる。
例外としては、2ヶ月に一度だけ商人がやってきて、特産品や工芸品を商人に売ることで貨幣を得ることができる。
そして得たお金で、嗜好品や本など村では手に入らないものを購入したりする。
麦畑を抜けてしばらくすると、周りと比べて一際大きな家が目に入る。
領主の家だ。
教会で、魔術(特上)を授かった子と、その両親、あと使用人が何人か住んでいる。
この領主だが、教会で会って以降、一度だけ顔を合わせたことがある、偉そうに村民を見下すような態度。
やはり好きにはなれなかった。
しばらく歩いていると、少し開けた広場があり、その向こうには丘がある。
俺はさらにその丘を越え、人目につかない場所まで来た。
「よし、この辺りでいいかな」
今日はスキルを使って色々試していこうと思っている。
とりあえずその辺の岩を収納してみるかな。
おぉ、なかなかの大きさの岩も余裕で入るな。これはいい。
その他に何か使えそうなものがないかその辺を散策していると、茂みの奥がぼんやりと光ったような気がした。
「なんだ?」
茂みに近づき、草をかき分けてよく見てみる。すると
「キャッ!」
小さな悲鳴を上げたそれは、薄桃色の肌に、エメラルドグリーンの羽を生やした、可愛らしい妖精だった。
どうやら羽を怪我しているようだ。その他にも細かい傷が目立つ。
ボロボロだな。
「怪我、してるの?」
恐る恐る声をかけてみる。
「近寄らないで欲しいです。人間はキライなのです。」
と、キッパリと拒否されてしまった。少しイラっとしたが、やはり心配だ。
「まぁそう言わずにさ、大丈夫?動けるかい?」
「うるさいです、人間。どっか行くのです。」
なんだこいつ。人が心配してやってるのに。
しかし、どうしたものか。流石にここに放置するのは気が引けるしなぁ。
そうやって色々と考えていると、奥からもう1つの光が近づいて来る。
そこにいたのは、エメラルドグリーンの身体に、薄桃色の羽を生やしている、さっきのとは対照的な外見をした妖精だ。
「フィオナ、大丈夫?」
どうやら怪我をしている妖精はフィオナと言うらしい。
「ティナさん!来ちゃダメです!」
フィオナは俺の方を睨みながらそう言う。
「大丈夫だよフィオナ。この子はまだ子供だ、それに僕たちを攫うような人間とは違うよ。よく見てごらん、優しい目をしている。」
後から来た妖精は、俺の方を見ながらそう言う。
なかなか良く分かってるじゃないか。
「でも…」
フィオナの方は納得いかない様子だ。生意気な。
しかし、妖精を攫う人間がいるのか、全くどの世界にもロクでもない奴はいるもんだな。
「驚かせてごめんなさい。君たちに危害を加えるつもりはないから安心して。もし良かったら話を聞かせてくれないかな?」
俺は出来るだけ落ち着いた声でそう言った。すると、ティナと呼ばれた妖精が、ゆっくりと口を開く。
「僕たちは、逃げて来たんだ。」
新キャラを登場させるのは楽しいです。
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