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乾坤一擲  作者: 響 恭也
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閑話 ノブ、ヒデ会議ー今後の織田家ー

誰か彦太郎に突っ込んでください・・・

 飛騨の国は戦国時代、姉小路氏を乗っ取った三木氏が最大勢力を誇り、南東部を支配した江馬氏、北部を支配した内ケ島氏などが割拠していた。秀隆は南方から侵攻し、兵力にものを言わせて土豪を従え桜洞城までを制圧した。そして、下呂一帯を支配下に収め、温泉三昧を始めた。家族を呼び寄せて、嫁と風呂に入ったり子供と入ったり、焼き石を用意して蒸し風呂を使ったり。

 いまさらではあるが、先年桔梗が産み落としたのは女の子で斎藤家の三つ波頭の家紋から波姫と名付けられた。飛騨に織田の勢力が及んだことにより、西信濃の豪族が動揺を始めている。特に国境を接する木曽氏の動揺が激しいと伝わってきた。また信濃北部の真田氏が上杉と連絡を取っているとの報が伝わってくる。ここで信濃中央部にくさびを打ち込めば真田を味方に引き入れることができるかもしれない。

 などと湯につかりながら嫁を抱き寄せ鼻歌を歌っている秀隆は考えていた。そう、これは織田家の未来につながる時間なのである。

 秀隆の平穏は一月と持たなかった。小谷城を落とし戦後処理を終えた信長が、100ほどの近習を率いただけで、秀隆の逗留する下呂に現れた。

「ほう、喜六郎。儂が戦場を駆け巡っている間、そなたはゆっくりと骨休めできたようじゃの?」

「はっはっは、兄上。信濃に調略の手を伸ばしていたのですよ? 後飛騨の平定と」

「最後に兵を動かしてからひと月近く経つのう?」

「いえいえ、姉小路はすでに下りつつあります。北上して越中を突くための…」

「この地勢じゃ大軍は通行できまい。本隊を加賀から出して、敵の目先を変えたところで奇襲以外にどうしろというのじゃ?」

「ぐぬぬぬ…」

「まあ良い、儂にも浸からせよ」

 信長は衣服を脱ぎ棄て秀隆の隣に腰を下ろす。

「ぬ、おおおおおおおおぉぉぉぉ」

「兄上?」

「貴様、許しがたい。こんないいものを独り占めとか」

「あー、申し訳ありませぬ。ですが飛騨平定したら報告するつもりでしたぞ?」

「であるか。ならばよい」

「ええ」

 そうしてしばらく無言の時が過ぎる。

「のう、喜六郎。かの近習を使うは今と考えておるな?」

「ええ、太郎殿には申し訳ないと思いますが」

「ふむ、実はの。その太郎と信広兄の娘が…」

「お、おう」

「かの太郎を旗頭に、武田領の切り取りを指せる。同時に、勘九郎も東に向かわせよう」

「はい」

「あ奴らの後見は権六に任す」

「はい」

「近江はのちのち我が本拠を置く。北は秀吉、長秀に。坂本には光秀じゃ」

「越前は?」

「義弟殿に預けようと思うが、一向宗の力が強い。様子見じゃの」

「なれば、敦賀は直轄に、金ヶ崎をお預けなされ。そこであれば守りやすいかと」

「なるほどのう」

「丹羽殿は若狭を預け、長政殿の支援ですかね。もしくは入れ替えてもよいかもしれませぬ」

「むむ、一考の余地があるな…うむ」

「決まりましたか?」

「うむ、佐和山は五郎左に。若狭を義弟殿に国替えをいたす」

「あとは小谷山はちと不便にござるな。北国往還と琵琶湖の水運を生かせる場所がようござる。国友もしっかりと押さえましょう」

「いっそお主、当主やるか?」

「御冗談を。兄上以上にふさわしき方はおられませぬぞ」

「そうか…まあ良い。これからも頼りにしておる」

「ありがたき幸せにて」

「よって儂はここで湯治する。しばし采配はおぬしに任す故、畿内の戦後処理をやるように」

「は…はい??」

「とりあえず、若江に居座っておるあほ公方をなんとかせい」

「松永弾正を動かしますか?」

「よきにはからえ」

「はっ、承知しました…」

「そうそう、帰蝶と吉法師を呼び寄せねばなあ」

「ぐぬぬ、本気で休養するおつもりですか」

「信玄が死んで危機は去った。少しは骨休めさせろ」

「ああ、もうわかりましたよ。飛騨の珍味も運ばせましょう」

「ほほう、やはり持つべきは頼りになる弟じゃのう」

 信長は上機嫌で湯から上がると、秀隆の後について宿舎の中に入っていった。


 秀隆は岐阜に戻ると、帰蝶に信長の言葉を伝える。ついでに近習頭の久太郎と信長の関係を耳打ちしておいた。そのあとはどのような事態が起きたかは不明だが、帰ってきた信長がすごい目つきで秀隆を見ていたことは事実である。次のお見合いの宴で帰蝶の差し金で久太郎の周辺には若い娘が多くいたというが、結局はそれ以前から恋仲であった侍女と結ばれたという。その侍女と結ばれるきっかけは秀隆であったというが、それはまた別のお話。


 姉小路自綱が降伏し、飛騨はほぼ織田の支配下にはいった。秀隆の政策により、林業で材木は工芸品を売り、その代価として食料を買い付ける。街道を切り開き難所の工事は織田が受け持つ。などの条件をつけ、食料生産は最低限にした。これにより、飛騨は徐々に繁栄を果たす。しかし、食料の供給が終わり、美濃方面に頼ることとなり、経済植民地として依存する問題も内包していた。飛騨に貨幣経済は急速に浸透し、経済的にも織田の支配権に入り、気づいたときには姉小路氏は完全に支配下にはいる以外の選択肢がなくなっていたのである。

 

 秀隆は松永弾正を経由して三好義継に降伏を促した。だが返答は、義昭を京に戻すという要求で到底受け入れられない。事ここに至って松永弾正も義継を見捨てざるを得なくなった。摂津をはじめとした五畿内の兵が若江を取り囲む。真っ先に義昭が逃走したことで城兵の士気が下がり、内応者も出る始末で衆寡敵せず、若江城は落城し、義継は自刃して果てた。ここに栄華を誇った三好本家は滅亡したのである。

 

 長島をはじめとする一向宗の拠点では、門徒の離反が相次いでいた。織田家の税の安さと、旅芸人の彦太郎の歌が広まり、信じる者が増えれば寺と坊主が儲かる、という歌が大流行していたのである。恐るべし彦太郎。そして当然黒幕は秀隆である。門徒が離反してお布施が上がらなくなると、減った門徒をさらに絞るかのようにお布施をとる。生活ができなくなった門徒が離反する。もはや自分の足にかじりつく蛸のような有様であった。

 そして破局は唐突に訪れる。願正寺の末寺であるが、たまりかねた門徒が押し寄せ、寺を略奪した挙句火を放ったのだ。坊主は反乱を起こした門徒に破門を言い渡したが、言われた門徒が胸を張って言い返した。

「破門されても何も起きねえ。罰も当たらねえ。こいつらの言うことはまやかしじゃ! わしらは騙されていたんじゃ!」

「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」

 暴徒と化した農民は寺になだれ込み、ため込まれていた食料を奪い去った。後には首にされた坊主と、燃え上がる寺が残されていた。

 こうして願正寺の弱体化はさらに進むのであった。

 余談であるが次の彦太郎の行き先は越前のようである。

下呂温泉はいいところです。信長の時代に温泉があったかはわかりかねますが、秀隆がやらかしたということでお許しを。

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