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第8話 目指せ、初心者たちの初勝利

 親川の4ゲーム100球に渡るバッティング。ホームランなんて打てるわけもなく、なんならまともに真芯を食った打球自体も2割と言ったところ。それでも決して思い悩む素振りなんて見せずに、むしろ久しぶりのバッティングに嬉々としていたくらいである。ただいくら楽しくても永遠にやっていられるほどの体力はないのである。既にバッティングセンターを後にして、ところ変わって地元のスポーツ用品店。表面的に野球を嫌っていたとはいえ、本音では野球を断ち切れなかった親川。野球道具は中学時代のものがすべて残っており、ボールもそのころとサイズもほぼ同じな軟式球。改めて何か買う必要性はないものの、欲しいものはあるものだ。


「雄太って、本当に変わったよね」


「ここ最近、ずっとそれ言ってるよね。そんなにかな?」


 バッティンググローブを手にして好みのものを選びつつ、隣から話しかけてくる織田へ返事も忘れない。


「そんなに。だよ」


「ふ~ん」


 興味なさそうな相槌。というよりは、今は自分のことに集中している様子。


「カラーの違いくらいかな。どれがいいだろう?」


「好きな色とか、それがないならファンのプロ球団カラー、あとは好きなプロ野球選手と同じにするとかいいんじゃない?」


「好きな球団とか選手とかはいないんだよなぁ。僕、野球は好きだけど、特定のプロ球団を好んでるわけじゃないし」


 彼は「じゃあ、あまり明るいのもなんだし、黒か青かな?」と独り言をつぶやきながら、口にしたとおりの黒と青を見比べる。すると隣で織田が静かにひとり笑う声。


「急に何があった? 思いだし笑い?」


「ううん。数週間前までは野球が嫌いって言ってたような人から、野球が好きなんて言葉が聞けるとは思わなかったから」


「言ったことなかった?」


「多分、言ってないはずだよ」


「そう。だったらよっぽどのレア発言をしたみたいで。よし、こっちにしようか」


 少し悩んだ末に手に取ったのは青色のバッティンググローブ。


「千嶋は何かあった?」


 そして彼が振り返った先、1メートルほど離れた場所にいる千嶋も吟味中。


「守備用グローブ?」


「私、使ったことないなぁ」


 親川と織田は揃って覗き見。


 打球を捕るための革で作られたいわゆるアレはグローブもしくはグラブと呼ばれる。ただそれを直に手に付けた場合、痛烈な打球・送球を受けた時に手のひらが痛くなることがある。それを防ぐためにグローブの下につける、つまりは手袋を守備用グローブというのである。


「これからキャッチャーをしようと思ったら、もしかしているかなって思いまして」


「「いる?」」


 見事に2人タイミング合わせての疑問返し。なにせ球速は80にすら遠く及ばない少年野球のキャッチボールレベル。いくらキャッチング機会が多いとはいっても、それの必要性は怪しいところでもある。


「形は大事です」


 特にこれといった理由はないらしい。


「せっかくミットも新しく買ったので、どうせならこういうところも」


「あっ、あのミットって新しく買ったのか? てっきり赤羽あたりから譲ってもらったかと」


「いえ。どうせなら自分に合ったものが欲しいと思いまして」


 軽く選んだわけではないにせよ、彼女のキャッチャー転向は親川自身の決定である。それだけに責任を感じるところもある。


「ごめん。まさかそこまでするとは思わずキャッチャーにコンバートさせたちゃって」


「ふふ。今日って、みんな謝ってばっかりですね。でも、私は大丈夫ですよ。野球部での経験があると言っても、それほど上手くなかった私ですから、ピッチャーやキャッチャーにはあこがれがあったんです。野球好きとして、下手なのにこんなポジションができるなんて楽しくて仕方ないです」


「それならいいけど」


「なのでミットを早く慣らそうと思って、今日もついキャッチング練習に来ちゃいました」


「それであんなところにいたか」


 会話を交わしながら、千嶋も自分の好みのグローブを見つけだす。


 親川も千嶋も必要なものを手に入れ、織田はとりたてて買うようなものも無し。


 あとは会計を済ませてしまえば帰るだけである。


 すると、一緒に歩いていた千嶋が足を止める。


「千嶋?」


 ワンテンポ遅れて親川、さらに織田も止まる。振り返ると彼女は、壁に貼られた一枚のポスターへと目を向けていた。彼女のその目は興味の眼差しと言うよりは、さながら手の届かない額のダイヤの宝石を見つめるような半分諦め、半分羨望の思いが込められているものであった。


 いったい何を見ているのか。気になり彼も目を向けてみる。


「『集え野球ファン。目指せ全国』ねぇ」


 さらに彼の肩にあごを乗せつつ、織田が覗き込む。


「草野球の全国大会だね。このポスター、去年も貼ってあったような気がする」


「第2回ってあるし、比較的新しい大会か」


 ただ主催・協賛企業を見る限り、かなりの有名企業が名を連ねている。歴史こそ浅いが規模自体はなかなか大きそうである。


「出たいとか?」


「いえ。全国って、私たちよりも強いチームばかりなんだろうなぁ。と」


 親川の質問に対する返答で、彼と織田が気付く。


『(出たいんだなぁ)』『(出たいみたいね)』


 明らかにその発言と、今まさにポスターに向けている表情が一致していないのである。なんと分かりやすい反応であろうか。


『(大会の日程は秋に地方予選開始か)』


 親川は目を細めて細かい文字も読み込む。


 ポスター記載の暫定情報を見る限りでは、秋に地方予選大会開始。そこを勝ち抜いた地方代表が、プロのフランチャイズ球場にて全国大会を行うとのことである。なお去年の全国の舞台は千葉マリンだったそうである。


「なんにせよ。大会の前に、まともに試合が成立するようにしないと」


「そうですね。そろそろ試合ですし」


「ん? 試合?」


 小言を言ったつもりが、千嶋から不穏な言葉が返ってきた。


「はい。今度の日曜日に試合って……赤羽さんから聞いてないですか?」


「あぁぁぁかぁぁぁぁばぁぁぁねぇぇぇ」


 親川がいない頃の普段のクセで、彼への伝達を忘れていたようである。本日の練習の時に伝達すればよかったのに、なぜそうしなかったのかは疑問。おそらく皆に連絡して知っている前提でいたのだろう。


「相手は?」


 赤羽がいたなら殴っていたであろう、強く握っていた右拳を緩めて千嶋へ問う。


「近所の大学生チームです」


「だ、大学生? こっちは下手すら小学生もいるのに?」


 中高生と試合をするかと思っていたら、まさかの相手は大学生チームとのこと。


 その件については以前に千嶋が話していたはずだが、親川はまったく覚えていないようで。


「えっと、大学生と言っても草野球ですからその……雄太さんの方が上手いと思います」


「な~んだ。だったら勝てなくもない相手なんだなぁ。前にやった時のスコアは?」


「こっちはなんとか1点を取って――」


「おっ、投手戦か?」


 試合すら成立しないチームであるも、ピッチャー・千嶋自体の実力はまぁまぁ。相手の打線次第では投手戦と言う名の貧打戦に持ち込めるような予想を立てるが。


「何点か分からないですけど、軽く2桁は取られた記憶があります」


「ぼろ負けじゃん。何、もしかして20対1とか?」


「その……50対1とか、それ以上だと思います。途中である程度点を取ったら無条件チェンジにしてもらいましたし、時間の関係で早目に終わりました」


「マジで試合になってねぇ」


 しかも途中から点数上限ができたらしい。もしそれがない普通のルールでやっていたとするならば、3桁得点は覚悟していいということか。


「せめて試合を成立させないと。でも、まさかそこまでとは思わなかったからなぁ。どうしたものか」


 守備難は分かっているものの予想以上のスコアであった。


「ふっふっふ。私の力が必要なようね」


「「え?」」


 振り返る親川と千嶋。そこには織田家の女子高生が仁王立ちしていた。


『(私には嫌がっていた雄太を野球に戻した責任がある。その責任を果たすべきはここと見た)』


―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――


 学校にて連絡不十分の赤羽をヘッドロック&背負い投げで絞めた月曜日から1週間。


 試合を明日に控えた土曜日。


 強力な援軍が現れた。


「いくよ。サードっ」


 試合前と聞いた織田が練習補助(コーチ)として参戦。怪我の影響で親川ほど遠くに打てないため、内野守備練習限定でノックを行っている。


「そうそう。その調子」


 サードの野里は捕球から送球まで大きなモーション。1塁送球はファーストベース上に置いてある、ポケットの付いたバッティング用ネットに飛び込む。本来ならばファーストをすることとなった親川がいるはずであるが……


「はい。住谷っ」


 彼はレフトファールグラウンドからセンターに向けて打球を放つ。


 公共の場所ゆえに長い練習時間が確保できないうえ、そもそも彼ら彼女らはそれほどガッツリ練習するような野球部でもない。そこで指導効率を考えて内外野に分かれての練習としたのである。


 内野担当でノッカーは元投手の織田。


 外野担当でノッカーは元外野手の親川と、ノック補助としてこちらも元外野手の千嶋。


「雄太。本当にフライ無しでいいの?」


 ヘッドコーチ・親川からの練習指示は予め受けていたが、やっている内に心配になってきた織田。大声で彼へと聞いてみるが、


「ゴロだけでいい」


 同じくらいの大声で返ってくる。戦略は彼の頭の中にあるのみなため、彼女はただ彼に言われるがままにやるだけ。ただこれほどまでにゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロの応酬では不安になるのも当然。野球の試合ではゴロだけが打球のすべてではないのである。


「う~ん。本当にいいのかな?」


 不安を口にしながら手元のボールケースに手を伸ばす。


 次はショートへ打球を放つ。わずかに二遊間へと逸れたボールに対し、ショート・長尾はスライディングしながら捕球を試みる。しかしただでさえ守備が得意ではないだけに、ボールを弾いてしまう。しかし挑戦心は悪くない。


「いいよ。ナイストライ」


 織田自身も久しぶりの野球とあって、しっかり声を出して盛り上げながらの練習。なにせ体の故障は場合によっては学校の体育ですらもできることに制約があるほどだ。つくづく日常生活に影響が出ない怪我であったのは幸いである。


「織田さんが来てくれて助かりましたね」


 ノックを受けている外野勢と親川の間で、中継への返球練習としてボールを受けている千嶋。彼女が受けたボールを手元のカゴに入れながら彼へと声をかける。


「道具的な意味でね」


 千嶋の足元のカゴには約20球、親川の足元のボールケースにも同じ程度。加えて織田の行っている内野守備練習でも50球くらいを使用中。これまでの練習では10球程度の少ないボールを汚しつつなんとか使いまわしてきたわけだ。しかし今は割と新しめの軟式球が100球程度。紛れもなくこれを用意したのは織田である。曰く少年野球時代に自主練習に使っていた道具を、故障引退後も倉庫に入れていたとのこと。それをわざわざ引っ張り出してきたのだ。


「いえ。ノックを打てる人もいないので、野球経験者がいてくれると嬉しいです」


 もちろん経験者は皆が皆、ノックを打てるというわけではないが、少なくとも親川はしっかり、織田は内野もしくは外野前方のヒット性までなら打てる。手投げノックで打球とはボールの質が違うため、より実践に近い形を追えばバットを使ったノックがいいのは当然である。


「確かに、守備練習のために手投げでフォームを崩した人もいるし」


「それは仕方ないじゃないですかぁ」


 嫌がらせのように千嶋を煽りつつ、彼女の遠投ではできなかった鋭い打球を外野に飛ばす。それは外野で失速することなく転がっていき、守備練習らしい守備練習として成立する。


 親川の参加によって変革が現れていった。


 下手の横好きで試合が成立しなかったチームが、経験者を加えて知恵が入ったことで、基礎が固まり始めたのである。彼が入ってたった数週間。それも野球部のように毎日練習をしているわけではなく、週末の土日祝日の2、3時間。長くて5時間行うこともあるらしい(・・・・・・・・)程度である。それでもこんな短期間で、その変化を実感できるほどになったのだ。彼ら彼女らの実力が元々基礎すら崩壊している底辺レベルだったのもあるが、それだけ親川の存在が大きかったということか。


 そして彼の参加によって本格的介入を決めた織田。彼女により楽になったのは、道具面、内野守備指導面だけではない。


 なにせ彼女は本職がピッチャーである。


「そうねぇ。投げにくくなかったら、もう少し腕は下げた方がいいんじゃない? 多分、そっちの方がコントロールしやすいよ」


 守備練習後、ピッチャーに転向したばかりの赤羽へと指導が入る。


 今までピッチャーをやっていた千嶋は本職外野手。親川は部活時代にマウンドに立った経験もあると言っても9割方外野を守っていた。本格的に投手をやったことがある人がいなかったのである。


 ピッチャーの能力が上がれば、打撃練習の効率も良くなることだろう。そして打撃能力が上がって打球が強くなれば、シート打撃等によって守備能力向上が見込むことができる。

捕らぬ狸の皮算用。

風が吹けば桶屋が儲かる。


 所詮はそんな推定に基づく打算であるも、推定できて打算できるほどには可能性があるともいえる。もちろん今日明日の話ではないが。


「私たちのチームは変わりはじめました。1人。たった1人の参加をきっかけにした、大きな変革で」


 自らも不慣れなキャッチャー防具、真新しいキャッチャーミットを手に練習中の千嶋。初心者よりはキャッチャーの知識がある親川からアドバイスを受けながらも、ふとあたりを見回してみる。


 元々のチームメンバーは10人。そこに親川というたった1人、仮に織田を加えても2人。人数的には10人に対する2人という非常に小さな割合の変化であったとしても、それがチーム力を5倍、6倍と引き上げる結果となったことは紛れもない事実である。


「雄太さん。私、雄太さんと出会えてよかったです」


 口角を上げて喜びを表す千嶋に、照れ隠しに明後日の方向を向く親川。


「ほんと、よく笑う子だこと」


「笑ってる方が楽しいですよ」


―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――


 天気が崩れることだけが懸念された試合当日の日曜日。


「晴れてよかったですね」


「野球日和ではあるかな」


 いざ当日となると天候は決して悪くなく、適度に雲があり過ごしやすい日である。


 千嶋と親川はそんな空の下、外野(ライト)フェアグラウンドにてキャッチボール。試合にはもうしばらく時間があるため、ちょっとした暇つぶしである。


「それじゃあ、もうちょっと離れますね」


「うん」


 彼女は少し前に出て地面に足で大きな円を描くと、その円を親川との中間地点にするような距離まで離れる。


「好きだなぁ。それ」


「好きですよ。これ」


 親川が少年野球時代に使っていた練習法である。仰角を向いて投げる遠投は投球フォームの乱れを生むため、中間地点の円に向かって地面へ「速く低い球」を意識して投げることで、乱れを抑えながら肩を強くするというものである。プロのキャンプにて野手がブルペンに入ることがある。その応用と言えるだろう。


「もしかして千嶋さん、雄太に教えてもらった練習方法だからウキウキしてたりしてね」


 それに横槍を入れるのは、臨時コーチ兼野次担当の暇人・織田雪。


「それって……いや、いや、いや。ないから」


「え? 単純に経験者からの提案だからって意味なんだけど、どういう意味を想像してのかな? ん~?」


「誤解すると分かって言っただろ」


「べ~つに~? まぁ確かに? 単純な野球上級者って以上に懐いている気がするけど?」


 傍を向いてごまかす織田に対し、独り言ように、しかり聞こえる声でつぶやく。


「第七天魔王」


「いや、第六だから。じゃなくて、違う、違う、私、第六天魔王じゃないから」


「別に雪の事を言ってるわけじゃないけど……そっか。自分で天魔王だと思っていたかぁ」


「ちょっと。雄太も人のこと言えないんじゃない。結構ゲスイよ」


「少なくとも僕は寺を焼いたりしないし」


「だからそれ、信長の方の織田でしょ。私は雪の織田だから。違うから。別物だから」


 千嶋からの『低く速い』ワンバウンド送球を受けた親川は、彼女へとノーバウンド送球。この距離をノーバウンドで低く速い送球ができるのは、やはり野球の実力の差である。そして男女のパワーの差でもある。


「でも雪、昔は普通に3人をバッサバッサと連続で討ち取ったりしてたし」


「それ、絶対に三者凡退に打ち取った事を言ってるでしょ。はい、そこ、目を逸らさない」


 あいにく『うちとる』の漢字も意味も違うのである。


 親川が織田との煽り合い、そして千嶋とのワンバウンドキャッチボールをしていると、長谷崎が彼の元へと駆け寄ってくる。


「親川先輩」


「は~い」


 視界に入っていた千嶋・織田は気付くも、背を向けていた親川は声をかけられるまで気付かず。千嶋からの送球をキャッチしてからようやく間延びした返事と共に振り向く。


「赤羽先輩が呼んでますよ」


「議員が? 議員は……どこに?」


 おそらくは自軍ベンチである1塁側にいるのだろうと遠目に探してみるも、彼らしい姿は見当たらない。もしかしたらベンチ前の集団の中に紛れており、単純に遠目で区別がつかないだけの可能性もある。


「こっちです。行きましょう。おに――いえ、親川先輩」


「お、おぅ」


 彼の手を握って引っ張っていく長谷崎。いつもは小さな声で静かな印象を持つ彼女であるも、今の彼女はどことなくテンションが高めの模様。単純に試合前で気分が高揚しているだけであろうか。もしくは別の要因か。


 キャッチボール相手の親川がいなくなった為、自らも引き上げる千嶋、そして煽り合っていた織田の2人。ただ織田は首をかしげつつ千嶋に質問。


「長谷崎さんって、以前、雄太に打撃フォーム見てほしいって言った子だよね。どちらかと言えば内気の」


「はい」


「試合前っていつもあんな感じなの?」


「いえ。普段はいつも通りの落ち着いた感じです。今日は楽しそうに見えます」


「千嶋さんもそう見える?」


「織田さんもですか? あまり一緒にいないのに分かるんですか?」


 親川ですら「いつも」を語れるほどに一緒にいるわけでもないのに、織田ならもっと語れないのでは? と疑問の千嶋。その問いに関する織田への答えは単純明快。千嶋には容易く理解できた。いや、女子だからこそ理解できたのかもしれない。


「女の勘?」


「納得です」


 女の勘は鋭いものである。


「長谷崎さん、どうしたんでしょう? 雄太さんの助力を得たおかげで、今日こそは勝てると思っているとかでしょうか?」


「どうかなぁ? 気のせいかもしれないけど、さっき冬美ちゃん、雄太を『おにいさん』か『お兄ちゃん』か、とにかく兄貴的な意味の言葉を言いそうになってた気もするし、もしかしたら雄太にお兄ちゃんの面影を感じてるのかもね」


 改めて目にしてみる織田と千嶋。


 そう考えてあの2人の背中を追えば、それは兄とその手を引く妹の姿にも見えなくない。


「本当に長谷崎さん、嬉しそう。本当にお兄ちゃんと仲良かったんだね」


「話に聞いたところだと、絵にかいたような暖かい兄妹関係だったと。最後にあったのは数年前ということです」


「海外にでも行っちゃったの? そんなに昔って」


「えぇ。とっても遠くなので会えないみたいです」


 もはやいるのは遠くであるもためはっきりは見えないが、雰囲気で察することができる嬉しそうな長谷崎の顔。それを見て千嶋は、言葉で寂しそうにしながらも表情は明るい。


「そっか。雄太がお兄さん代わりか。よかった。連れてきて」


「はい。本当によかったです。雄太さんのおかげでみんなが楽しいです」

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