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乾坤一擲  作者: 響 恭也
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閑話 井伊万千代

「たあああああああ!」

 万千代が木刀を振り上げ裂帛の気合とともに目の前の男に切りつける。

「甘い」

 振り下ろしの斬撃はすっと外され、上から柄本を叩かれた。軽く打っただけに見えるが、手がしびれてしまい万千代は木刀をとり落とす。

「万千代は力が強い。だがその力に振り回されてるな」

「むう、もう一本です!」

「いいだろ、かかってきなさい」

「とおおおおおおおおお!」

 今度は突きを放つがそれも外され、手が伸び切った刹那を横から叩かれる。木刀が宙に舞った。

「一撃必殺が悪いとは言わんけどな、外された時のことも考えないとこうなる」

「ううう、ですが戦場では二合目はありませぬ」

「そうだな、それも正しい。だが、一対一だけしかないと誰が決めた?」

「あっ!」

「どこから敵が現れるかわからぬ。そこで一点集中して力を振るえる機会はほとんどない。むろん一心不乱に敵と戦うこともあるだろう。だが、広く視野を持ち、それこそ背後からの攻撃を捌けるほどにならねばならぬ」

「はいっ!」

 秀隆は背後の近習に目配せをする。

「さあ、もう一本だ。来い!」

「はい!」

 一直線に突進してくる。だが体ごとぶつかって来るような刺突ではなく、しっかりと足を踏みしめた状態で重心を残した動きだった。体をそらして外すが、手首を返して薙ぎ払いに変化する。そこをあえてがっしりと受け止める秀隆。そこで万千代が横に飛びのいた。

 背後から迫った近習が万千代に背後から木刀を振り下ろしたのである。

「おお、見事!」

 そこから秀隆ともう一人の近習が交互に万千代に攻撃を仕掛ける。万千代は体を捌き、常に二人が視界に入るよう立ち回り、最小限の動きで攻撃を防ぎ続けた。そのまま打ち合って最後には追い詰められるが、万千代は近習に突進し全力の攻撃で叩き伏せる。そして再び秀隆に向き合った。

「うん、合格!」

「ありがとうございます!」

「さすがにあの目配せはあからさますぎたか」

「そうですね。話の内容と合致しすぎていて、ピンときました」

「うん、それでいい。どこに手掛かりがあるかわからないからな。あらゆることに神経をとがらせるのだ」

「はい!」

「それでだ。元服を許す。諱は直政と名乗れ」

「父上の偏諱はいただけないのですか?」

「それは今後の働き次第だな。励め半人前!」

「はい!」

「あ、それと、次からは利益にお前の武術指南を任す」

「はい…って、え?」

「利益はうちでも一番の武者だからな。お前を厳しく鍛え上げてくれよう」

「は、はい…」

「あー、それと、利益から一本取るまではひなたに指一本触れることは許さん!」

「父上、本音が駄々漏れです…」

「やかましいわ! そう思うならとっとと一人前になりやがれ!」

「わかりました!」


 こうして井伊万千代改め直政は織田でも有数の猛将として名を轟かせることになる。皆朱の具足を信長に与えられ、井伊の赤備えは、山県、真田と合わせて武勇と畏怖の象徴となるのであった。

 

パパッと書いた短編

荒木村重の造反と播州混迷が次かなー

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