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乾坤一擲  作者: 響 恭也
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天正10年正月 九州にて

 天正10年、正月。豊後国府内城

 別府に湯治に来ていたのは帰蝶ほか信長の妻と、秀隆の妻子も招かれていた。島津との講和というか降伏の交渉も順調に進んでおり、この正月の宴に義久も招かれている。

「皆の者、前年は大義であった。九州も定まった。島津殿とは同盟を結ぶ。遺恨は水に流し、手を取り合おうぞ。そして東北、蝦夷地までを平らげるのじゃ!」

「「はは!」」

 とても先日秀隆に正座させられていたとは思えぬ姿である。信長の武威に九州の諸将は恐れ入っていた。それと右大臣の官職は九州の国人土豪をひれ伏させるほどの権威もあった。

 例年通り信長の膝の上には帰蝶がぽすんと乗っている。最近はもう悟りを開いたかのようで、観念しきった笑みである。

 秀隆も桔梗を膝の上にのせていた。傍に控える直政もひなたを膝の上にのせているが、直虎のお説教を受けていた。

「万千代殿。此度の戦で手柄を立てたそうですね。私も鼻が高いです。ですが追い首しかないとはどういうことですか。貴方は殿の先駆け大将として常に最大の武勲が求められるのです。それを忘れず油断のないよう務めるのですよ…そもそも(以下略」

 根が生真面目な直政は母の言葉を聞き続けるが、微妙にしんどそうではある。だが母への恩を何よりも感じている彼は、長々と続く説教にひたすら耐えていた。


 一方そのころ、立花宗茂と誾千代が独り身を寄せ付けない絶対障壁を築き、独り身の諸将は血の涙を流し、壁や床を殴り続けていた。誾千代は人並み外れて美しい容姿をしており、宗茂も美丈夫である。誠にお似合いに二人であったが、お互いに誤解があってすれ違っていた。だが先日互いの気持ちを確認して以後はなんというか砂糖を吐きそうなほど甘々な空間を作り上げている。

「殿、あーん」

「うむ、誾千代の給仕で食べる飯はうまいなあ」

「うふふ、殿、子供みたい」

「子供では困るな、誾千代の子であったらそなたを妻として愛でられぬ」

「あら、まだ日が高いですよ」

「だからなんじゃ? 儂はお前のことで頭が常にいっぱいじゃ」

「うふふ、うれしい。わたしもあなた様でいっぱいです。頭も、心も」

「くうううう、誾千代はかわいいなあ」

「私がかわいいと言われるなら、それは殿のおかげですよ」

「うむ、お前の魅力を完全に理解しているのは私だけじゃ!」

 などと甘々空間を作り上げていた。それにあてられた秀吉がねねえええええええええええええええっと叫んでいたのは余談である。


 そしてそんな宗茂と誾千代の姿を見て、立花、高橋の両名はがしっと手を握り合いながらお互い涙を流す。

「道雪さま、ついに、ついにうちのヘタレ息子が…」

「うむ、あのお転婆があのように女らしくなるとは」

「「まさに感無量!!」」

「あの様子では孫の顔を見る日も近いのう」

「そうですなあ。男の子が二人生まれたら、一人は立花家を、もう一人は高橋の家を継いでもらいましょうぞ」

「うむ、よき考えじゃ。先日まではそんな雰囲気でもなかったが、あ奴らをあのように幸せそうに過ごすことができるようにしていただいた大殿には感謝せねばの」

「そうですな、先ほどお話をいただいたのですが、大友家は規模を縮小するということで、直臣にならぬかというお誘いがあり、受けようと思うております」

「そうじゃのう、大友の家に義理は果たしたか」

「というかあの税の安さは異常じゃな。織田家はどれほどの金を持っているのやら」

「金があればいいというものではないですが、無いと身動き一つできませんからなあ」

「まあ、良い機会じゃったということじゃ」

「誠に」

 道雪と紹運は顔を見合わせニヤリと笑みを浮かべた。むろん大友家の義理が完全になくなったとは思っていないが、織田本家の力を目の当たりにし、織田の直臣として生きるのもよいと思い始めていた。


 島津義久と義弘の兄弟は織田の経済力、戦力を改めて目の当たりにして勝ち目はないと実感していた。そこに通りかかったのは信盛である。

「おお、貴殿が根白坂で当家の攻勢を防ぎ切った将か。あの采配は見事であった」

「佐久間信盛と申す隠居にござる。お二方の御高名はかねがね」

「あの武田を破った退き佐久間とは貴公の事であるか。これは良い知己を得た」

「いやいや、今はしがない隠居にござるよ」

 この言葉に織田の将の層の厚さに驚かされた。島津の突撃を受け止められる将が隠居であるという。なれば現役の将はどれほど手ごわいのかと畏怖の思いを改めて感じた。

 まさか自分の言葉が島津の当主兄弟を震え上がらせているとは露にも思っていない信盛であった。

ちょいとネタが弱いですが、織田家の新年会出張編だからということで

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