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プロローグ『僕の出会い』

僕はある日、恋をした。

これは絶対に間違いない、この人の虜に、僕はなってしまった。

大学3年の今まで何回かは女の子から告白をされたりしたが、けっきょく魅力を感じるような子は1人もいなかった。

そんな僕が、とうとう恋を知った。恋を知ってしまった。

彼女がいなくなった後も、僕の頭と心の中には彼女のことでいっぱいで、『恋煩い』の辛さを体感したのだ。


出会いは公園だった。

僕は内職を普段は家の中でするのだが、近くで工事があり、騒音でそれどころじゃなかった。

そこで、いい天気だし、公園で読書でもしようと思ってカバンに本と財布だけ入れて、アパートを出た。

途中、コンビニでホットコーヒーを買って公園に向かう。

春のぽかぽかとした陽気を感じ、アイスコーヒーにしたらよかったと内心ちょっと後悔しつつ、公園に入る。

公園と言っても、この環水公園は真ん中に大きな川があり、周りをぐるっと歩いて回れる大きなところだ。

今は桜の木が綺麗に咲き誇り、たくさんの人が歩いていた。

ベンチは桜並木の反対側なので、すぐに座れると思っていたのだが、甘かった。

点在している7つのベンチをカップルが占領しているのを見て、そういうことは家でやれと心の中で思いながらどこか空いてないかを探していた。


そして、カップルだらけの中、1つだけ1人で座っているベンチを見つけた。

その時だ、その時僕は患ってしまった。恋の病と言うものに。

綺麗に、長く伸びた黒髪。整った小さな顔。他のカップル達とは違い、後ろ髪と平行にまっすぐな背筋。雪みたいに白い手には1冊の本。


僕は本が好きで、将来は読書が好きな女性と付き合いたいと思っているほどで、まさに彼女は僕の理想通りの人だ。

ベンチはギリギリ3人座れるかどうかの幅で、ナンパする勇気もないくせに彼女に声をかけた。


「あの…すみません…」


彼女は声をかけられて、私かな?という感じでゆっくり顔を上げた。

改めて顔を見ると、本当に綺麗な人だった。

こんな感じのアイドルをテレビで1回くらいは見たことあるかもと思えるほどに清楚で整った顔をしている。


「はい。なんでしょうか」


彼女の声は透き通っていて、スゥっと僕の耳に入ってくるような錯覚をした。


「他に椅子が空いてなくて…お隣いいですか?」


聞いてしまった。

髪型はおかしくなかっただろうか、声のかけ方は普通だっただろうか。

いろいろな事が頭の中に思い浮かぶ。

僕の質問に彼女は周りのベンチを眺めて、何かを察したように横に置いてあるトートバッグを膝の上にのせた。


「どうぞ」


「ありがとうございます!」


僕はつい嬉しくて声が大きくなってしまったかもしれない。

とりあえず彼女からギリギリもう一人座れるかどうかくらい間を開け、腰を下ろしカバンから紺色のブックカバーをした本を取り出した。


この本を読み終える頃には工事も落ち着いているだろうと思い、本を開けるが、横に座る彼女が気になってしまい、ちょくちょくチラ見してしまった。

しかし、彼女は本に集中しており、気がつくことはなかった。


しばらくはそんな感じで本を読んでいき、何回目かのチラ見で、彼女が僕の方を向いていることに気がついた。


「どうかしましたか?」


髪型がおかしかったのだろうか、それとも顔になにかついていただろうか。

様々な心配をしつつ彼女に聞くと、彼女は白い顔をかぁっと赤くして、顔をそらした。

うん、可愛い。


「あ…えっと…何か飲み物を買いに行こうかなと思ったんですけど、まだしばらくここにいますか?」


ちょっと予想外の質問だった。

つまり、離れている間、荷物を見ていてほしいと。

そして、チャンスかもしれないという考えが頭を過ぎった。

これは彼女の言うことを聞いて、上手く行けば話なんかして、運良くお近づきになれるのではと下心しかない頭で僕は答える。


「あぁ、大丈夫ですよ。今日はこの本、読み終わらせてから帰ろうと思ってたので。荷物、見てますよ」


「あ、ありがとうございます…」


彼女はトートバッグに本をしまい、財布とスマホを取り出してコンビニに気持ち早足で歩いていった。

あぁ…今、上手く笑えていただろうか、違和感はなかっただろうか。

僕はそんな心配をしながら、ふたたび本に目を降ろす。


彼女が帰ってくるのをまだかまだかと思いながら本を読み進めていく。

今は恋愛小説を読んでいて、今の僕と同じように、男の子が好きな女の子が来るのを待っているところだ。

まぁ、本の中の男の子はすでに女の子といい雰囲気になり、三度目のデートに出ようとしているところだ。そして、デートの最後に男の子は告白して2人は晴れてカップルになる。

いいな…僕も彼女とこんなふうに…いやいや、そんな#邪__よこしま__#な気持ちで彼女に近づいちゃいけない。きっと彼女はすごく清楚で、和風の名家みたいなところで大切に育てられたに違いない。

自分の考えを改めたところで彼女が戻ってきた。


「あ、おかえりなさい」


おかえりなさいっておかしくないか?

いや、でも戻ってきて、バックを見てたわけだし…。


「あの、ありがとうございました。バッグを…」


彼女は申し訳なさそうにお礼を言ってから、ベンチに座った。

こういう気づかいができるなんて、よっぽどいい育ちをしていたのだろう。

もう、彼女の一挙手一投足が可愛いorできる子の二択になっている時点で僕はもうだめだ。


「いえいえ、大丈夫ですよ。本を読んでいただけですから」


そんなことを言いつつも、彼女と会話できて内心ガッツポーズを取った僕。


「これ、よかったら…バッグを見ててくれたお礼です」


彼女はそう言ってチョコレートを僕のコーヒーの横に置いた。

さすがに本を読んでいるだけで貰うわけには…と思って遠慮してしまった。


「そんな、お礼なんて…」


「いいんです、成り行きで買ったものですから」


成り行き?と内心疑問に思いながらも、これ以上断ると逆に申し訳ないのでありがたくいただくことにした。

と、言うのは建前で、めちゃくちゃ嬉しいです。彼女からなら何を貰っても喜んでしまう自信があった。


「では、ありがたくいただきます」


僕はチョコレートの封を開け、1つ口に入れた。

口の中に広がる甘さは、嬉しさもあいまって、人生で食べたチョコレートの中でもトップの幸せ感を僕に与えてくれた。


僕がチョコレートを食べるのを見て、彼女はまた本の世界に入っていった。


そのまま、話しかけるかどうか、悩みながら時間はすぎていき、けっきょく彼女は時間が来てしまったのか、腕時計を見てから荷物を持って、僕に軽く頭を下げ、ベンチから離れていった。

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