母さんは、料理上手である。
「ほら、もう少し頭下げて」
「うん、これぐらい?」
「よし、そのままじっとしてろよ?」
《フィー…ン》
只今、狐っ娘洗浄中。
地面に倒れ込んでたからな、髪や身体が泥まみれだ。かわいそうなので、俺の魔法で洗ってやっている。
全裸になろうとしたときは流石に焦った。これくらいの歳の女の子はガードがゆるゆるだな、乙女は恥じらいが大事なんだぞ。
「よし、終わり。じゃあ乾かす…《プルプルプルプル》冷てえっ!」
「あっごめん!ついクセで…」
お前は犬か。可愛いから許すけど。
「気にしないでいい。ほれ、乾かすからこっち来い」
「うんっ!」
風魔法と火魔法を使って温風を送る。おぉ、完全にドライヤーの風だ。
「ふわぁぁ…あったかくて気持ちいいねぇ……」
「そ、そうか、そりゃよかった」
幸せそうに目を瞑りながらハンナはそう言う。なにこの子、めちゃくちゃ可愛い。食べちゃいたい。
しばらくして、ハンナのふわっふわの毛並みが完全に蘇った。しかし最初見た時も綺麗だとは思ったが、ここまで変わるものなのか。
「アル、ありがとう!サッパリしたよ」
守りたい、この笑顔。
「どういたしまして。それにしても綺麗な毛並みだなぁ…キラキラしてる」
「ふふふ、ママもよく褒めてくれるんだぁ」
「うんうん」
ママって呼んでるのか、なんか良いな。
「ねぇアル、ずっと気になってたんだけど」
「ん?」
「アルのスキルってどんなの?」
「ああ、うーん。簡単に言うと物作りのスキルかな、例えば…」
俺はクラフトルームを起動させ、木材を削って人形を作る。モデルはそうだな、せっかくだから狐にしようか。
「ほら、こんなものができる」
俺は人形をハンナに手渡す。
「えっ!キツネさん?!どこから出したの?!」
「こことは別の空間?アイテムボックスって言ったら分かりやすいかな」
「そうなんだ、アルのスキルは便利だねぇ」
翡翠眼のことは伏せておいた方が良いだろう。
「でも、それならどうして魔法が使えるの??」
…やっぱそこだよな。まぁもう見られてしまったしな、流石に誤魔化せないだろう。
「自分で練習したんだよ、あっちの丘の向こうに広場があるだろ?そこでね」
「ほんと!?やっぱりアルはすごいね!大人でも使えない人多いのに」
「ちゃんと練習すれば誰だって出来るようになると思うぞ?」
「そうなのかなぁ」
まぁ保証は無いけど。
最近思うんだが、赤ん坊の時の方が体に巡る魔力を感じやすかったような気がする。やはり身体が小さい分、感覚が鋭敏なのか?
「あ、そうだハンナ。いまからうちに来ないか?」
「えっいいの?」
「もちろん。ちょうど昼飯時だし、うちで一緒にどうだ?」
少し勇気を出してみた。元の世界では女の子とまともに話したことなど無いが、俺はプレイボーイになると心に決めたのだ。
「わかった!ママに言ってくるからちょっと待ってて?」
「おう、じゃあここにいるからな」
十数分後、ハンナが猛ダッシュで帰ってきた。
「速いなおい。」
人間のスピードを遥かに超えている。さすがは獣人だ。
「はぁ…はぁっ。おまたせっ…」
「そんな急がなくてもよかったのに」
俺は苦笑しながらそう言う
「しかし、速いな。身体強化を使ってたのか??」
「ううん?普通に走ってただけだよ」
なん…だと…!?
じゃあアレか、身体強化とか使っちゃったら『どこを見ている、それは残像だ』とか出来るんじゃね?
と、色々考えていると
「アル?どうかした?」
「ううん。なんでも…って、おわぁ!?」
近い近い近いっ!近いってば!
俺は決してロリコンでは無いが、やはり女の子にここまで接近されるとドキドキしてしまう。あ、まつ毛長い。
「あ、ごめん!びっくりさせちゃった?」
「いや、大丈夫。じゃあ行こっか」
ーーー・ーーー・ーーー・ーーー・ーーー・ー
「ただいまー」
「お帰りなさいアルフレッド。早かったのねぇ」
「うん、まぁね。」
「あら?その子は?」
「紹介するよ、この子はハンナ。俺の友達だよ」
「は、はじめましてっ!アルのお母さん!ハンナです、よろしくお願いします!」
「ちゃんと挨拶出来るなんて偉いわね。アルはちょっと変わってるけど、仲良くしてあげてね」
「いえそんな!アル…アルフレッド君はすごいんです!私を助けてくれて…優しくしてくれたし、それに、魔法だっ「ちょっ!ハンナ!こっち来て!」」
ハンナを部屋の隅に引っ張る。会議タイムだ。
「…あのな、ハンナ。母さんと父さんには魔法のこと話してないんだ。」
「え?どうして?悪いことしてるわけじゃないんでしょ?」
「それはそうなんだけど、なんかな…」
「ふーん、へんなの、じゃあ私も秘密にするねっ」
「ああ、そうしてくれると助かる」
「アル?ハンナちゃん?なんの話してるの?」
「いや!なんでもないよ!母さん。あーそれよりお腹空いたなぁ」
「うん!私もぺこぺこ!」
「あらあら、じゃあお昼にしましょうか!」
よし、なんとか誤魔化せたようだな。
「ところで、アル」
「ん?どうしたの母さん?」
「あなた、どこまで魔法が使えるの?」
「うーんと、全属性ひと通りは使えるよ。水は得意だけど、火は苦手かなぁ。あ、最近は氷まほ…って、え?」
はい?
「やっぱり。あなた魔法が使えるのね」
バレテーラ
「母さん、どうして分かったの?」
「あなたがまだ赤ん坊の頃から、もしかしたらって思ってたわ。あの頃はまだ確信は持てなかったけどね。」
マジデスカ
「まったく、あんまり侮るんじゃないよ?あなたの母親だもの。それくらい分かるわ」
お見それしました…
「父さんは?気づいてるの?」
「多分気づいてないと思うわ、あの人は少し鈍いところがあるからねぇ。」
「そっかぁ」
まぁ、ずっと隠し通せるとは思ってなかったし、いいタイミングだったかもしれないな。
「全部話せとは言わないけれど、もう少し頼ってくれてもいいのよ?あなたは手がかからなすぎて、逆に心配だもの」
「ああ、わかったよ母さん。黙っててごめん」
俺がそう言うと、母さんはいつもの優しい笑顔を向けてくれた。今はこの人の息子なんだな。と改めて実感させられた。
「ほら、そろそろ昼ごはんできるから。2人とも手を洗って席についてね」
「「はーい」」
ーーー・ーーー・ーーー・ーーー・ーーー・ー
「アルのお母さん、すごいね」
昼ご飯を待っていると、隣のハンナが俺に耳打ちをした。くすぐったいなぁ、もう。
「ああ、敵わないよ」
俺は笑いながらそう言う。
「ほら!ごはん出来たわよ〜」
お、いつもより少しだけ気合入ってる気がするな。
「「「いただきます」」」
「わぁ!おいしーい!こんなに美味しいもの食べたの初めて!」
「ふふふ、嬉しいこと言ってくれるわねぇ、どんどん食べなさい。アルはあんまり反応ないから、お母さんいつも寂しいわぁ」
「いや、いつも美味しいよ」
「私のママも、料理上手って言われてるけど。アルのお母さんはすっごく上手なんだね!アル、ちゃんと感謝しないとダメだよ?」
ハンナは人差し指を立てながら体を乗り出す。
「お、おう、わかった、わかったから。顔近いって」
やはり母さんは料理が上手いのか。ふむ、この世界の食文化のレベルが大体わかってきたな。
「それはそうと、アル。もう全属性の魔法が使えるなんて凄いじゃない」
「うん、こっそり練習してたんだ。」
「1人で練習してどうにかなるものでも無いのだけれど…」
「アルは凄いんだよ!あのロベルト君にも魔法で勝っちゃったんだから!それにほら!」
ハンナは俺が作ってやった狐の人形を取り出した。
「あら、可愛いわね。これはアルのスキルで作ったの?」
「そうだよ、他にもポーションとか色々持ってる。」
そう、色々と。ね。
「何か物を作れるスキルだとは思ってたけど、そんなに便利だったのね」
母さんと父さんは普段は放任主義だ、というか俺のしたいようにさせてくれている。
「あ、じゃあアル。この服の仕立て直しとかできるかしら?」
母さんは昔着ていた古い服を持ってきた。
「うーん、やってみないと分からないけど、多分できると思うよ。どんな感じにして欲しいの?」
「それはね。……で……にして……」
「ふむふむ、なるほど!いいねそれ」
「ふふふ、でしょ?」
俺と母さんは笑って顔を見合わせる
「むぅ…アルぅ。仲間はずれなんて酷いよぉ…」
「ごめんごめん。すぐに分かるからちょっと待っててな」
母さんの古着をクラフトルームに入れる。
そうだなぁ、とりあえずは繊維の再構成かな。
よっし、これで新品同様だな。てか、この服ってこんな色だったんだ。だいぶ着込んでいたらしい。
あとはサイズの調整かな、ハンナの身体をよく見てっと。
これから成長するだろうから少し大きめがベターだろう。
「ちょ、なぁに?そんなに見られると恥ずかしいよぉ、アル…」
なんだかエロい感じになってしまったが、いかがわしい事は何もしていない。まったく、紛らわしい発言は避けてもらいたいものだ。
よっし、サイズ調整で余った布でフリルをつけてみた。こんなもんかな。我ながらなかなか良いセンスをしている。
おっと、尻尾の穴を忘れてた。危ない危ない。
これで良しっと
「ほら、ハンナこれ」
出来上がった服をハンナに手渡す。
「え?なにこれ?」
「ハンナちゃんの服よ、アルが作ってくれたの。元々は私の古着なんだけどね」
母さんはそう言って苦笑する
「え!?私の?!やったぁ!」
「でもやるじゃないアル、あんなにボロボロの服からこんなに可愛らしい服が出来るなんてお母さんびっくりだわ」
「ふふん、でしょでしょ。繊維から作り直したからね、自信作なんだ」
「こんなに可愛い服はじめて!ホントに貰っちゃっていいの?」
ハンナがはしゃいでいる。
「ああ、ハンナのために作ったんだ。大事に着てくれよ?」
「うん!もちろん!」
「あらあらあらあら」
さっきからアラアラ煩いぞ母さん。
「いま着てもいい??いいよね!?」
何度も言うが顔が近い。
「あ、あぁ、それはもちろん」
「わぁーい、じゃあ着替えるね!」
「おいおいちょっと待て!俺の目の前で脱ごうとするな!」
「え?どうして?」
「どうしてもだ!俺は外に出るから着替え終わったら言ってくれ」
「あらあら、アルはおませさんなのねぇ」
「母さんうるさい!」
「おませさん??」
「ハンナは気にしなくていいから!じゃあ俺は外出るぞ!」
《バタン》
「ねぇアイリスさん。私、アルに嫌われちゃったかなぁ…?」
「ふふふ、たぶん逆。じゃないかしら?」
ーーー・ーーー・ーーー・ーーー・ーーー・ーーー
「はぁ、5歳児相手にガチで取り乱してしまった…」
俺もまだ5歳だった。精神が肉体に引っ張られてるってのも、あながち冗談じゃないかもしれないな。
しかし、ハンナには少し恥じらいと言うものが無さすぎるぞ…まったく…
ーーー・ーーー・ーーー・ーーー・ーーー・ーーー
「じゃじゃーん!どお?どお?アル、ハンナちゃん可愛いでしょ〜?」
「アル…どう?…かな」
見慣れたいつもの扉が開いた先には、顔を赤らめながらこちらを見ている、狐耳の天使の姿があった。
母さんのテンションが無駄に高くてイラっとするが、そんなものは無視だ。気にしている場合もないほどにハンナが可愛い。
おいおい、上目遣いは反則だぜお嬢さん。
「すごく似合ってる!想像以上だよ」
やはり平成のプレイボーイな俺としては、素直に褒めておくのが定石だと言えよう。
前世も今世も童貞だが、そんなものは些細な問題だ。
「そうかなぁ?えへへ。ありがと」
あぁ…この顔を見るために俺は生まれてきたのか
「ホントによく似合ってるわ。可愛いわよ、ハンナちゃん」
「ありがとうアイリスさん!」
あれ?いつのまに名前で呼ぶようになったんだ?
「あ、そうそうアル」
「ん?」
「ハンナちゃんと2人で話したんだけど。明日から私が、アルとハンナちゃんに魔法を教えることになったから、そのつもりでね」
「アイリス先生、よろしくお願いします!!」
「え?……ええええぇぇええええぇぇぇぇぇ!!!」
俺がいない間に話を進めるのはやめてくださいお母様。
ハンナ可愛いですね。書きながらニヤニヤしてしまいます。
皆様に楽しんで読んでいただけたなら嬉しいです。
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