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乾坤一擲  作者: 響 恭也
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天正7年正月

 天正7年 正月

 信長は正式に本拠を安土に移した。美濃は信忠を国主とし、尾張は正式に秀隆が所領として封じられた。信広をはじめとした連枝衆のまとめ役も正式に押し付けられ…任されたのである。

 前年は西国戦線で大きく動きがあり、本願寺の勢力を大きく削ることができた。信長にえげつないと引きつりつつ言われた策。荒木の混乱のどさくさに紛れて、本願寺に軽い毒入りの食料を持ち込ませたのである。実際には多少腹を下す程度のものだったが、上層部が毒殺におびえはじめた。織田の間者が寺内に侵入しているとの妄想にとりつかれたのである。これにより内部の監視体制や密告が奨励され、本願寺の軍としての働きはさらに低下することになる。


 安土城で開かれた年賀の宴は例年にも増して盛大であった。連枝衆筆頭の秀隆がまず挨拶をするが、当然のように嫁を引き連れている。信長も帰蝶を飾り立て、南蛮人に教わったドレスという服を着せていた。ほかの妻たちも思い思いの出で立ちであった。


「ほえええ、あの髪飾りいくらするんじゃろうなあ」

「お前様、あたしは別に…」

「何を言うか、まあ、同じものを探すのは不敬に当たるかもしれんが、わしゃあお前のためなら全財産はたいても後悔せんぞなもし」

「お前様…明日素面になって同じセリフがいえたら褒めてあげます」

「何を言うとるんじゃ寧々よ。わしゃあお前が全てじゃからによって」

「もう、酔ってるのかねえ」

 秀吉夫妻のイチャイチャにあてられた周囲の者も桃色の空気を加速させてゆく。

「おつやああああああああああああああああああ!!」

 権六はいつも通り会場の中心で愛を叫ぶ。

「おまつううううううううううううううう!」

 利家も叫ぶ。

「アーーーーーーーッ!」

 別室から謙信の断末魔が響く。また小姓にコナをかけていたらしい。


「なあ、義兄上。噂っちゅうのは尾ひれがつくと思うておったが…」

「噂のほうが控えめじゃの…」

「というわけで、私は妻と別室に下がりますので…」

「まて、佐介、待ってくれ。儂をこの空気の中残していくのか?」

「義姉上。ここぞとばかりにやっておしまいなさい」

「ええ、佐介殿、ありがとうね。さ、瀬兵衛殿」

「ぬわ、あああああああああああ! アーーーーーーーッ!!」

 清秀は妻に首筋を掴まれて別室に消えていった。戦にかまけて妻を放置していた報いであると周囲の者は打ち震える。彼らにはにっこりとほほ笑む妻の顔が、獲物を見つけた虎に見えて仕方なかったという。


 秀隆の隣には万千代改め直政が杯を傾けていた。その隣には初恋の相手と結ばれ喜色満面のひなた姫が直政にくっついている。秀隆は附子を嚙んだかのような顔でその姿を見ていたが、二人の笑顔に次第にほだされていったようだ。とりあえず、あさひを膝の上に乗せいちゃつき始めた。

 それを見たひなたがおずおずと直政の膝の上に乗っかる。二人そろって酒の酔いとは別で顔を赤らめていた。そしてそのままじりじりと別室へ向かおうとする直政の襟首を掴んだものがいた。利益である。

「直政殿。儂から一本取るまでは祝言は許さんと殿に言われておったのはお忘れかな?」

「いやあのその。うん、ちと酔い覚ましにの?」

「ほう。あのような密室で酔いを醒ますと?」

「むむむ、なればここで決着をつけてくれよう!」

 直政がつかみかかるがそもそも体格差があり利益にはその拳は届かない。

「ほう、なればここで拙者が勝った場合は…あちらの部屋にともに入っていただこうか」

「ぐぬっ!?」

「叔父上にはさんざん相手させられましたからな。心得はありますぞ」

「っく、そんな心得は知りたくない。尻のことだけに」

「くっくっく、うまいこと言ったおつもりですかな?」

「や、やかましい。これでもくらえ!」

 直政は場当たり的に拳を繰り出す。だが利益に読まれ避けられる。そして反撃の拳が直政の顔面を捕らえようとして、飛んできた徳利が利益を直撃し、さらに尾張焼酎の濃い酒精が利益の目を焼く。

「目が! 目がああああああああああああああ!!!」

「お兄様、今です!」

「てりゃああああああああああああ!」

 直政の繰り出した前蹴りが利益の股間を貫いた。利益は悲鳴も上げられずその場で悶絶する。それを見ていた秀隆は顔面を真っ白にして瞑目した。

「そこまで」

「父上!?」

「お父様!?」

「直政の反則負けだ。まったくあの手の速さは誰に似たのか…」

「直虎お母さまです。曰く先手必勝!」

「おいいいいいいいいいいい!?」

「あら、殿、どうなさいました?」

「直虎、娘に何を教え込んでおるか!?」

「何か変なことを言いましたかしら…?」

「先手必勝とはどういうことじゃ?」

「文字どおりですよ?」

「じゃなくてっ!」

「ああ、そうそう。ひなた殿。先手必勝の教え、見事に守っておりました。夫の背中を守る妻としての役目も見事に果たしておりますね」

「はい、お母様のご指導のたまものです!」

「まてえええええええええええ!!」

「あら、だって、後手に回ったから井伊は窮地に陥ったのです。なればこそ、機を見たら逃すなと教えております」

「それがあれか? あの目つぶしになるのか?」

「非常に有効な手立てです。戦場で正々堂々もありますまい?」

「てか利益の股間潰したらあかんだろ!?どうすんだあれ?」

「んー。とりあえず嫁でも手配したらいかがでしょう?」

「問題すり替えてないか?」

「うちの万千代に手を出そうとした変質者に対しては寛大極まりないですが。何ならねじ切ってもよいのですよ?」

「それどこを!?」

「うふふふふふふふふ」

「怖い、この嫁怖い…」

「あら殿。今宵は私の番ですよ?」

「うむ。楽しみにしている」

「うふふ。可愛いですわ」

「うむ…」

 秀隆が直虎と話し込んでいる間に、直政とひなたは姿を消していた。そのことに秀隆が気付いたのは一刻後で、崩れ落ちる秀隆を妻たちが総出で慰めていたのだった。


 そういえば信長だが、帰蝶のスカートをまくろうとして抜き手も見せぬハリセンの乱舞に沈んだと追記しておく。

ノブの影がどんどん薄くなるなあ…

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