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乾坤一擲  作者: 響 恭也
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唐入りー北上ー

 織田軍は忠州に兵を進めた。ここには女真族との戦いで功績を上げた申砬しんりつが兵を集めていた。今までの最大規模の兵力で、15000ほどが集結しつつあり、秀吉は警戒を強めた。

 だが内部で主導権争いがあり、有力な将が一人戦線を離脱したようで、兵の士気は振るわない。弾琴台に布陣しているが、まったく遮るもののない平地に相手より少ない兵力で布陣している。特に防御陣地らしきものも見当たらない。秀吉は罠があるものと判断し、斥候を放つが何も発見できなかった。


「官兵衛よ、これはどういうことかの?」

「信じがたいですが、なんの備えもないようです」

「やはりそうか」

「ですね、どうやら100年前からいくさの仕方が進歩していないようですな」

「ふむ、聞くところによるとあの将は朝鮮一の名将らしいぞ?」

「よいではありませぬか。雄敵と軍略を競い合うは血が騒ぎますが、敵が弱くてこちらが困ることはありませぬゆえ」

「確かにそうじゃのう。陣立てを決めようかの。中央に島津。左翼に小早川、右翼に吉川。両翼は迂回して敵を包囲する」

「宇喜多は先日の戦いで先陣でしたからな。妥当かと」

「おっしゃ。明日の払暁より攻撃開始じゃ!」


 恐ろしいことに朝鮮軍は陣を敷いたまま織田軍が近くにいることすら気づいていなかった。斥候は出さず、陣立ても整えていない。そこに島津軍が袁叫を上げながら突撃を敢行する。東北の戦では100の兵で中央突破に成功するという離れ業を見せた。東北の兵は特に弱くない。ただ集団戦術に慣れておらず、一騎打ち文化が残っていたのが原因で島津の一糸乱れぬ攻勢に敗れた。

 さて、朝鮮軍だが…両翼に兵が現れた瞬間混乱を始めた。そして鉄砲の備えがないため、打ち込まれる銃撃にバタバタと倒れ伏してゆく。弓で迎撃してくるが、射程、威力ともに鉄砲隊にかなわない。逃げ惑う兵は漢口の流れに飲まれ、万を越える兵力が瞬時に溶けて消えたように見えるほどだった。


 そのまま秀吉は首都漢城に軍を進める。そして斥候からの報告を聞いて唖然とした。国王たる宣祖は北方に逃れ、兵も逃散したらしい。明との国境に近い開城まで逃走し、明の援軍を待つ構えだそうだ。実際開城付近で迎え撃つとなれば、朝鮮の国土の8割以上が日ノ本の手に落ちる。故にここで会戦があるものと備えをしてきたのである。

「なんというか、悪いほうの予感が当たっちまったな」

「ですなあ。ここで明を待ち構えるにしても、漢城事態が我らの不安要素になりかねません」

「かといってこの城を占領はしたくないぞ。それこそ我らの軍が破たんするがな」

「となりますと…」

「うむ、ここを視野に入れた状態で、陣屋を築くか」

「斥候を放ってここより北の情報を確認いたしましょう」

「明軍の来襲の時期を図らねばな」

「秀隆様が有力な水軍の将を失脚させておいてくれなければ補給線に打撃を被っていたかもしれませぬ」

「んじゃのう。さすが秀隆様じゃ」

「ひとまず兵たちの食料の確保と、水ですね」

「川の水は泥臭くてかなわん。井戸は厳重に見晴らせよ。毒でも放り込まれたらえらいことになるわ」

「はは!」


 ここでさらに予想外のことが判明した。朝鮮軍を一方的に打ち破った情報を聞き、明の将軍が会場から動かなくなった。怖気づいたらしい。明軍と一戦して破り、有利な条件で講和することが戦略目標である以上、ここにとどまることが難しくなってきた。

 やむなく漢城を制圧し、可能な限りの慰撫に勤める。そのうえで遠征する段取りを整えようとしていた。ここで上陸してから3か月が経過していたのである。

 釜山に上陸したのは浅井長政、上杉景勝の北陸衆であった。二人はほぼ同格であるため、名目上の主将は秀吉である。だが、準一門格の浅井が主将となって、北の臨津江周辺に陣を張る。渡河用の船や、南岸の施設を焼き払って進軍を遅らせるための手に出ていた。近隣から船をかき集めるが、大軍の渡河には間に合わない。しばらく様子見となった。

 浅井の兵は1万、上杉と合わせて2万足らずである。それを見た朝鮮の将軍は、敵は数を減らしているものと勘違いし、逆撃を具申した。だがここでも内輪もめがあり、総大将が出撃を拒否した。放っておけば立ち枯れて帰ってゆくという意見である。これはある意味的を射ており、どこかで補給能力の限界が来る。そうなれば引き上げざるを得ない。だが現状はまだ織田軍には余力があった。

 臨津江を監視する少数の兵を残して漢城に兵を集結させる。この動きを見た朝鮮軍の一部が、撤退と勘違いして渡河し監視部隊に襲い掛かった。陣屋を築いていたため、そこに立てこもり、鉄砲を撃ちかけると朝鮮軍は混乱する。そこに主力を率いた上杉軍が到着し、朝鮮軍を蹴散らした。これによって船を入手し、また上流で歩いて渡ることができる場所を発見した。

 これにより、北上の手段を得た織田軍は進軍を再開するのだった。

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