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乾坤一擲  作者: 響 恭也
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中国討ち入りと丹波平定

 天正6年

 織田の中国討ち入りが本格的に開始された。手取川の戦の後、秀吉は数回播磨に赴き、現地の国人から人質をとったり、官兵衛と打ち合わせをしたりと忙しく立ち働いていた。

 現地でも毛利の攻勢を小寺官兵衛が撃退するなどすでに交戦に及んでおり、先日の木津川の海戦で敗れた毛利は瀬戸内海の掌握に注力していた。制海権の保持は毛利家にとって生命線になっていたのである。また織田の侵攻を阻むため、但馬の山名氏を味方につけ、さらに播磨国内の毛利に着いた国人を扇動し、混乱を起こさせたが、官兵衛の戦勝によって阻まれる形となった。

 備後の国鞆に身を寄せた足利義昭が、将軍の権威を振りかざして織田を討伐せよと無理難題を吹っ掛けてくる。だが、毛利自身も将軍の権威の残光を利用して侵攻の大義名分としているため、ある種の共生関係と言えなくもない。

 織田派と毛利派に分かれ、混乱のさなかに羽柴筑前が手勢5000を率いて小寺官兵衛の居城、姫路に入城したのだった。

 赤松、別所、小寺などの諸氏は織田の勢力を恐れ軍門に下った。秀吉は官兵衛を伴い北上して但馬を攻め、ひと月たたず平定に成功する。但馬には小一郎秀長が入った。与力には宮部善祥坊継潤がつく。近江平定後に秀吉の家臣となったが知略に優れ、外交や調略に活躍した。

 但馬が落ちたことで丹後の一色氏も降伏した。それに伴って丹波を裏から攻めることが可能になる。戦力の分散が避けられない状況になって赤井氏が敗れた。波多野氏も亀山城に籠るが、光秀は向かい城を築いて長期戦の構えをとり、出てきた兵を鉄砲で打ち倒すことを繰り返した。ついには波多野兄弟自らが玉砕覚悟の攻勢に出てくるが、光秀の作り上げた陣地による十字砲火網に誘い込まれ、討ち取られた。

 丹波を代表する国人が軒並み敗れたことで、まずは八上城が降った。ほかの大小の豪族も光秀に降伏してゆき、ここに丹波の平定が成った。光秀はこの功を賞され、坂本に加え丹波一国を加増された。また山城の兵権を付与され、丹後に入っていた細川藤孝を与力として与えられた。細川は幕臣時代には光秀の上司であったが、ここにきて立場が逆転したこととなる。

 東国で戦っていた兵力を西に回したことで、瞬く間に3か国が織田の分国に加わった。丹波は山がちの国であるが、産物は多い。軍事的には亰を守る拠点となりうる位置関係で、光秀自身も亀山に拠点を置いた。丹波の豪族は武勇に優れた者が多い。それゆえに光秀は何度も苦杯をなめることとなったが、平定後は彼らを積極的に登用し軍備増強に努めたのである。


 安土城、信長居館にて。

「西は順調のようじゃの」

 信長と秀隆は向かい合って話し込んでいた。

「播磨は元々名門意識が強い国だけに、ちと不安が残りますが」

「秀吉にはそこを注意するように言いきかせておる」

「というか官兵衛殿は元々近江の出ゆえ、いまだよそ者扱いされているようでしてなあ」

「いっぺん根切りが必要か?」

 物騒な信長の一言にやや引きつりながら秀隆は話題の転換を図る。

「まあ、性急にやる必要はないでしょうが、混乱するとそこを毛利というか宇喜多に付け込まれそうではあります」

「あー、下手すると舅殿より質が悪そうなやつだの」

「10年前の種子島で狙撃暗殺とか何考えてるんでしょうね?」

「むしろ良く当たったと思うの」

「光秀も本圀寺で敵将を打ち落としましたが、あれ尾張筒ですからなあ」

「それはさておき」

「播磨国境の上月を修築しましょう」

「であるか」

「別所の動向も心配ですが、根切りするならば誘いをかけるのもありでしょう」

「村重を使うか」

「はい」

「播磨はそのまま秀吉に任せるが、国人どもはどうしようもない。官兵衛と黒田のみ残せ」

「なれば、別所を焚きつけることと、丹波経由で補給線を繋ぎますか」

「だの。光秀には丹波の開発と秀吉の支援を命じる」

「すぐ手配します」

「本願寺をどうする?」

 信長が話題を変える。摂津の周辺地域の平定はすなわち本願寺への戦力集中が目的だ。

「播磨灘が当家の支配下に落ちればさらに補給線は細くなります。あとは紀州ですな」

「うむ、だがかの国は鉄砲放ちの巣窟だからのう」

「まあ、かといって放置もできませんし。指揮官への狙撃を防ぐ手立てを考えます」

「ふむ、どのようにする?」

「まあ、まずは具足を兵とそろえること。馬に乗らないことあたりですかね」

「目立つなということか。いろいろと不満が出そうじゃなあ」

 兵は目立った格好をすることで自らの手柄を見逃さないようにさせる。同時に指揮官は目立つことで、兵にその存在を誇示する目的があるのだ。

「そこは仕方ありませんが、そもそも当家がまずそれやってますからねえ」

「あー、お主がな」

「なんで私のせいなんですか?」

「長島で袈裟着た坊主を狙い撃ちにしたよな?」

「はっはっは。兄上も承諾しましたから連帯責任です」

「まあ、原田備中が狙い撃ちされたのもそういうことか、因果は巡るの」

 二人そろってため息をつく。どちらにしても、ある地点から早馬や伝令が出ていることを見極められれば結果として指揮官の居場所は判明する。だが、実際に狙撃を去れるかでの時間を稼ぐことができ、その分危険は下がる。命を惜しむのではなく、無用の混乱を避けるための手立てだ。

「しかし一人だけ目立たないわけに行かない方がいますしな」

「うむ、儂じゃの」

「背格好の似た馬廻に鎧を着せますか」

「まあ、是非もなし。それで行こうか」

「ええ」

 こうして紀州攻めの段取りが組みあがってゆく。その先兵として再びちょび髭の芸人が派遣されていくのだった。


紀伊攻めは地味になりそうな…

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